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推しの子 考察 なぜ星野アイの死は読者の脳を焼き尽くしてしまうのか、そのメカニズムに迫る

※対象年齢18歳以上推奨



一言で言ってしまえば
生物としてのメカニズムを巧みに利用し
寝取られ→去勢→乗っ取り→喪失→復讐
という感情のジェットコースターに乗せられるためである
以下に細かく解説していく

寝取られ

ゴローとさりなの推しの子である星野アイが妊娠して病院にやって来る所から物語は始まる
ここで読者は主人公として感情移入していたゴローの感情と同じように推しのアイドルが他の男とやっていたという事実を知り驚愕する、アイドルとファンの関係とは疑似恋愛であるからして、裏切られた、寝取られたという機序が発生する

「寝取られ」とはマゾヒズムの一種であるが、非常に人気の高いジャンルである
それは何故か
逆に考えれば寝取られで興奮できず、勃たなかった男は進化の過程で種を残せず、死んでいったからに他ならない
「寝取られた」という事実に対して奮起し、新たに種を残さねば成らないという生命としての義務から我々は興奮せざるを得ない
人間のメカニズムを巧みに利用したシチュエーションなのである


去勢

アイから「アイドルと母親両方の幸せを目指す」という旨が伝えられる
通常、叶えられるのは常識的に考えれば一つである
そしてその一つを選んだ時点でアイドル、母親どちらかの責任を放棄すると言うことに他ならない
「自分の夢のために子供の命を捨てるアイ」
「子供の為とはいえ推してくれたファンの思いと自分の夢を捨てるアイ」

そんな星野アイを推せるだろうか?答えはノーだ

どちらも現実的であるが「現実的」であるが故にどちらの選択肢も読者に何のタクティカルアドバンテージも与えない




「アイドルにとって嘘は愛」「私達にも心と人生がある」
嘘のアイドルを楽しんでいた人にとっては罪悪感が湧くセリフである
そんなつもりはなかったが自分達が自分達の理想である嘘のアイドルを推していた性で人知れずアイドルは苦しんでいたかも知れないのだ
にも関わらず裏切れた、寝取られたと感じていた自分達を恥じ入り、罪悪感を抱くフェーズである

しかしそのうえで「両方手に入れる」という決意は
嘘のアイドルとしてではなく、素の星野アイの意思の開示であり、どちらの責任も放棄せず、現実という巨大な敵に屈せず、針を通すような小さな突破口を求めて足掻き、理想に辿り着こうとする意思の現れである
これをバカにすることはできない

去勢の決意の瞬間

星野アイの意思を尊重する以上、アイとの疑似恋愛は終了である
つまりアイとの性交を求めない以上それは事実上の去勢である
疑似恋愛とは言え恋人を寝取られ、その上で理性によって去勢しアイの幸せを願い続ける存在

つまり

奴隷(ファン)
かなり強い言葉だがその言葉がしっくり来る存在である
星野アイを神聖化し性欲に囚われない、ある意味親愛、家族愛に変化した状態でもある
そして今度こそ嘘のアイドルとしての星野アイではなく、罪悪感なく素の星野アイを悪い所を知った上で推せるのだ

またコミュニケーションにおいても自己開示は非常に大切である事が如実にわかるシーンでもある
人間は良い所ばかりではないのは皆当然知っているので、良い事ばかり言う人は信頼されない、弱点である悪い所も提示できて初めて相互理解が進むのだ
さらに「相手がここまで話してくれたのだから、自分も」という返報性も利用している

乗っ取り

ゴローは殺され、星野アイの息子として転生する
そして敵(父親)は眼の前にいない
星野アイは自分に愛を注いでくれる
この状態は托卵とも違い、まさに乗っ取りと言う他無い
転生と片親という条件でのみ満たされる天国だ
母親と息子という関係であるため、性欲は満たせないが既に星野アイを神聖化し、去勢という覚悟が済んだ奴隷であるため問題はない
既に星野アイという存在に自分の精を吐き出すという行為はもはや星野アイの意志を尊重する以上は汚れであり嫌悪感を感じる悪行なのだ


貢ぐことでしか愛を貰えない奴隷(ファン)になる覚悟をしていた身からすればまさに僥倖である

星野アイの奴隷であっても星野アイの夫の奴隷でない
眼の前にしたら生物としてどうしても嫌悪感を感じ納得しきれない部分が綺麗に切除されている

一度、諦めたものが再び手に入った瞬間である


喪失

星野アイの死亡により、楽園は終わりを告げる

相当の覚悟をして諦めたものが再び手に入り、また手からこぼれ落ちていく

まさに感情のジェットコースターである
心理学的にはゲインロス効果と言うらしい

https://successbeginstoday.org/topics/41/
より

そして殺されるタイミングもアイドルしての幸せであるドーム公演直前であり
母親としての幸せも最後の瞬間に手に入れるが享受するのはまさにこれからといった瞬間に殺されるのである
アイの意志を尊重するために去勢し奴隷になった身分として耐え難い苦痛であると同時に「アイの意思を尊重する」という自分の奴隷としての意思と意味が無に帰った瞬間でもある
尽くすべき相手はもはやおらず
奴隷の自分にはもう何も残ってはいないのだ

復讐

ここで都合よく父親の存在が倒すべき敵として現れる
もとより奴隷として、雄として、生物として受け入れられない存在が敵になってくれたのだ
何も残ってない奴隷の尊厳であり矜持として最後の推し活としてこれほどベストなターゲットは他にないだろう

フロイトの提唱するエディプスコンプレックスを捨て去り、他の女性を探しに行くことが出来なかったため超自我が形成されず、最後は死を求めていることも死による母との再融合を求めている胎内回帰願望の表れとも見て取れる


まとめ


このように生物のメカニズムを巧みに利用し、推しの子を通して読者は星野アイという存在の喪失と享受を繰り返した結果、ゲインロス効果によって感情がジェットコースターの様になり最高点で喪失したことで自分の中の星野アイの価値がストップ高のまま残り続け、またもう一度手に入れたいと思ってるがそれがどうしてもできないため、星野アイの奴隷の最後の矜持として復讐を遂げるために作品を最後まで見る必要に駆られるのだ
そしてよく考えれば星野アイの情報はあまりにも開示されていない
そういったミステリアスな部分も彼女の魅力と言えるだろう

・何故殺されたのか

・何故妊娠したのか

・父親は誰なのか

・本当の星野アイとは

等の疑問に近づいていき最後は15年の嘘という映画で
全てのピースが埋まるだろう
つまるところ最後まで「推しの子」という作品は星野アイを中心に最後まで回っていくのである
星野アイという存在は読者にとって強力なフックであり掛かってしまえば最後まで見ざるを得ない呪いのようなものであり
一度脳を焼かれてしまえば推しの子を見ている限り焼かれ続ける運命にある非常に業の深い存在であると言えるだろう
商業的に成功しているのも、このように生物としての感情メカニズムを精巧に理解し巧みに利用しているからである


補足


最初は違和感があったが慣れるとやたらと目を引く


星の目という書き方も読者の目を引く書き方である
目は口ほどに物を言うと言われるほど目から得られる情報量は多いのだ
漫画やアニメで目が大きくなりがちなのはその情報量を補うためだと言う説もあり、絵を教えるユーチューバー曰く目だけは解像度を上げてしっかり書いてくれと念を押す程である
この他のキャラとの差異も星野アイに脳を焼かれる原因と言えるだろう

また、星野アイは18禁絵が非常に少ない
アニメ1話が放映されアイロスによって大量に星野アイの絵が投稿され推しの子主要キャラクターの中では一番の作品数を誇るがその中で18禁絵は一割に満たない
これは「推しでは抜けない」「ガチ恋だと抜けない」というオタクあるあるである
好感度が一定数に達すると神聖視してしまい、自分という存在すら邪魔になるのである
そして去勢し幸せだけを願う奴隷になる
まさにその証拠と言えるだろう

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