消失と産声


母が、桜が嫌いになった、と零した。
愛犬のリラが「桜の季節に向こう側にいく」と獣医から告げられていたからだ。
桜が半分葉桜になり花びらが吹雪いている。季節は巡っていく。命も、巡っていく。日々産声がどこかであがる。
忘れることは無いけれど薄れていく記憶。かたちをなくしても傍に居続ける存在。
季節がやがて涙を攫っていく。前へ前へと歩み始める。愛おしさや優しさはかたちを持たないけれど私たちの中で生き続ける。

2022/04/08

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