深水柚子

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深水柚子

解像度の高い世界を必死に犬かきしています。 ◇Twitter turedure_yuzuko ◇instagram turedure_yuzukosho

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星のゆくえ

人と人とは分かり合えないという分断や対立があっても、それでも関わろうとする、その狭間に優しさは息づいている。 あなたの体験はあなたのもので私に共感は出来ても体感は出来ない。あなたの心で見聞きしたものはとてもかけがえのないものであなただけの大切な記憶だ。 もうすぐ夜が最も長くなる日。冬の夜が冷たく寂しい色を湛えていても、それを照らす星の光や暖かな灯火がすぐそばにあるかもしれない。あたたかさで、冬の成分が溶け出して広がっていく。 後悔する夜はありますか。ああしておけばよかった、

    • 夏のひかり

      曹達水の中を泳いでいきたい。クラムボンは笑ったよ、クラムボンはぷかぷか笑ったよ。名前すら与えられず消えていく何かも刹那のうちに意味を見出そうとして乱反射する。生まれてくることも消えていくこともこの世では平等に祝祭なのだ。光の遊ぶ場所。 夏のひかりはダイヤモンドより眩しい。光は何よりも煌めいている。私たちは美しいものを箱に入れておこうとする。光はどこまでも遠くへ飛んでいく。私たちの見たものは幻かもしれない。美しいものは手の中には収まらない。

      • 日記2023/04/03

        今は事情があって、自由に動ける時間がたくさんある。 初めは絶望的だった。様々なものを失って、日々が深くて暗い色に塗り込められてその中に閉じ込められて動けなくなるような感覚だった。深淵を覗き込む時に、深淵もこちらを覗いているという言葉を思い出した。誰が悪い訳でもなく、仕方がないことだった。その分、何も責めることは出来ずにやるせない思いを向ける先はどこでもなく、幸福だった時間があるから、そういう時間の中で感覚が甦ることを祈るしか無かった。 今みたいな状態にならなければ、表現を流し

        • 雨について

          雨、という種類のこの世の静寂をひとところに集めたら世界はどうなるのだろう。 雨は世界を不透明にして、形あるものの輪郭を朧げにする。一方で、すべてを洗い流して透明にするという役割を果たしている。降った後には虹がかかる。不思議な両義性。私たちは抗えない天の神。 死、というのはもったりとした雲で覆われた曇りの空から糸を織って繭をつくり、その中で眠りにつくような事象だと思う。永遠の眠り。それは恐怖の対象でもあるし、安寧や再生を意味するところもあるのかもしれない。見えないものは怖いから

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        記事

          あいまいさについて

          「あいまい」に触れれば触れるほど世界の深度は深くなる。私たちは世界の上辺しか撫でられていない。人の気持ちも、なぜ生きているのかも、理由がそもそも存在しない事象もあるけれどまだすべて(=世界)はあいまいで不透明なところは大きいと思う。 「好き」という感性の根源を辿って見えてくるのは、私は婉曲的で、秘密めいていて、輪郭が不確かなもの、に親密さを感じるということ。触れそうで触れられない。だからこそ触れたいと思うし知りたいと思うから。

          あいまいさについて

          ムーンタルト礼賛

          月には海がいくつかある。ここは"静かの海"で、クレーターに宇宙を零してムーンタルトを上梓する。 あたたかくしたバターの毛布を用意して粉雪みたいな砂糖を振るってバニラエッセンスを曲げたスプーンでひと匙たらす。 たまごの殻の中でまどろんだら月みたいな卵黄にメレンゲにレモンシロップをまぜて冬色を少し練り込んで体温を上げてベッドをつくる。 金平糖たちの寝床が出来たら一晩おく。 そうして月の欠片が出来上がったら見栄をよくする。 これは南十字星から削り取った銀箔糖。 世界の果てで作ったム

          ムーンタルト礼賛

          手紙を書いて死なない理由を紡ぐ。手を繋いで生きる。深く呼吸をする。透明な膜を張ってその中で眠る。何者にも侵させない。森の泉のほとりで音を聴く。死ぬ理由はどこにもない。生きる理由は君がそこにいるということ。ささめく森が静かに眠る時間になる。砂金の零れる指先から伝える。おやすみなさい

          手紙を書いて死なない理由を紡ぐ。手を繋いで生きる。深く呼吸をする。透明な膜を張ってその中で眠る。何者にも侵させない。森の泉のほとりで音を聴く。死ぬ理由はどこにもない。生きる理由は君がそこにいるということ。ささめく森が静かに眠る時間になる。砂金の零れる指先から伝える。おやすみなさい

          この世界って何で出来てるの

          この世界って何で出来てるの。夜は冷えた悲しみと孤独で出来てて、鋏を入れたら星が溢れ出てくるの。真昼は喜びと陽のあたたかさと光の反射で出来た素粒子の集まりで出来てて、人々は生きて笑ってるの。この世界って何なの。あなたがつくっているの。この手に溢れるほどの優しい不確かさと曖昧さ、それなら世界を私とあなたでそこを埋めて笑おうよ。光はどうして夜を照らすの。そこに孤独が存在するなら同じような哀しみを持ってきて優しく包んであげる。瞳に映る満潮みたいな月明かりを見つけたら、私が音をなくして

          この世界って何で出来てるの

          薄明るい水底を瞼を閉じて泳いで行く時は、夜が深まる時は、蕾が一斉に開く時は、柔らかな感情に触れられる時は、呼吸が浅くなる時は、 すべて間違いなく生きている

          薄明るい水底を瞼を閉じて泳いで行く時は、夜が深まる時は、蕾が一斉に開く時は、柔らかな感情に触れられる時は、呼吸が浅くなる時は、 すべて間違いなく生きている

          思考の隙間に詩の窓辺を飾る

          思考の隙間に詩の窓辺を飾る

          たゆたい⑦

          そう思ってから、私はLINEで彼とのトーク画面を開き、「お伝えしたいことがあるので、今電話させて頂いてもいいですか」と打ち込んだ。表現が固めの、恋愛に不慣れな人間の使う畏まった敬語だ。 いつもと違い、すぐに「おー!」とメッセージが返されてきた。感嘆符が付いているから、気を遣ってくれているのだろう。 もうその時点で、すべてを見透かされているようだった。 新卒で入ってきた仕事も恋愛も上手くやるやり方を知らない部下が懐いてしまって、自分に今告白しようとしている。 感嘆符は、少しでも

          たゆたい⑦

          たゆたい⑥

          私は転職を決めていた。「生徒の心を前向きに変えて、人生のサポートをしたい」という思いは、壮絶な職場環境の中で打ち砕かれた。 転職エージェントとの面談の帰り道、私はLINEで彼に連絡をとった。しばらく打っていなかったメッセージ。既読がついたまま、そのままにされたメッセージ。これ以上、彼に関わってはいけないのだと思った。同期によると「忙しすぎて埋もれてしまっている」ようだった。 私は彼に告白をしようと決めていた。 メッセージは既読無視。仕事の相談という体でとった連絡は返事はある

          たゆたい⑥

          たゆたい⑤

          それからしばらくして、私は別の教室に異動が決まった。業務量に耐えられずに体調を崩しているからもっと負荷の少ない部署に異動させてあげてほしい、という彼の計らいだった。お別れの時は部署が開いたバーベキューに誘われて、普通に顔を出した。いたって普通にその日は楽しんだ。彼は他のグループに囲まれていたので、声を一度だけかけて挨拶をして、そのあとは話さなかった。気まずさは表面的にはもう払拭されていた。 その後、教室の職員だけで開くお別れ会を彼が開いてくれた。 異動する事務のおばさん二人

          たゆたい⑤

          たゆたい④

          そんな感じで、目に見えない光を無意識のうちに発揮して振りまいてしまう人間だったので、彼の歩いた後には思いを寄せた女性たちの屍が出来た。女性たちは皆思い煩い盲目になった。 ある日、彼は言った。 「俺はふざけてるのは仮の姿で、本当は真面目なの。お前はその逆。ほんとうにバカ」 私はなんとなくわかっていた。彼がふざけたりするのは皆を楽しくさせるため。皆を笑顔にするため。皆に気を遣って、ココ壱のカレーやドーナッツをご馳走してくれたことがあって、まるで一家のお父さんみたいな一面もあった

          たゆたい④

          たゆたい③

          そんなわけで、私が彼に恋愛感情を抱き始めるのも遅くなかった。初めはただ、仕事が恐ろしいほど出来てコミュニケーション能力が高い「超人」で、いわゆるコミュニティ内のキラキラしている存在だ。自分とは全く違う種類の人間だと思っていた。 それなのに、私はうっかり足を踏み外して沼に転げ落ちてどっぷり彼の心の中に捉われてしまった。 一体、何てことだろう。 胸の奥が苦しくて動悸がすることが、こんなにも満たされて心地いいなんて。 そんなことはあってはならないと、私の心の中で警報が鳴った。前にも

          たゆたい③

          たゆたい②

          彼は私の寂しさや脆さを全て見抜いているのだと思った。言葉にせずともそういう風に接するのがとても上手な男性だった。 そして時に真っ直ぐに、正面から言葉をぶつけた。 新卒入社した会社は全国展開する学習塾で、とても仕事が忙しかった。彼は学生時代からアルバイトで塾講師をしていて、その教室の教室長を任されるほど実績も積んでいたし、だからこそ信頼されていた。その当時の彼の年齢で教室長を任されるのは異例の出世だった。いつも自信に満ち溢れ、自身でそれを自覚していても嫌味を感じさせない人柄

          たゆたい②