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Martha's Lady


『マーサの愛しい女主人』

ジョージ・ダンロップ・レズリー《アフタヌーンティ》1865年

英米の女性作家による、利根川真紀編『レズビアン短編小説集』平凡社、2015年は、怯みそうなタイトルですが、大学生の時に購入し、時々読み返す一冊です。一貫したテーマを扱いながら、異なる色合いや味わいの短編を集めていて、贅沢に感じます。中でも、セアラ・オーン・ジュエット「マーサの愛しい女主人」は印象的でした。

Martha's Lady「マーサの愛しい女主人」あらすじ
叔母の後任として、ボストンの名家パイン家のメイドとなったマーサは、不器用で仕事を覚えるのに苦労する。主人の従妹である、若く快活なヘレナに励まされ、憧れを抱く。マーサとヘレナは一夏を共に過ごすが、ヘレナは結婚して海外に暮らす。マーサは、ヘレナへの憧憬を抱きながら仕事に励み、有能なメイドとなる。二人は、40年後に再会を果たす。

レオン・ボンヴァン《バラ》1863年、ウォルターズ美術館

この短編には、思い入れがあります。現職には、新しい事業部専属の法務として2018年に入社しました。新規事業の法務について知見のある人が会社にはおらず、私のそれまでの経験は、法務ではあるものの、新規事業とは無関係で、不安で孤独でした。

でも、入社当時から、新規事業部の人が、定期的に相談に乗って、励まして下さいました。相談すると、いつも即座に解決して下さる、憧れの天才でした。

彼女の単純な頭では、適応や理解にずいぶん時間がかかった。だがこの思いやりぶかい同志であり庇護者、自分のことを信じてくれるこの素晴らしいミス・ヘレナさえいてくれれば、あらゆる困難は乗り越えられるように思えた。

セアラ・オーン・ジュエット「マーサの愛しい女主人」
利根川真紀編『レズビアン短編小説集』平凡社、2015年

天才の海外赴任

フィッツ・ヘンリー・レーン《メイン州ペノブスコット湾アウルズヘッド》1862年、ボストン美術館

天才が海外赴任になりました。何人かにお声がけして、送別会をしました。「薄明さんは、間違ったことはしないし、言い分には根拠があるし、他部門からの信頼もあります。困ったら、西さんか東さんに相談するんですよ」と言われました。西さんも東さんも優しくて大好きでしたが、「困ったら天才に言うんですよ」という言葉を残して、辞めてしまいました。いつか天才に見て頂けるだろうか、どうすれば良いと言って下さるかしら、と考えて仕事をしました。契約書をデータベース化し、すぐに取り出せるように管理していたのをほめて下さったことがありました。それで、ナレッジ・マネジメントや効率化を進めました。自分の時間、労力、能力(そんなものがあるとして)は、尊敬する人に喜んで頂くために使えるのが一番です。

約束どおり毎日、いや、日に何度も、彼女はミス・ヘレナのことを考えた。こうすることがお嬢さんを喜ばせるだろうか、それともこうしたほうがお嬢さんの意に添い、目に適うだろうか、というぐあいに。

前掲書

4年後

ウィンズロウ・ホーマー《お父さんが帰ってくる!》1873年、
ワシントン・ナショナル・ギャラリー

昨年、天才が戻っていらっしゃいました。部下にして頂けないか、お願いをしました。快諾して下さいました。幅広く様々なことをマネジメントされているので、私は好きにやらせてもらい、細かいことまで相談しません。でも、困ると、やはり即座に解決して下さいます。confidantに、天才ですね、と話したら、「天才が、薄明さんの仕事はすばらしい。とても助かっている。と仰っていました」と言われました。期末には、「4年前よりももっと良くなって、期待以上でした」と言って頂きました。マーサとヘレナのように、40年後の再会でなくて本当に良かったです。

同窓会

フランツ・フォン・シュトゥック《会食》1913年、ノイエ・ピナコテーク

4年前に送別会をしたメンバーと同窓会をしました。「同窓会」という名前を気に入って、喜んで下さいました。夫に「紆余曲折を経て、いつも最終的には一番良いところに持ってくよね」と言われました。持って行ったわけではなく、優しい人が親切にして下さったからでした。




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