見出し画像

生後12ヶ月における非定型的な物体探索行動は長期的なASDの兆候を反映するか

ASDの初期兆候をより早期に予測的に判別していくための研究がいくつかあります。

今回は、「Atypical object exploration」という視点から考えたいと思います。

Atypical object exploration at 12 months of age is associated with autism in a prospective sample
SALLY OZONOFF, SUZANNE MACARI, GREGORY S. YOUNG, STACY GOLDRING, MEAGAN THOMPSON, and SALLY J. ROGERS : Autism. 2008 Sep; 12(5): 457–472. doi: 10.1177/1362361308096402

Repetitive behaviors(RBs)の特徴として、

物体や身体/腕/手の反復動作や揺する、叩く、つま先で立つ等が挙げられます。

また「lateral glances toward objects (defined as ‘fixating on a target with the pupils turned toward an extreme corner of the eye socket」という横目/横目視があります。

この論文では、66人の12ヶ月児の物体探索行動を調査し,24ヶ月/36時ヶ月時における臨床症状や発達状況を縦断的に評価しています。

結果です。

自閉症・ASD群:9名(うち8名が36ヵ月で確定)

その他の発達遅延群:10名(うち6名が36ヵ月で確定)

心配/懸念なし群:47名(うち23名が36ヵ月で確定)に分類されました。

24ヶ月と36ヶ月の両方のデータがある37名の児童については、比較的高い安定性を示した。

全体として、37人中31人(83.8%)が両月齢で同じ分類でした。

24ヵ月と36ヵ月の間に転帰を変えた6名の児童のうち、1名は自閉症・ASD群からその他の発達遅延群へ、2名はその他の発達遅延群から自閉症・ASD群へ、3名は心配/懸念なし群からその他の発達遅延群へ転帰していました。

で、今回の主たる内容である「物体探索行動」とはどのような課題を用いているのか…という点です。

Object Exploration task

4つの物体(丸い金属の蓋、丸いプラスチックのリング、ガラガラ、プラスチックの哺乳瓶)が、1つずつ30秒間、乳児に提示されます。

それらの物体/対象物をどのように扱うかという視点でコード化され、年齢相応の定型的な探索行動(振る、叩く、口をつける、投げる)と非定型的な探索行動(回す、転がす、回転/ひっくり返す、異常な視覚探索)と定義した行動の頻度と時間が抽出されました。

Spins(回す)
Infant drops, tosses, or manipulates an object in order to make it spin or wobble.

Rolls(転がす)
Infant pushes a round object along a surface so that it rolls.

Rotates(回転/ひっくり返す)
Infant turns, flips, or rotates object at least twice.

Unusual visual(異常な視覚探索)
Infant engages in prolonged visual inspection (>10 seconds), examines object from odd angles or peripheral vision, or squints or blinks repeatedly while examining object.

*詳細な説明は、原著論文をご参照ください。

物体探索行動における年齢相応の3つの探索行動(叩く、振る、口をつける)には群間差はありませんでした。「投げる」ことについては、有意な群間効果が認められ(F = 6.25, p < 0.01)、他の発達遅延群(平均 8.20, SD = 5.12 )は、心配/懸念なし群(平均 3.29, SD = 3.26, t = 3.52, d.f. = 56, p < 0.001 )よりも有意に物を投げる傾向がありました。

次に物体の非定型的な探索行動では、有意な群間効果が認められました。自閉症・ASD群は、他の発達遅延群および心配/懸念なし群に比べ、「回す、回転/ひっくり返す、異常な視覚的探索」を有意に多く示しました。「転がす」は、他の発達遅延群が心配/懸念なし群より有意に多く示しました(t = 2.21, d.f. = 56, p < 0.05)。

自閉症・ASD群で非定型な物体探索行動は、「異常な視覚探索」であり、これは9人の乳児のうち7人が示しました。

長期的な予測に関しては、
12ヶ月における「回す」行動の頻度は、36ヶ月におけるADOS RRB scoreとCST(communication + social total)scoreを有意に予測しました。12ヶ月の「回転/ひっくり返す」行動の持続時間は、36ヶ月のADOS CST scoreと軽度の正の相関を示し、Mullen expressive languageと軽度の負の相関を示しました。

次に「異常な視覚探索」の持続時間は、12ヶ月と36ヶ月における全ての変数と有意に関連しており、ADOS RRB scoreとCST(communication + social total)score正の相関があり、4つのすべてのMullenスコア(Mullen visual reception/Mullen fine motor/Mullen receptive language/Mullen expressive language)と負の相関がありました。

考察では、「異常な視覚探索」についていくつかの知見が示されています。

・注意/空間定位の問題やfrontal-parietal-cerebellar networksの問題(Haist et al., 2005; Townsend et al., 2001)

・social-motivational hypothesis (Dawson et al., 2002; Schultz, 2005)の問題

社会的刺激(顔、声)の報酬価値が低く、人や社会的に関わりたいという動機が低下すると仮定し、他の感覚刺激の手段を求めた結果、非定型な物体探索行動と関連性しているのではないか…という点です。

特に「異常な視覚探索」が生後1年の社会的報酬系の一次的な障害に起因している可能性についても言及されています。

まぁ色々な臨床像から発達的な特徴やASD等の臨床兆候を把握するとは思いますが、いわゆる「おもちゃの遊び方/操作方法」という評価/観察も重要であることが再認識できました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?