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「年収の壁」~保険料と手当と助成金と

ここ数ヵ月、ニュースで話題になっている「年収の壁」問題。
先週、それに関連する手当や助成金について、厚生労働省の詳細やQ&Aが公表されました。

現在、社会保険に加入する基準は、会社の規模等により、2つに分かれています。
時間数および収入の要件でみると……。
 
①「週の所定20時間以上かつ月収88,000円以上」
 
②「週の所定30時間以上」
 
(所定時間や日数が通常の労働者の4分の3以上)
  収入要件なし

 
それぞれの会社に勤めるパートさんたちにとって、どのように関わってくるのか?
以下、3人のケースで考えてみました。

①のケース:パートAさん、Bさん
②のケース:パートCさん

※地域により、最低賃金が異なるため、実情にそぐわない場合もあります。制度の説明のための便宜的なものなので、ご了承ください👩‍💼
 



🌱パートAさん ~これから社会保険に加入する場合は?

ある会社に勤めているAさん。かれこれ1年ほど勤務しています。
会社からは常々、
「月88,000円を超えると社会保険の加入対象です」
と注意喚起されています。
 
現在、時給950円、1ヵ月の労働時間は90時間。月収85,500円です。
88,000円の要件は満たしていないため、社会保険に加入せず、夫の扶養に入っています。それでも、毎月、ヒヤヒヤしながら、時間数に気を付けています。
ちなみに、所定労働時間は週20時間以上であるため、雇用保険には加入しています。
 
「時給1,000円にします」
 
最低賃金改定による影響もあり、時給をUPさせることを会社が宣言しました。
「嬉しい!」
本来ならば跳び上がって喜ぶところでしょうが……。
「待って……」
Aさんは考えこみました。

時給1,000円で、現在と同じ月90時間働いたら、月収90,000円。
88,000円以上となり、
「社会保険に加入しなければならなくなる!」
会社からも、今後について意向を確認されたAさん。帰宅後、夫のZさんに相談しました。

「時間を減らそうかしら? ただ、減らすとなると、今度は雇用保険を抜けなければならないし」
雇用保険の要件、「週20時間以上」がひっかかってくるおそれがあります。ギリギリ何とかしのいだとしても、今後も時給が上がることは考えられ、雇用保険に加入していられるのは時間の問題と思われます。

毎月の給与で数百円程度でも控除されてきた雇用保険料。
「ここで抜けるのは、もったいない気がする」
だからといって、退職をするつもりもありません。現在の仕事にやりがいを感じているAさん。
「別に扶養を抜けてもいいよ」とのZさんの言葉もあり、考え抜いた挙句、社会保険加入の道を選びました。
 
Aさんの決断を後押ししたのには、もう1つ理由があります。
手取金額を減らさないよう、会社が2年間だけ手当を支給するというのです。
 
便宜的に、社会保険料の金額を15%と設定して計算すると、Aさんの給与は、
 
基本給   90,000円
社会保険料▲13,500円
手取金額  76,500円
 
いくら時給が上がったとはいえ、手取り金額が現在の85,500円よりも減ってしまいます。

一方、社会保険料を補う手当(「社会保険適用促進手当」と呼びますが、以後、ここでは「社保手当」と省略します)が支給されるとどうなるでしょうか?
 
基本給   90,000円
社保手当  13,500円
社会保険料▲13,500円
手取金額  90,000円
 
もちろん、手取金額が減ることはありません。
 
この社保手当、もう1つ意味があります。
本来ならば、手当の類は社会保険料を計算するうえでの基礎額となり、せっかく支給しても、その分、社会保険料も上がる可能性があります。
つまり、
 
基本給   90,000円
社保手当  13,500円
社会保険料▲15,525円
手取金額  87,975円
 
社会保険料が増えて、手取額が少し減っているのがお分かりでしょうか。
しかし、この社保手当だけは、社会保険料算定の基礎に含まれない扱いを受けられます。
 
基本給   90,000円
社保手当  13,500円
社会保険料▲13,500円
手取金額  90,000円
 
手取金額を減らさないようにというためです。ただし、最大2年間という期間限定的なものです。
 
また、注意したいのは、あくまでも社会保険料に限ったものであるということです。税金や雇用保険料に関しては、手当の増加に伴い影響を受けることがあります。
 
逆に、会社側の立場から見てみると、何かメリットはあるのでしょうか?

会社は、従業員の社保手当を支給することで、助成金を受けられる可能性があります。
ニュースでもよく言われていました。「1人あたり50万円支給」というものです。
詳しい要件や計算は省きますが、支給した社保手当を賄うことができるかもしれません。ただし、保険料の会社負担分は生じますので、人件費自体は増える計算になります。
なお、社保手当について会社が支給するか否かは、会社の決めることです。義務ではありません。
 

🌳パートBさん ~すでに社会保険に加入している場合は?

「それって、何かおかしいんじゃないの?」
Aさんと同じ会社で働いているBさん。Aさんと同じ、月90時間ほど働いていますが、すでに社会保険には加入しています。
入社は1年ほど早く、仕事内容も異なるため、時給は以前から1,000円。88,000円をとうに超えてしまっているためです。

Bさんの給与は単純に、このような状況です。
 
基本給   90,000円
社会保険料▲13,500円
手取金額  76,500円

新しく社会保険に加入したAさんは、以下のとおりでした。

基本給   90,000円
社保手当  13,500円
社会保険料▲13,500円
手取金額  90,000円

すでに加入しているBさんは手取額が低い。不公平なことです。
 
そこで、会社はBさんのように、すでに社会保険に加入しているパートさんにも、社保手当を支給することにしました(厚労省のQ&Aでは、「望ましい」とされています)。
また、この社保手当は、Aさんの場合同様、最大2年間まで、社会保険料の計算対象外です。
つまり、
 
基本給   90,000円
社保手当  13,500円
社会保険料▲13,500円
手取金額  90,000円
 
BさんもAさんと同じ水準で計算されます。
不公平感はなくなりました。
 
ただし、会社側は、Bさんに関する助成金は申請できません。
令和5年10月より前に社会保険に加入しているパートさんについては、いくら社保手当を支給しても、助成金の対象外です。
社保手当は完全、持ち出しです。痛いところでしょうが、社内の調和を保ち、長くパートさんに勤めてもらうにはやむを得ないかもしれません。

ちなみに、いったん社保手当を支給してしまうと、途中で支給なしに変えられないのでしょうか?
あらかじめ就業規則等に規定しておけば、2年間のみの時限的な扱いとできます。
 

🌸パートCさん ~小さな会社に勤めています

一方、Aさんのお友達のCさんは、別の会社に勤めています。
Aさん、Bさんの会社ほどには従業員数が多くなく、
「月収88,000円」
などの縛りはありません。
社会保険加入の基準は、「所定労働時間:週30時間以上」であることです。
 
さて、Cさんは、現在、時給1,000円、月100時間勤務、月収10万円です。
週20時間以上30時間未満であるため、雇用保険には加入し、社会保険は扶養に入っています。
 
「もう少し、時間を増やせませんか?」

仕事量の増大に伴い、会社から打診されたCさん。家族と相談のうえ、扶養を抜けて、社会保険加入を決めました。
時間数は月140時間に増加。
給与額は、社会保険料だけ考えると、
 
基本給   140,000円
社会保険料▲21,000円
手取金額  119,000円
 
「時間数を増やした割には、手取りはそれほど増えないなあ」
仕方ないか……と半ばあきらめていたCさん。
そんなとき、Aさんから社保手当のことを聞き、会社の担当者に尋ねてみることにしました。

「社会保険の何とかいう手当を支給されれば、社会保険料の計算対象には含まれないようですよ。それだけ、会社負担分も減らすことができますよね?」
「それがね……、うちの会社の場合は、その扱いはできないんだよね」
「え? どういうことですか?」

社保手当を社会保険料の計算対象外とできるのは、月収(厳密には「標準報酬月額」と言います)104,000円以下の方のみ。
時給1,000円で換算すると、月104時間以下になります。

Cさんの会社では、週30時間以上で社会保険加入となるため、そもそも月104時間では社会保険に加入もできないのです。

社保手当を支給するかしないかは会社の自由ですが、Cさんの場合、支給されても、通常の手当と同様、社会保険料の計算対象に含まれます。
 
一方、助成金は? 
Cさんに社保手当が支給されれば、Aさんの会社と同じように、会社は助成金を受けて、手当を賄うことができないのでしょうか?
やはり、この助成金も月104,000円以下が対象となるので、要件を満たしていませんということになります。
しかし、別の助成金が存在します。労働時間数を増やすことで、社会保険に加入した場合に申請できうる助成金があります。そちらの可能性は残っています。
 
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長々の説明となりました。
現時点での情報によりまとめましたが、今後、変更が生じた場合は、直していく予定です👩‍💼

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