無@元町中華街
春がぱたぱたと足音を立ててやってきた。
世界は彩度を上げて光に溢れている今日。冬籠りしていた諸々のせいぶつ達が顔を覗かせる季節。
風が運んできた浮き足立つ心。すぐに夏がやってきてしまうような陽気。私もそれにつられてひょっこりと顔を出してみる。
喉を潤したくて、早まる足並み。元町中華街の駅に降り立って5分。
「無」の扉をゆっくりと開けた。
淹れ方の感性を試されているようなコーヒー。空間も時間もすべて「無」にして、存在の意識だけを際立たせるような空間。
何も考えずとも存在しているのを感じるだけ。ただただミルクとシロップのように揺蕩う意識。
氷河から削り出したような氷が溶けるまでゆっくりしていけと教えてくれている。
都会の喧騒から離れる。静かな音を何となく感じる。
隣の席では豹柄のジャケットを羽織った若者がいた。煙草をくゆらせながら、「コムデギャルソン」についてのファッショントークをしていた。
「センスがいい」とは何か、という特集をとある雑誌で見かけた。
私は"自分自身の深い部分まで知り尽くしている"ことだと思う。
隣の席にいたような青年がそれを体現してくれているとこっそり思った。
「無」から生まれるインスピレーション。休まる神経。隣の席から聞こえる「この発想天才だよね」。つい耳を傾ける。
良い空間でした。カウンター席に座るとティーカップを選べるマスターの心意気にもお茶目さを感じる。
純喫茶「無」、ぜひともこの春に。
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