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カーペンターズ「NOW & THEN」

僕は常々、カーペンターズはベストアルバムだけではなくフルアルバムで味わうべきだと思っておりました。そう考えるようになったきっかけは、彼らの「NOW & THEN」というアルバムです。今回はこのアルバムについての記事です。

発表は1973年。おそらく僕が生まれて初めて目にした「外国のレコード」だと思います。10歳年上の姉がカーペンターズの大ファンだったのです。

まずトップ画像に上げたジャケットをご覧ください。こちらはもともとLPレコードサイズの3面見開きです。真っ白の家に鮮やかな赤の自動車のイラストが、強烈な印象で残っています。本当に綺麗で、幼い僕には「アメリカという夢のような風景の国があるんだ」と思えました。

このアルバムは、1曲目と6曲目(おそらくA面最後の曲)に彼らの代表曲が収録されています。「Sing」と「Yesterday Once More」です。

それ以外はカバー曲で構成されています。収録曲のオリジナルを列挙すると、おおよそこんな感じです。

ハンク・ウィリアムズ「Jambalaya」(1952)
ビーチ・ボーイズ「Fun Fun Fun」(1964)
スキータ・デイヴィス「The End of the World」(1962)
ジャン&ディーン「Dead Man's Curve」(1964)
シェリー・フェブレー「Johnny Angel」(1962)
ルビー&ザ・ロマンティックス「Our Day Will Come」(1963)
シフォンズ「One Fine Day」(1963)

カントリーを含めアメリカン・ポップスの名曲を時にはメドレーでつなぎ、曲の間にはラジオのクイズ・ショウみたいな寸劇も入ります。

10代の僕にとって50年代〜60年代前半のアメリカン・ポップスの入り口になったのはこのアルバムなのですが、サイケデリック期のビートルズを知りさらにレッド・ツェッペリンを聴くようになった時期でもありましたので、「ちょっと保守的だな」という感想も持ちました。

しかしある日ふと気づいたのです。このアルバムは保守的どころか強いコンセプトを持ったトータル・アルバムではないだろうかと。

「自分たちが親しんできたアメリカン・ポップスをもう一度見直してみましょうよ」というメッセージを感じたのです。もっとはっきり言えば、「ビートルズにめちゃくちゃに塗り替えられる前のアメリカン・ミュージック」です。

時は1973年です。フラワー・ムーブメントも沈静化し、過激なサイケデリック・ミュージックの波もすでに過ぎ去っていました。その後で懐かしいアメリカン・ミュージックを振り返る気分が起こったとしても、不思議ではありません。

そう考えると、夢の国のような美しいジャケットのイラストも、実は「美しい思い出の中のアメリカの街景色」だったのかもしれませんね。

A面最後の「Yesterday Once More」という曲は、このアルバムの中にあってこそ本当の意味を持つのだと僕は思います。

若い頃ラジオをずっと聴いていたものだった
お気に入りの曲を心待ちにしながら
流れてくれば一緒に口ずさみ、笑顔になれた

"Yesterday Once More", Richard Carpenter and John Bettis

アルバムB面のメドレーは、当時のラジオの雰囲気を再現したものなのでしょう。そしてアルバムの最後にも「Yesterday Once More」はリプリーズの形で繰り返されます。

冒頭に「カーペンターズはベストアルバムだけではなくフルアルバムで味わうべきだ」と書いたのは、このような体験があったからでした。

これは僕の個人的な感想で、どこかの音楽ライターが言っていたとかそういうものではないのですが、「NOW & THEN」という素晴らしいトータル・アルバムをカーペンターズが発表していたのだということだけでも知っていただければ幸いです。


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