「あ、明日で30だ」

スマホのカレンダーアプリを見て気づいた。
誕生日って大学生の頃までは、1週間くらい前からそわそわしながら、待ちわびるものだった。だけどいつからか、「あ、誕生日か」と思い出すくらいの出来事になってしまった。

今日は、20代最後の日である。

そう思うと、何かやらなきゃという使命感というか、特別なことをやればよかったという後悔というか、悪あがきみたいな感情が湧いてきた。

5分ほど、やりたいこと、行きたいところを考えたが何も浮かばない。

あるにはあるが、当日「じゃ、行こう」と気軽に行ける類のものではなかった。自分が単身ならまだしも、今は0歳児のテン様がいる。今は布団に寝転びながら、「あ〜う〜あ〜」と自作の歌みたいなのを発している。

とりあえず洗濯をして、コーヒーを飲みながらnoteを少し書いて、テン様に離乳食をあげて、床に散らばった米粒を掃除をした。窓の外に目を向けると、太陽が昇りきっていた。

こうして、20代最後の朝が終わった。

今日は涼しかったので、テン様をベビーカーに乗せて散歩をした。
途中で図書館に寄って、子育て本と川上弘美のエッセイを借りた。

エレベーターで一緒になったおばあさんに「大きなあんよね〜」とテン様が褒められる。誇らしい気持ちで小さく微笑む。

西松屋にも寄って、赤ちゃん用エリアで遊ばせていると、別の赤ちゃんがやってきた。赤ちゃんを連れてきたパパさんと目があって会釈をする。
赤ちゃんはテン様と同じくらいの月齢で、おすわりしながら、まんまるおめめで見つめている。テン様はおすわり赤ちゃんに笑いかけた。君、私より愛想がいいな。

最後に家の近くのスーパーに寄って、惣菜の天ぷら盛り合わせとビールを買った。

家に到着して、テン様を抱き上げて、ベビーサークル内に置いた。「なんで置くんだあぁあ」と言わんばかりに泣かれたので、抱っこして、母乳をあげる。再び寝かすと、お腹いっぱいで満足したのか、はらぺこあおむしのぬいぐるみと遊びはじめた。

玄関に戻って、スーパーの袋を持ってきた。テーブルに置いて、ふっと息を吐く。カーテンから透ける光が、幾分かやわらかくなっていた。

こうして、20代最後の昼が終わった。

天ぷらをお皿に乗せてトースターで焼く。その間に、めんつゆ・醤油・砂糖・水を適当に混ぜ合わせて、30秒ほどチンした。天つゆと入れ替えるように、冷凍ご飯を温める。
100gか200gか迷ったが、「明日誕生日だし」と大義名分を得たので、200gにした。

電子レンジが鳴って、湯気で熱くなったラップを剥がして、どんぶりにご飯を入れた。焼いた天ぷらを飾り、上からたっぷりと天つゆをかけた。

野球のデーゲームを見ながら天丼を食べる。やはりエビが一番おいしかった。次点でイカ。天つゆはちょっと甘めで、さつまいもの甘みと少しケンカしていたのが唯一の後悔ポイントだった。

口内に残った油を、ビールで流し込む。最高においしい。あっという間に食べ切ってしまった。
野球を見終えて（推し球団は負けた）、ベランダに出て、洗濯物を取り込んだ。ビルの向こう側に夕日が沈もうとしている。

こうして、20代最後の夕方が終わった。

テン様をお風呂に入れて、ミルクを飲ませた。最近は、真っ暗な寝室でミルクを飲ましている。こうするとよく眠ってくれるのだ。

200ccを飲み干すには時間がかかるため、ミルクをあげながらタブレットでドラマを見る。

江口のりこが1人でアフターヌーンティーを楽しむシーンが流れる。「そういえば私も椿山荘でアフターヌーンティーをしたなぁ」と記憶がフラッシュバックした。
なんで行ったんだっけ、誰と行ったんだっけ、なにを食べたっけ、記憶を探ったがほとんど覚えていなかった。ただ庭園で見た花嫁さんの、内側から発光するような美しさは、やけに覚えていた。

ミルクを一気飲みして、全身脱力したテン様を、そっと置く。しのび足で寝室を出て、アレクサにお願いをして、ラジオを流してもらった。

旅行へ行きたい40代女性からのリクエスト。
米米CLUBの浪漫飛行が流れる。

シンクに溜まったお皿を洗って、洗濯物を畳んで片づけて、テン様がいた布団シーツを替えたり、おもちゃを片づけた。
一通りの家事が終わり、デカフェのコーヒーを淹れて、このnoteを書いている。

主人が帰ってきたので、歯磨きしながら今日のテン様の話をして、仕事の話を聞いた。

風呂へ行く主人の背中に、おやすみを言い、寝室へ向かう。バンザイの姿で寝るテン様の寝息を聞きながら、お気に入りのタオルケットに身を包んだ。

すぐにやってきた睡魔にまどろみながら考える。
もし再び、今日の朝に戻ったら何をするだろう。たぶん、同じ1日を過ごすだろうなと思った。

こうして、20代最後の1日が終わった。良い日だった。