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台湾発翻訳コミックス『用九商店』第4巻 発売記念 | 訳者・沢井メグ特別コラム

皆さんこんにちは! 
2022年1月に発売し、ご好評いただいている台湾翻訳コミックス『用九商店』。この度、5月11日(水)に4巻が発売となりました!

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第4巻の帯コメントはお笑い芸人、漫画家のカラテカ・矢部太郎さんにお寄せいただいています


4巻は新章に突入! 店はどうなる? 村の開発は? メインカップル&サブカップルの恋の行方は? ……と気になる展開が目白押し!

なのですが! 
その前に、今回のnoteではSNSなどで読者のみなさんから「気になる」とお声をいただいている作品内の台湾グルメ情報と、4巻に登場する台湾のある食文化のお話をお届けしたいと思います。本記事の執筆は翻訳を担当した沢井メグです。

『用九商店』に登場する台湾ローカルグルメ。台湾に行ったことがある方のなかには「懐かしい!」と思った方も多いかと思います。翻訳の際には、『用九商店』で初めて台湾グルメと出会う方も想定してどんな料理か注釈を入れましたが、やっぱり写真でも見てみたいですよねえ?

ということで、今回は作品内で登場した台湾グルメを深堀りしていきます!


葱油餅(ツォンヨウピン) 1巻第二話 p.86

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2巻第二話 p.56より。昭君のつくる葱油餅をほおばる鳳玉


葱油餅(ツォンヨウピン)は小麦粉で作った生地に油を塗り、細切りにしたネギを巻いて焼いた軽食。用九商店のヒロイン・昭君(チャオジュン)が屋台で販売しています。
デフォルトの形は円形で、お店によっては卵やチーズなどの追加トッピングも可能。2巻第二話 p.56で、鳳玉(フォンユー)がトウモロコシを追加していましたね。ソースも甘いものと辛いものが選べます。

作り方や見た目から日本では「ネギクレープ」、サクサクとした食感から「ネギパイ」と翻訳されることも。そう、あのサクサクとネギの爽やかな香りがたまらない一品です。

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葱油餅は基本的に円形だがカットして提供されることも


……とここで、日本のスーパーで売っている「葱抓餅(ツォンジュアビン)」を思い出した方もいらっしゃるのではないでしょうか? 「葱油餅」と「葱抓餅」は同じ料理? それとも別物?

「葱油餅」と「葱抓餅」、台湾でも違いを説明できない人がいるほど酷似しています。材料も作り方も似ていて、基本的に類似の食品と見ることができますが、台湾の食品メーカー「亞美食品(ヤーメイシーピン)」によると、生地の層がそこまで多くなく、食感が比較的なめらかなのが「葱油餅」生地が多層構造でよりサクサクしたものが「葱抓餅」であるそうです。

ちなみに「葱抓餅」のルーツをたどると中国の北部で食される「烙餅(ローピン)」につながります。「ローピン知ってる!」という方はきっと中華グルメ通か漫画通! 『美味しんぼ』にも登場していましたね。

さて話は戻って用九商店の葱油餅、7月発売の5巻では両金(リャンジン)がとんでもない葱油餅をオーダーするのでぜひチェックしてみてくださいね!


焢肉(コンロウ) 1巻第二話 p.58/p.68/p.101

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続いて紹介するのは、1巻第二話で近所のおばさん(阿満さん)が、俊龍(ジュンロン)におすそわけしてくれた料理・焢肉(コンロウ)です。「炕肉」、「爌肉」と表記することも。

作中では容器に入った状態でしたが、実は1巻第二話の扉の次ページに、中身も登場しています。見ての通り焢肉とは台湾の豚の角煮風のお惣菜。グアンミン先生の描く焢肉はモノクロでも、あのぽってりホロホロ感が伝わってきて、食欲を刺激されますね!

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焢肉を丼風に提供する「焢肉飯(コンロウファン)。ご飯が進む!


味は角煮同様、醤油と砂糖で味つけした甘辛系。ご飯とよく合います。日本の豚の角煮との大きな違いは、風味づけに八角やエシャロット、五香粉(ウーシャンフェン)という中華スパイスが使われている点でしょう。香りだけで台湾を感じます!

さて余談ですが、「焢肉」の「焢」の字は北京語では「hōng(ホン)」と読みます。なぜ「ホンロウ」ではないの?「コンロウ」の「コン」はどこから来たのでしょうか? 
「コン」は「焢」の台湾語読み「khòng(コン)」から来ているんです。一方、「肉」の「ròu(ロウ)」は北京語読み。料理名が「台湾語+北京語」で定着したとは、地域性や歴史を感じますね。


ショウガ茶 3巻第二話 p.63

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3巻第一話 p.64より。店先でショウガ茶を飲む俊龍と恩沛


続いてご紹介するのは、ショウガ茶。中国語では「薑母茶(ジャンムーチャー)」と書きます。

台湾のショウガ茶は炒ったショウガの薄切りに水と黒砂糖を加えて煮出して飲みます。煮出す際にナツメやクコの実を入れることも。茶葉は入っていませんが、日本のショウガ湯よりサラッとしていて見た目はお茶に似ています。

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台湾は漢方の考えが浸透していて、日常的に体が冷えないようよく気をつかっている方が多いです。用九商店では俊龍が夜に恩沛(エンペイ)と店先で話した際にさりげなく勧めていました。(やさしい!)

台湾ではインスタントのものもよく見かけます。ブロック状のショウガ茶は商品によっては黒糖のようにかじって食べてもOKだそう。旅行中のおやつやお土産にもぴったりですね。

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インスタントのショウガ茶


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そのまま食べてもOKなものも!試す際はパッケージ注意書きをよく確認してくださいね


沙士糖(サースータン) 3巻第二話 p.71

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沙士糖(サースータン)、英語で言えば「Sarsaparilla candy(サルサパリラ・キャンディ)」。沙士(サルサパリラ)は日本では馴染みが薄い存在ですが、台湾に行ったことがある人ならこう言えばピンとくるはず。サルサパリラは台湾コーラこと黒松沙士(ヘイソンサースー)に使われているハーブです。

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サルサパリラに馴染みのない人にとって、あの個性的すぎる香りは好みが分かれるところでしょう。でも台湾では絶大な人気。黒松沙士は昔から愛されています。1巻第二話 p.95の回想シーンで俊龍と阿忠、阿芬が3人で飲んでいた缶ジュースも、第三話 p.105のイラストから黒松沙士であると見てとれます。青春時代の思い出の味ですね。

そしてキャンディの方も「懐かしのお菓子」の代表格。誰もが懐かしさを感じるお菓子だと知って読むと、幼少期の恩沛の沙士糖エピソードもグッとくるものがありますね。


台湾のベジタリアン食って? 4巻第一話 p.22

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最後に、4巻から台湾の食文化を紹介します。
冒頭で廟の管理人である廟公(ミャオゴン)がある悩みを抱えていました。それは「急遽、廟にツアー客が来ることになったが、ベジタリアン食を出せるレストランが見つからない」というものでした。

「確かにそんな特殊なオーダー無理だよね」とサラッと流してしまいそうになりますが、実は台湾では菜食主義がかなり普及しています。
台湾では肉類を使わない料理を「素食(スーシー)」と呼びますが、2020年現在、台湾の素食人口は330万人以上で全人口の13%、人口比率では世界第2位となったそうです。また台北がCNNの「ベジタリアンに優しい世界十大都市」にも選ばれました。

そんな素食人口が多い台湾では、素食を提供するレストランがあるのはもちろんのこと、コンビニなどでも気軽に素食を購入できます。なおベジタリアンにセミ・ベジタリアンを合わせると全人口の42%にものぼるそうです。台湾では素食は決してマイノリティではないのです。

しかし、それほど素食が浸透していても、いきなり50人ともなると素食を出すレストランはなかなか見つからなかったもよう。でもこの素食レストラン問題は俊龍の機転により見事に解決します。その機転が、店の、そして地域の振興・創生へとつながり……ひとつの小さなよろず屋から大きく展開していく新章。

俊龍達に、一体なにが起こったのでしょうか? 続きはぜひ用九商店4巻でお楽しみください!


文:沢井メグ


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『用九商店』はWEBコミックサイト「路草(みちくさ)」にて試し読み配信中! ぜひご覧ください◯



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■書誌情報

書影

作者:ルアン・グアンミン
訳者:沢井メグ
仕様:A5/並製/192ページ
本体価格:900円(+税)
発売日:2022年5月11日(水)
発行:株式会社トゥーヴァージンズ
ISBN:978-4-910352-36-7


あらすじ:
「成功とは目に見えるお金や名声ではなく、その人がどれだけ多くの人を助けたか」

夢なかばで村の再開発責任者、さらには社長の座をも降ろされた恩沛(エンペイ)。

ある男との出会いをきっかけに、恩沛は労働者への不正が横行する会社へ訴訟を起こすことを決意する。

そんななか、両金(リャンジン)は道ならぬ恋に悩む鳳玉(フォンユー)と向き合うため、台北にある鳳玉の自宅へと向かうが……。

幸せの「かたち」とは?
それぞれの思いを胸に、現実から夢への旅路を歩いていく!


■作者/訳者プロフィール

◯ルアン・グアンミン
漫画家。スッキリした作風と、ユーモアある感性豊かな筆致が特徴。台湾社会に根ざす温かみあるストーリーを得意とし、登場人物の思い、人間関係、心の機微をきめ細やかに描く。また彼の描く台湾の風景には定評があり、レンガ一つ、草木一本に至るまで伝えたい優しさが込められている。漫画への思いは十年一日のごとし、いつまでも変わらない情熱をもって作品を描き続けている。数多くの漫画賞を受賞、国際舞台でも活躍。
代表作:『刺客列傳』『東華春理髮廳』『幸福調味料』『天國餐廳』等
【Twitter】@guangminruan
【Instagram】@Ruanguangmin1


◯沢井メグ
中国語翻訳者、ライター。上海万博での勤務、通訳・翻訳業を経て、2011年よりWebメディアでライター/エディターとして活動。中国や台湾をはじめとする中国語圏のニュースの翻訳のほか、現地の漫画やアニメ等ポップカルチャーの紹介や取材を行う。2020年に独立。現在は多数の媒体で台湾経済誌や著名人のコラムを翻訳、オリジナル記事の取材・執筆。主な訳書に毎日青菜『DAY OFF』、『TAIWAN EYES GUIDE FOR台湾文創』翻訳パート(共にトゥーヴァージンズ刊)。
【Twitter】@Megmi381
【Instagram】@megmi381


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出版社トゥーヴァージンズが運営するWEBコミックメディア「路草」は毎週水曜日に更新しています。目的地への旅の途中に、ぜひお立ち寄りください。

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