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他では見れない、個性際立つ映画作家アリ・アスター監督最新作!「ボーはおそれている」見た

Beau Is Afraid / 2023年
鑑賞:2024.2.17、記事公開:2024.2.18
監督・脚本:アリ・アスター

『ヘレディタリー/継承』の不快な衝撃と感動で鮮烈デビュー。続く『ミッドサマー』で謎の祝祭高揚ホラーと、今現在個性的オブ個性的なアリ・アスター監督最新作!
しかも主演もまた見たことない作品を役者ながら生み出し続けているホアキン・フェニックスときたら見ないわけにはいかない。
今までとは方向性が違いそうなので、ネタバレ前に早速劇場へ。

映画は不条理ナンセンスギャグに振り切ってた。好みのフィールドに移って来てもらったようでありがたかった。
お話的にリアリズムではなく、寓話とか不条理路線。たぶんメンタルの治療を受けてるボーさん主観なのであらゆる現実認識が歪んでいるらしく、画面に映っているものは基本妄想の可能性。悪夢を見ているようでもある。体裁としては「不思議の国のアリス」かな。『イット・フォローズ』のデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督、アンドリュー・ガーフィールド主演の『アンダー・ザ・シルバーレイク』(Under the Silver Lake)からPOP要素を抜いたようなイメージ。
なので、今までのホラー路線や儀式祝祭高揚感を求めている人は、肩透かしをくらいそう。あえて前2作とは距離をとってきたみたい。あの尋常じゃない緊迫感をこれでもかと積み上げてくる作りも監督の魅力的なオリジナリティなので、あれが味わえないのはちょっと残念。

話法としては、不謹慎なんじゃそりゃギャグの畳み掛けでとても笑える。松本人志のコントを見ているようでもある。「面白いことが起こっているけど、そこに必ず刃傷沙汰が絡むのでなんか笑いづらい」というシチュエーションをどこまで追求できるかチャレンジしてたのかな。投げナイフが刺さらないなど、いろんな当たり前がことごとくずらされていて、ボケの連続がいちいち面白い。
良かったシーンを忘れないうちに。冒頭の出産シーンのバタバタ感。路上で取っ組み合いの目に指を入れながら目を合わせてくる暴漢。とにかく襲いかかってくる全身刺青の人。バスルームの人。あの汗か涙かわかんないけど、絶対目に落ちると思って身構えちゃった。怯える警官の話は通じないけど絶対撃ってきそうな感じ。医者一家はみんな良かったけど、娘が特に良かった。特にペンキのシーン。娘の部屋のシャンデリアが落ちてきそうで結局落ちないギャグも面白かった。「でも童貞じゃね?」という落ちのための壮大な章も味わい深かった。人生で最高の体験から最悪の展開からお母さん見てたっていう展開をこれでもかと畳み掛けるテンポと密度がすごい。終始話が通じないストレスはやはり現代世相への皮肉かな?

冒頭の荒廃した街は、ボーにとって恐怖の外界なんだろうけど、最近SNSで見るアメリカの路上の様子なんかを見ているとどこまで大袈裟な見せ方なのかわからなくて戸惑う。

あらゆるものが怖いボーさん。体裁は不条理ギャグだとして結局なんだったかわよくわからず。何か下敷の物語があるのか、風刺なのか。聖書がらみだともうお手上げ。親子関係とか、何かしらメッセージはあるんだろうけどその辺は全然わからず。
ホラー要素以外は、過去作の要素をたっぷり盛り込んで自由に作っている感じ。確かにアリアスター監督が一度制約をとっぱらって好きに作ったものを見てみたい気持ちはわかる。ありがとうA24。

役者さんはみんなあまりにもそれっぽくて俳優がやってると気が回らなかった。見せ方何だろうけどすごい。印象深いのは、ボーの子役。よくあんな、ホアキンっぽい人見つけてきたなっ!っていう。かつすごく印象的な面立ち。レディバードの神父役も印象深いカウンセラーのスティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンが今回は見た目は変わらないけど印象が一転する当たりかなり良かった。ドクター一家の娘ももうそういう人にしか見えないけど、時空が歪む存在感で良かった。サイトを見たらあの暴れる人が、「イングロリアスバスターズ」で冒頭のクリストフ・ヴァルツとのやりとりが印象深いドゥニ・メノーシェさんでビックリ。なんかもっとこういい役は無かったのかと思ってしますけど、アリ・アスター作品でいい役ということ自体難しいか。

ちょっと今までと経路が違うけど、『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』で「思わず笑いそうになっちゃった」or「笑えるのに笑ってる人いないかったけど、自分変かな?」な人は楽しめると思う。

次回作も、ホアキン・フェニックスらしい。楽しみ。映画の意味はわかんないけど、二人が通じ合ってるのはなんとなく伝わってたよ。

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