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ロボカー、空を飛ぶ?

 無事にA社との契約を終え、A社自社ビルから出てきたぼくは、ほっとひと息ついた。
 立ち並ぶ高層ビルの合間に、こま切れにしか見えない空を見上げる。
 空は、仕事がうまくいったぼくの気持ちのように、晴れ渡っていた。
 道路は、午後のビジネス街にしては、交通量が少なかった。
 流しのロボカーを探すが、見当たらない。
 しょうがないので、近くのロボカーステーションまで歩くことにする。
 ロボカーステーションは、昔だったら、タクシー乗り場と呼ばれていた場所だ。
 AIがレベル5で自動運転する技術が確立され、ロボカーが量産されるようになると、人が運転するタクシーは、ほぼ需要がなくなった。
 ロボカーはアプリから呼べるし、街角にあるロボカーステーションで拾ってもいいし、流しのロボカーもいる。
 ただ、すでに乗客のいるロボカーは相乗りすることはできない。
 他人と相乗りできるのは、ロボカーではなく、大型のロボバスだ。
 ロボカーとロボバスのちがいは、大きさだけではなく、行先の自由度も異なる。
 乗客の行きたいところへ連れて行ってくれるロボカーとはちがい、ロボバスは、あらかじめプログラミングされた区間内しか移動できず、停車する場所も決まっているなど、公共の交通機関としての意味合いが強い。
 ロボカーもロボバスもサブスクリプション契約だが、一般的な契約だと、移動距離には上限が設定されていて、上限を越えた分は従量課金されるから、乗り放題というわけではない。
 スマートフォンの課金システムと同じようなものだ。
 ちなみにぼくは、健康のためにもすこしは歩いたほうがいいので、わざと、距離が短めのサブスク契約にしている。
 歩いていると、ロボカーステーションは、すぐに見つかった。
 キラキラ輝く看板が目印だ。
 この看板は太陽光発電パネルになっていて、蓄電された電気はロボカーの動力に回される。
 と、ぼくは、そのロボカーステーションの看板パネルに、見慣れない告知が出ていることに気がついた。
「未来の乗り物! ロボスカイ、近日誕生!」
 かねて話題の”空飛ぶクルマ”の正式運行が近いというお知らせだった。
 そういえば、さっきのA社ビルでは屋上を工事中だったが、あれは、空飛ぶクルマ用のポートを作る工事だったのか。
 でも郊外ならともかく、こんな建物が密集したビル街で空を飛んで、もし落ちたら、どうやって責任を取るのだろう。
 ロボカーの場合、もし事故ったら、ロボカーの運用会社がもろもろの被害を補填してくれる。
 補填方法はいろいろあるが、現金よりキャッシュレス、キャッスレスよりロボカー運用会社で使えるポイント加算のほうが率がいい。
 ロボカー運用会社は巨大ITグループの一部門で、そこでもらったポイントはグル―プのサービス全般で使えるので、たいていの人はポイントでの補填を選ぶ。
 今や、住んでる家から病院まで、巨大ITグループの息のかかってないサービスはないから、必然的にそうなるのだ。
 もっとも、スピードも抑えられ、何重ものセキュリティで守られたロボカーでは重大事故の報告はほとんどない。
 しかし、鉄の塊が墜落してきたら、ただではすまないだろう。
 ロボカーに羽根がついた、あまりかっこいいとは思えない”ロボスカイ”のイラストを見ながら、ぼくはそんなことを考えていた・・・



この話の前編は、別プラットフォーム「monogatary」にて公開中。
「ロボカーのある生活」
https://monogatary.com/episode/347733

また、情報サイト「駐禁.com」に掲載している元記事はこちら。
続・架空未来「自動運転車のある生活」(その他:令和186)


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