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【詩の森】607 いい時間

いい時間
 
時間は無尽蔵にあると
江戸人のようには到底思えないのは
僕らがいつも
命令状態にあるからではないだろうか
それを隠れた指令あるいは
プログラムと呼んでもいいかもしれない
このmustの社会では
効率が絶対的価値であり利益はその成果である
サラリーマンの僕にとって
経済至上主義こそ神だったのだ
 
杉浦日向子さんは
『お江戸の水と緑』というエッセーの中で
江戸人にとってのいい時間とは
感動を伴う時間のことだと書いている
「ああ、おいしかった」とか
「ああ、嬉しかった、面白かった」
という時間のことだと―――
そして
何も感じなかった時間は
止まっているのも同然だというのだ
 
それで僕ははたと思いあたった
現役時代
忙しくて俳句が一つもできないときは
江戸人風にいえば
いい時間じゃなかったからだと―――
僕はひと月もの間
心を動かすことなく
いったい何をしていたのだろう
納期という時間の節目に
追われていただけなのだろうか
 
自然の時間は無尽蔵なのに
僕らにはいつも時間がない
江戸から150年
僕らはおそらく
明治五年のグレゴリオ暦採用に始まる
人工の時間の中にいるのだろう
地球環境を変えるほど忙しく立ち働いて
僕らはいつになったら
江戸人のいう「いい時間」に
巡りあえるのだろうか
 
2024.3.8
 

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