「ワイルドなぐりぐり」
「『ワイルドなぐりぐり』って、なにか知ってるか?」
「なんすかそれ? また何か変なのが流行してるんすか?」
地元の先輩とチェーン店で昼飯を食べていると、何の前触れもなくなぜかこの話題になった。
「ぐりぐりって、あの永遠の五歳児が母親にくらってるあれっすよね?」
「それをなんかワイルドにするって思ったやろ? それがちゃうみたいやねん。これ見てみ」
先輩のスマホの画面を見ると、そこには『ワイルドなぐりぐり』とタグのついた投稿が載っている。
肝心の中身はというと不思議な見た目をした飲み物や食べ物。
だけではなく、奇抜なファッションや奇妙な魚に一昔前に有名になったワイルド芸人まで様々で、果たして何を指しているのかが全くわからない。
「これ、本当にそのワイルドなぐりぐりなんすか?」
「そうらしい。これも見てみ?」
「うわ、ワイルドなぐりぐりってtwitteのトレンドにも入ってんすか!? マジやっべ!」
とりあえず驚いてみたが、結局ワイルドなぐりぐりとは何なのか。
その正体に興味がわいて先輩と一緒にしらみつぶしに検索してみたのだが、
「結局、ワイルドなぐりぐりがなにか全くわからんな」
「そうすね。もう諦めます?」
「そうするか。でも、三十分以上調べて何もわからんって相当やばいよなぁ」
特に行きたいところもないし、適当に近くを散歩でもするか。
会計を済ませ、店を出てそんな会話をしていたのだが、
『今話題のワイルドなぐりぐり、売ってます。この先百メートル先』
「マジか」
「マジっすか」
歩いてすぐにこの看板を見つけ、二人で呆然と立ち尽くしていた。
しかも、看板には丁寧にも地図までついている。
「せっかくやし、やっぱ行く?」
「行くか。やりたいこともないし」
すぐに再燃した好奇心を燃料に、撮っておいた写真を見ながら目的地にたどり着く。
すると、そこにはシートの上にぱっと見て五十個近く商品をおいている場所があった。
「すみません、ワイルドなぐりぐりって売ってますか?」
「あぁ、多分」
「え?」
店主と思われる、白髪の目立つ痩せこけた人物の驚きの返事に目を大きく開いていると、
「ここにはその言葉を検索したら出てきたもん全部置いてある。じゃけん、この中の少なくとも一つくらいは例のそれや」
「あぁ、なるほど」
「ん? お前らワシと同じでワイなんとかって何か知らんのか?」
その言葉を肯定すると、店主は突然近くのへんてこな形をしたおもちゃを一つ手に取り、
「ワシの直感じゃが例のブツの正体はこれや。今どき流行に乗り遅れたらバカにされるで! ささ、まけとりたるさかいこれ買っていき!」
「大丈夫です! 遠慮しておきます!」
セールストークをしてくる店主に、このままだとあれだけでなく他の商品も買わされそうな気配を感じ、即座にダッシュで逃げ出す。
さっき昼飯を食べた店の前まで来て、ようやくゼーハー息を吐きながら、
「もしかしたら、『ワイルドなぐりぐり』ってこういうことかもしれんな」
「どういうこと?」
「何でもかんでも『ワイルドなぐりぐり』って呼んでたらなぜか流行して、商品を売るために店側もいろんなもんを『ワイルドなぐりぐり』って呼んで、最終的にこうなったってことや」
「あー、なるほどな。でも、そんなことあるんかなぁ?」
結局『ワイルドなぐりぐり』の正体はわからなかったが、意外と先輩の言ってたことが真実なのかもしれないなぁと思う頃には、すっかり『ワイルドなぐりぐり』を町中やネット上で見かけることはなくなっていた。
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