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「”ODDらしさ”が見えたことで、良い意味で自分たち向けに製作できた」ODD Foot Works『Qualification 4 Files』

コロナ禍は音楽シーンの次世代を担うODD Foot Worksにも降り掛かった。しかし、その2020年を締めくくるように新作「Qualification 4 Files」をリリースし、彼らは新たな希望をリスナーに届ける。

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取材&文/高木”JET”晋一郎 撮影/横山マサト


ーー昨年末にDJ/コーラスのFanamo'が脱退し、ODD Foot  Works(以下ODD)は今年からPecori(RAP)、Tondenhey(Gt)、SunBalkan(Bs)の3人体制として再始動しました。しかし、コロナ禍によって思うような活動は今年は出来なかったと思うし、リスナーとしてもそれは仕方がないとはいえ、すごく残念で、歯がゆく思うことも正直あって。

SunBalkan(以下S):実際、12月までライブは2回しか出来なかったですからね。だから、体制が変わったことによる、パフォーマンス的な変化はまだ実感がないんだけど、心境的な変化は大きくて。

Pecori(以下P):コミュニケーションの時間を意識的に増やしたのは大きいよね。ライブが無いから会う機会も減ってしまってたんだけど、そうすると勘ぐったりネガティヴな意識が無意味に増えちゃったりするから、とりあえず1週間に一度は会うっていう、顔を合わせる時間を作ったんですよね。特に話題は無くても、とにかく会って小ネタだけでも話そう、みたいな。

S:ただ、回数が増えてくと話題もホントに尽きて、みんな早く帰りたがりはじめて(笑)。

Tondenhey(以下T):マネージャーの三宅(正一)さんに「もう帰っていいすか?」ってPecoriがめっちゃ訊いてた(笑)。

P:嫌ではないんだけど、話すことがマジで無くなったから(笑)。ただ、今年は自主レーベルを立ち上げて活動するっていうのは決まってたし、そのために意思統一をちゃんとはかる必要性もあって。やっぱり自分たちで切り盛りするからには、もっと細かく、具体的な部分まで意識をシェアしないといけないっていう現実もあったんで、膝を突き合わせる時間は必要でしたね。

S:それによって、よりメンバーがお互いを頼れるようになった感触はありますね。それぞれの良い部分を引き出そうっていう意識が強くなったし、それは楽曲の制作についても勿論そうで。だからいまはめちゃくちゃいい感じです。

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ーー昨年のクリスマスには「Angel」、今年の5月には予定されていた東京・LIQUIDROOMワンマンと大阪・味園ユニバースの中止を受けてフリーマガジンと「HAPPY MAIL」のフリーシェアがありましたね。

P:僕らはバンドだけど、自粛期間でも家で曲は作れたんで。

T:それに、曲作りが精神安定剤になったっていう部分はある。

S:うん。収入がぜんぜん無くなった時にも、曲作りで精神安定させてた(笑)。

P:ライブが全然出来ない状況のときに、Tondenheyがちょっと躁鬱入って。 

T:そうかな。

P:……っていう返しだと「躁かな」と、同意の「そうかな」でややこしくなるんだけど(笑)。

T:ちょっとおかしくなってたと思うんですよね。それは僕だけじゃなくて、道ばたの猫とかも。

S:猫!?(笑)。

T:やっぱりみんな振り回されちゃったと思うし、それの雰囲気が野良猫にも伝わってたと思う(笑)。僕もいろんな事柄を変な風に感受性がキャッチしちゃうって感じがあって、ちょっと精神的に不安定になってしまってましたね。

S:でも、それを曲作りを通してどうにかコントロールしてたかも知れないね。だから「音楽に向かう」っていう行為を止めなかったのは良かったなと。

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ーー一方で、ODDの活動と並行して、TondenheyくんはTaishi Satoとのユニット:ZATTAや、「Leeloo」をはじめAAAMYYYの楽曲レコーディングへの参加、SunBalkanくんはインストバンド:1inamillionでの活動、Pecoriくんは赤い公園「chiffon girl feat. Pecori(ODD Foot Works)」、[Alexandros]「city(feat. Pecori)」、オカモトショウ「CULT feat. Pecori」、imai「Twilight feat.Pecori」などの客演仕事と、外部活動は活発だった印象があります。

P:それも良かったんですよね。それぞれが動いてるから、ODDもリリースは少ないけど、やってる感は出てたっていうか(笑)。

T:ただ、外部活動を活発にしようって感じでは無かったんですよ。ZATTAでリリースした「ZATTA 2」も、制作的に随分前に完成してて、いつ出すのかを悩んでたら今年の4月になっただけで。

S:1inamillionでのリリースもタイミングがいまだったという感じで。

P:僕の客演もそれは声を掛けてくれる人次第っていう部分もあったし。だから意識的では無かったですね。

T:偶然そういう巡り合わせだったというか。

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ーーなるほど。では外部仕事とODDでの作業に違いはありますか?

S:僕はだいぶ離れてると思いますね。1inamillionはインストバンドだし、ジャンル的にもかなり離れてるんで。だから重なってる部分の方が少ないかも知れないんですが、その2つの活動がフィードバックしあってるっていうのはめちゃくちゃありますね。意識的にフィードバックさせてるというよりは、自然につながっていってる。

T:僕の場合は「違い」を見つけるためにやったっていう部分があるような気がします。もっと作品を「個」に向かわせたらどういう作品になるんだろうっていう実験だったというか。ありがたいことに少しずつでもODDの規模は拡大してきてると思うんですけど、基本的にはバンドであってもベッドルーム寄りの、DTMや宅録的な方向性が強いバンドだと思うんですね。自分自身も部屋に籠もって制作するタイプなんで、そのマインドをもっと前に出した、自分の中に籠もってる感情を、ZATTAでは形にしてみようと。

ーーPecoriくんはどうですか?

P:ソロの時の方がより「ラッパーらしさ」を打ち出そうとしてる感じはありますね。ODDはトラックやオケと自分のラップを組み合わせたときに、もっと音楽性が高まるようなリリックを書こうと思ってるんですね。でも、客演の場合は、もっとPecoriを知って欲しいという気持ちの方が強い。もっと言えば「俺が格好良ければいい」というか。だから、客演を通してODDを知ってくれてもいいし、俺だけ知ってくれてもいい、みたいな(笑)。最近、エゴサしたら「客演してるペコリってODDのメンバーなんだ」っていう書き込みがあって、それはちょっと成功してきたのかなって思いましたね。

T:全員がそうなるといいよね。「こいつ実はODDのメンバーだったんだ」って。

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ーーそれだとODDが無名すぎちゃうでしょ(笑) 。そしてリリースされた「Qualification 4 Files」ですが、制作はどのように?

P:リリースの計画自体は2020年の2~3月には立てていて。その時は年内にはフルアルバムっていう意識だったんですが、コロナの問題もあって。コロナ太りがひどくて(笑)。

ーー後半は自制心の問題だろ(笑)!

P:「まず曲作りの前にダイエットだ!」って(笑)。真面目に言えば、このタイミングでフルアルバムを出すのは、状況的にどうなんだろうっていう気持ちもあって、だったらミニアルバム/EP ぐらいのサイズにしようと思ったんですよね。ODDを取り巻く環境も変わったり、ライブも全然出来ない状況で、フルアルバムを出すのは、ちょっと相応しくないんだろうな2020、って。

T:デモは30曲ぐらいストックがあって、いろんなピースがあるんだけど、今回出すべきは、この4曲なのかなって。

S:めっちゃ自信を持って出せるものを、ミニマムな形で固めて出そうというイメージですね。でも、それを固めるまではめっちゃ悩みました。

ーーリスナーとして感じたのは、今回の4曲は、ODDの基本エレメントを集約した4曲なのかなって。 

P:ああ、確かに。

S:意図してそうしたわけではないんですけど、結果としてそうなったのかも知れない。落ち着いて自分たちの存在性だったり方向性を見直したときに、その部分が出たのかも。自分たちで自分たちをちゃんと認識する必要があったと思うし、それが感覚的に作品にも現れたのかなって。

T:トラックに込める情報量も、これまでは無作為に足してたけど、今回は結構シビアに足し引きを精査したし、引き算の方が多かったのも影響してるのかな。音像として、ちゃんと必要なものだけで空間を埋めようしたんですよね。細かい部分でも技術が上がって、足し算を過剰にしなくても空間が埋められるようになったんだと思う。そして、それでもちゃんと聴かせられるようになったんじゃないかなと。

ーーだから、楽曲の情報を整理整頓するのがすごく上手くいってると思うし、それがODDの本質を顕にした部分があるのかなって。

S:そうなんすよ! 整理整頓は頑張ったんすよ~。

P:良かったなあ、褒めてもらえて(笑)。

ーー軽いな(笑)。

T:ODDのキャリアがそれなりに伸びてきたことで、リスナーにとってもODDの原点が変わってきてると思うんですよね。だから「ODDらしさ」みたいなものが、リスナーによって全然違うと思うし、それで逆にリスナーのことを考えなくなったというか。それよりも、単純に好きなタイプを作るようになりましたね。

P:俺もリスナーに向けて今回は歌ってないですね。全部俺に向かって歌ってるし、内向的な部分があると思うんですけど、それでもいいのかなって。 

T:自分たちが思う「普通にこれがいい」っていう部分を、ちゃんと見極められるようになったというか。これまでは、役割とか方法論が乱雑だったり、見切り発車で作品に落とし込まれちゃうこともあったんだけど、今回は普通にコミュニケーションを取って、普通に制作して、普通に良い形にしていったら、この作品になったって部分がありますね。

ーーその意味でも、どぎついことをやって驚かせようとか、ショッキングな表現をしようっていうイメージよりも、シンプルに自分たちの作れるグッドミュージックを追求した作品に思えて。

S:確かに、前は最初から「リスナーを驚かせたい」っていう意識があったと思う。でも今回はそういうイメージは無くて。あと僕らとしてもGivvnさん(Giorgio Blaise Givvn)のミックスでやっと形が見えたって部分がありますね。ミックスで最終形が明確になるというか。

P:だから3人で敢えて完結させないで、「ここはGivvnさんが良くしてくれるはずだから、スペースを空けとこう」みたいな部分もありましたね。今までの関係性も含めて、すごく信頼できる人だから。

S:Givvnさんとのミックス作業はめちゃくちゃ笑ったよね。

T:腹の底から笑ったと思う、凄すぎて。

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ーーPecoriくんのラップも、以前よりもオートチューンを使う比率が下がっていますね。

P:それは結構前から、赤い公園の津野米咲さんにも言われてたんですよね。「オートチューン掛かってない声の方が好きだな、というか絶対外した方がいいよ!」ってずっと言われてて(笑)。それがすごく影響してるって訳ではないけど、3人体制でリスタートしたときに、開幕感というか、ここから始める感じが欲しかったんですよね。それで、いまの自分のラップにオートチューンのイメージがついてるんだとしたら、それを一回外したいな、っていう気持ちもあって。

ーーいま、津野米咲さんの名前が出たのでそのまま訊いてしまいますが、津野さんはODDを最初に発見して、世に知らしめたアーティストといっても過言ではありませんね。

P:うん。彼女の存在はODDにとって本当に欠かせない。赤い公園の配信ライヴ(「SHOKA TOUR 2020 “THE PARK” ~0日目~」2020年8月29日)にも出演させてもらえて、津野さんの最後のライブで共演できたのは本当に良かった。ただ、そういうのを超えて、もっと遊んどけばよかった、もっと遊びたかった、って思いますね。そういう、当たり前のことばっかり考えてしまう。

S:津野さんが僕らを見つけてくれなかったら、ODDがいまも続いてるかは分からないですね。ただ、それよりも一人の素敵なアーティストがいないことが、途轍もなく寂しい。恩人とか友人、先輩っていう関係性を超えて、日本の音楽シーンに存在した、とにかく格好いい人が、亡くなってしまったことが本当に寂しくて。

T:最初に津野さんにお会いしたのって俺が中学生ぐらいのときなんですが、その時からずっと追いかける先に津野さんはいたし、その場所にその人がいなくなってしまうっていうのは、こんなにぽっかり穴が空いてしまったような感情になるんだ、いるべき場所にその人がいないのはこんなにバランスが悪いんだなって。それに、このEPを作って、やっぱり聴いて欲しかったって思います。どんな反応してくれたのかな。

ーー最後に「来年の今頃はどうなってる」というリリックが「浪漫飛行機」で歌われえますが、2021年のODDはどうなりそうですか?

P:ODDではアルバムをちゃんと形にしようというのと、個人的にはソロも出したいと思ってて、焦る必要もないんでそれも着々と進めつつ。あと来年はでかい会場でのライブを考えてるんで、それもちゃんと実現させたいっすね。 来年も頑張ります。

T:とにかくヤバい作品を出しまくるしかない。作風としては、もうちょっと陽気な感じだったり、景気いい雰囲気の曲も欲しいですね。俺たちまで暗かったら、俺たちもリスナーも可哀想だと思うんで(笑)。

S:大変な1年だったけど、この作品も含めて地に片足ぐらいは着いたと思うんで、来年はちゃんとその先を見せたいですね。あと、来年は良いチャリ買うっす。

ーーなにそれ。趣味なのは知ってるけど話の本筋と関係なさすぎるでしょ(笑)。

P:あと、もう一つ期待して欲しいのがMV。今回のEPの曲を全部使ったショートムービーみたいな作品を作ってて。

T:EPの聴き方が変わるぐらいの作品になってると思います。EPだけでは完成しなかった最後のピースだと思うんで、それがハマったときがすごく楽しみですね。

S:年明けの早めには公開できるように動いていいるので、楽しみにしていて下さい。

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