ヒメノスピア_1

ヒメノスピア1巻感想

月刊ヒーローズにて連載中のヒメノスピア! 百合漫画として大々的に売られているわけではないけれど、「これはいい百合作品」として一部で話題になっていたので読んでみました。以下にその感想をば。

注意! 「ヒメノスピア」1巻に関するネタバレを含みます!





それでは「ヒメノスピア」1巻の感想です。

「ヒメノスピア」あらすじ
学校では皆から奴隷のようにいじめられ、家ではたった二人で暮らす母親に暴力を振るわれる少女、園藤姫乃。言葉に出来ないほど凄惨な日常を過ごすため、姫乃自らを「虫」と思い込み「自分は虫だからこの扱いも仕方が無い」と暮らしていた。そんな彼女の世界は、ある事件から一変する……。

まず面白い!
ヒメノスピア、自分は百合マンガとして楽しんでいますが、これは百合に興味が無い人でも絶対に楽しめるとても面白いマンガです。予想もしなかった展開の連続で、1話目から読者を飽きさせません。1巻目のラストなど本当に引きがうまくて、読み終わった瞬間から「2巻早く発売してくれ!」と叫びたい気持ちです。
ここからは若干ネタばれになります。

能力と、使い方

ヒメノスピアで素晴らしいと思うのが、主人公姫乃が持つ「能力」と、その「使い方」です。
姫乃の能力というのは、自の持つ針で刺した相手を刺すと、無条件で相手が自分を愛してくれる……ありていに言えば即席の恋人を作れるような能力です。今のところ、作品内で制限時間などの描写はなく、一度させばずっと姫乃のことを愛してくれています。
この能力、相手を奴隷にするわけではないのがミソだと思います。刺された人は確かに姫乃を突然愛し始めるようになり、それは傍から見れば一見盲目的で従属的な愛に見えますが、そうではない。姫の能力は相手の思考力を奪ったりとか、感情を壊したりとか、そういったことが無いのです。「催眠能力もの」や「絶対命令権もの」(主人公が他人にどんな命令でもできる能力を手に入れたことで自身の野望などをかなえていくストーリーもの。「デスノート」や「コードギアス」、「ビッグオーダー」のような作品)とはその点が違います。姫乃に刺された人は命令されなければ何も出来ない人形になるわけではありません。ただ姫乃のことを好きになるだけで、その後の行動は自分で考え自分の意志で決められます。頭が良くなったり身体能力が上がるわけでもないので、姫乃に刺された人はみんな自分の出来る範囲で精一杯姫乃を助けます。
また、この能力で面白い点は「女性」にしか効果が無いということです。男性に刺しても何の効果も発揮しません。特に最初は姫乃周囲にいる人(有体に言えば学生)にしか針を刺していないので、刺された子達に出来ることも限界があります。
次に、姫乃の能力の使い方がこれまた新鮮です。
あらすじの通り姫乃は周囲から長い間ひどい目に合わされてきたのですが、彼女は復讐とか仕返しといったことをまったく考えません。また、その能力を使って何か、自分に都合のいい世界を作ろうとか、そういった野心も抱きません。といって、自分が恐ろしい能力を手に入れたことに怯えたり、能力をおぞましいものと封印したりもしません。自分の世界を変えてくれた不思議なチカラ、その程度にしか思っていない。ある意味素朴というか純真というか、これはなかなか画期的なキャラクターだとも思います。
姫乃は急にみんなに優しくされるようになったのが自分の能力によってだと気づいたとき、今いる「優しい世界」を失いたくないと思います。この幸せが偽りだとしても、元に戻ってほしくないと考えます。例えばこれが正義感の強い主人公キャラだったら、何とかみんなを元に戻す方法を探したりしたかもしれません。そういう意味では姫乃は決して聖人ではないのですが、とても素直な善人だと思います。そのおかげ自分はとても感情移入がしやすかったです。
ヒメノスピアとやや題材が似ている作品に「悪魔のリドル」があります。ただ悪魔のリドルでは、晴と兎角が「この愛は本物なのか、それとも晴の能力によって生まれた偽者の感情なのか」ということに悩みますが、ヒメノスピアではその問いはあまり重視されていません。「愛」が偽者か本物か問い掛けるより先に、「この居心地のいい幸せな世界をどうやって守っていくか」に重点が置かれています。
それは姫乃に操られる女の子達も同じです。女の子達は多くが「姫乃に刺されたことで急に姫乃のことを好きになった」と自覚しています。自覚していますが、その感情を作られたことに対する否定や嫌悪はありません。それどころか、誰かを愛するという幸せを教えてくれた姫乃への感謝を口にするものすらいます。誰か尾全力で愛しているときが人間は一番幸せという論理ですね。(そういえば山田くんと7人の魔女でもキスした相手を自分に惚れさせる能力者の話で似たようなことが語られていた気がします)
愛とは何なのか。そもそも愛に「本物」や「偽物」があるのか。偽者の愛は幸せになれないのか。
そんなことも問いかけてくるなかなか凝った作りだと思います。

ヒメノスピアは一見ありふれた催眠系能力物に見えながら、その実、中身は挑戦的で意欲的な作品です。
百合マンガの新たな地平を開いてくれそうで、自分はとても期待してこの作品を応援していきたいと思います! 以上です!

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