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親父が破産したときの話

親父は脱サラ後に商売をトチって自己破産し、親戚にも大迷惑を掛けた人間なんだよな。おれが中学生くらいのときの話なんやけども。

当時から両親は喧嘩が絶えず今でも仲悪いんだけど、ある夜、親父の部屋から大きな物音がしたので駆けつけてみたら、泥酔の後にネクタイで首を吊ろうとして失敗した後だったらしいのな。

中坊のおれには殆どなにも出来ず「アホなことはしないでくれ」みたいなことしか声をかけられなかったんだけど、今となっては当時の親父の苦しみもなんとなくわかる。

性格上も立場上も弱音を吐けなかったんだと思う。お袋は家計上、育児上の協力者ではあったけど親父の理解者ではなかったしな。

その夜もお袋は親父のもとに駆けつけたりはしなかった。むろんお袋にはお袋なりの言い分と立場がある筈なので、一方的に悪し様に言うつもりもないのだが。

色々ふまえて、当時の親父の心境についてはやっぱり長男のおれだけでも汲んでやらなきゃいけない気がする。家族の中でいま一番立場が近いのはおれだろうし、男の重責は男にしかわからないだろうから。

ちなみに今は父母とも健在で、経済状況も豊かとはいえないが、すぐ首を括らなきゃいけないようなこともない。

今週末は父の日と母の日のお祝いを兼ねて、両親に寿司を奢ろうと思う。運転はおれがするつもりなので、親父も好きなだけ酒を飲めばいい。

だけど、最近の親父はどうやらめっきり酒が弱くなったんだよな。去年も天ぷら屋で酒を勧めたんだけど、あっという間に呂律が回らなくなっていた。

昔は相当な酒豪というか、完全にアル中だったのにな。やっぱり歳なんだろうなぁ。

(了)


お酒を飲みます