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【詩の森】622 皆既日食

皆既日食
 
米国で観測された皆既日食の際
動物園のキリンが慌てて
ねぐらに戻っていったと
夜のニュースが伝えていた
暗くなれば眠る―――
人間も昔はそうだったに違いない
 
北米に住むアーミッシュは
商用電源の使用をこばみ
移民当時のスタイルのまま
農業と牧畜で暮らしているという
アナバプテストという宗派に属する
キリスト教徒の人々である
 
日本も江戸時代までは
不定時法といって
昼と夜を其々六等分する時制を使っていた
太陽が暮しのリズムを決める点では
キリンと大差なかった
のかもしれない
 
夜行性でもないのに
夜に活動しているのは
あらゆる生き物の中でも人間だけだろう
日本列島の衛星写真を見ると
大都市を中心に
人工の光が広がっている
 
脳の命令に体が服従する時代―――
体の声を真摯に聞く人は滅多にいないだろう
効率・利益・生産性
脳の価値観が体を蝕んでいる
こんな歪んだ時代が
いつまで続くのだろうか
 
たった数分間の日食の間
オフィスで働く人々は素知らぬ顔で
キーボードを打ち続けていたことだろう
脳化社会――
すでに僕らはすっかり脳の支配下に
置かれている
 
LAWSと呼ばれるAIによる
自律型致死兵器システムが開発されているそうだ
それが本物の法律にならなければいいのだが―――
脳は先走り――僕らの体は
安全な食料も水も空気さえも
奪われたままなのだ!
 
2024.4.14

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