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0歳児、はじめてのおまつり


主人が有給をとると言う。

平日だし、せっかくだからと調べて、ちょっと遠くのお祭りへ行くことにした。

7月7日、七夕のお祭りだ。


仙台の七夕の記憶


「七夕をお祝いしたことってないかも」

電車を乗り継いで、最寄り駅から祭りの公園へと向かう途中、主人は言った。

確かにクリスマスやお正月と比べると、影が薄い。
駅に笹の葉が飾ってあって、そばのテーブルに『ご自由にお書きください』という張り紙と、色とりどりのペンがあって、興味を示した子供たちが思い思いに願いを書く。そんな子供たちを見て「そうか、七夕か」とぼんやりと思い出すけれど、改札を通り過ぎる頃には忘れてしまう。そのくらいの存在。



だけど、子供の頃の七夕は、一大イベントだった。

自分は宮城県出身だ。
8月に祖母の家に帰ると、仙台駅前の商店街に見事な七夕飾りが吊るされるのだ。鞠のような飾りの下に、長い長い紙が何重にも重なって、床まで伸びている。それが何メートルにも飾られている。子供の時は飾りを使って、いとこと隠れんぼをしていた。

「七夕なのに、どうして8月にやるの?」と聞いたら、母は「旧暦だからよ」と答えた。

旧暦の意味がわかる頃には、8月に祖母の家に帰ることはなくなった。そして七夕祭りは、遠い記憶になってしまった。


見慣れない瓶ビール


お祭りは思ったよりも、こじんまりとしていた。

屋台が数店舗。店には笹の葉が飾られている。
『世界が平和になりますように』と書かれた願いが目に入る。字体からして、おそらく子供だろう。殊勝な子供もいるものだ。

店舗の数に対して、人が多いからか、どこも長蛇の列だ。

主人には、ベビーカーに乗せた息子と共にベンチで待ってもらい、私は屋台を物色する。

夏の18時、まだ完全な暗闇ではない。
夜がそこまで忍びこもうとしていた。

歩いているだけで汗が出るほど、蒸し暑い。むわっとした空気を吸っていると、ビールが飲みたくなる。

「クラフトビール」と書かれた店を見つけ、長蛇の列に並ぶ。すると見慣れない瓶が並んだ店が横目に入った。

今並んでいる店より、薄暗い。女の人がテーブルで何かを書いている。誰も並んでいないし、閉店したのかな?と思いながら、今並んでいる店の列を見た。30分はかかりそうだ。

意を決して「ここ、ビール売ってますか」と聞いたら、女の人はぱっと顔をあげて、「売ってますよ!」と答えた。

「ラッキー!」とPayPayで支払い、瓶ビールを受け取った。

パステルカラーの地層のような絵が描かれている。どうやら埼玉県小川町のビールらしい。

ベンチに座っている主人を見つけて、さっそくビールを飲んだ。
苦味が少なく、爽やかなビールだった。やはり夏の夜に飲むビールはいい。

このために私は母乳とミルクの混合にしたのだ。友人に言ったら呆れられたけど。


久々の祭りの雰囲気


あたりが暗くなったころ、祭りのイベントがはじまった。

水上ステージで、男の人が歌っている。それを聞きながら、私たちは駅へと向かった。
イベントが終われば、たくさんの人が駅へと向かうだろう。その中でベビーカーを押せるほど、私たちは熟練した技を持っていない。

帰りの途中、屋台で並ぶ人たちがいた。

思わず、カメラを構えて、シャッターを切って、少しだけ泣きそうになった。



夏の夜の下、調理する煙が空にただよい、焼きそばの匂いがした。子供も、大人も、男性も、女性も、いろんな人がいた。話す言葉が、波のように寄せては引いていった。

この感じ、久しぶりだなぁ。

今年は全国的に、祭りが復活した。「4年ぶりに」という言葉は、その空白の期間への切なさを伴う。同時に、「やっと、やっとだ」という喜びを表しているように見える。

「今年はいろんなお祭りに行きたいねぇ」とベビーカーですやすや眠る息子に話しかける。
夏のはじまりを告げるような日、とても良い思い出になった。





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