平松逢夢

この度、短編小説を2週間に1作品を目標に投稿していくことにしました。 「短いけれど、…

平松逢夢

この度、短編小説を2週間に1作品を目標に投稿していくことにしました。 「短いけれど、心のどこかに残る」 そんな作品を、時間があるときにでも楽しんでいってください。

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【短編】「等価交換屋 ~何でも同じ価値の物と交換します~」

「こうかん屋さん。『ボクのぜんぶ』で、『とうかこうかん』はできますか?」 「……おや、これは珍しい小さなお子さんのお客様だ」  とある村の、ほとんどの人が知らないような森の奥にポツンと一軒。  「等価交換屋」と書かれた看板のお店に、7.8歳くらいの男の子がやってきました。 「ボクのぜんぶと『とうかこうかん』すれば、ほしい物はもらえますか?」 「……まぁまぁ、そう焦らなくてもいい。  まずは、ゆっくりとお話をしよう。  そこのソファにお座りなさい」  幼い子どもは、言

    • 幸福を求めて

       死神稼業を長年続けていると、様々な死について向き合わさせられる。 「……相変わらず人は度し難い。  自らが死ぬリスクを認めながら、どうして無茶を続けたのですか?」 「そこに山があるからだよ、パーカー君。だから、俺は今とても幸せだ」 「……死神を愛称で呼ぶ人間は、さすがにあなたが初めてですよ」 「おや、嫌だったかね? 君の着ているパーカーが素敵だと思ったから、そう呼ぼうと思ったのだけれど」 「……いえ、嫌いではないのですが」  真っ白な病室のなかで、すっかり衰えた

      • 甲子園、ベンチから戦う者よ

        ☆ 「いや、お前はこの夏、甲子園に出たんだよ」 「万年ベンチの俺への、慰めの言葉ですか?」 「まさか、本心に決まってるだろ」  打ち上げには参加させられたものの、当然、輪の中に入れるはずもなく。  そんな俺の隣の席に、カントクは腰掛けた。  カントクは今年から顧問を務めた、俺とは違って優秀な人材。  なんと言ってもやはり、俺たちの高校史上初めての、甲子園出場と優勝を同時に達成した人なのだから。 「というかお前、飯もろくに食ってねぇじゃねえか。  今日は俺の奢りなん

        • 【短編】刹那の花火が記憶に残るのは

          「それが、あなたが校舎の屋上から飛び降りようとした理由?」 「だって、刹那的なものは皆の記憶に鮮明に残るじゃないか」  放課後、グラウンドでは多くの部活生が練習に励む中、少女が少年を責める形でその会話は繰り広げられていた。  しかし、少年は反省するどころか反抗的な態度をとるばかり。  それも、そのはず。  少年とって少女は、計画を台無しにした邪魔者なのだから。 「昨日さ、花火大会あったの知ってる?」 「当然よ。この町の人なら誰でも知ってるでしょ」 「1人で見に行った

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        【短編】「等価交換屋 ~何でも同じ価値の物と交換します~」

          積もる雪に心は埋もれて

          「生きることって、きっと、誰かに迷惑をかけ続けるってことだよね」  それが、恋人が自殺をする前日に話していたことだった。 『○○は日常的に両親からの暴力に苦しめられていて――』 「…………」  彼の名前が刻まれた墓石に花を添えながら、何もかもが終わっていたことを知った、あの日を思い出す。  雪が降るようになってきた、寒い日の朝。  いつだってすぐに返ってきたメッセージが、その日に限って既読にすらならないことに違和感を抱いていたのをおぼえている。  その違和感が疑念に

          積もる雪に心は埋もれて

          【短編】ヒマワリ畑のかくれんぼ

           幼いころ、1人の女の子とヒマワリ畑で遊んでいたことを憶えている。  よくおにごっこをして遊んでいたけれど、記憶の中で一番鮮明に残っているのは、かくれんぼをして遊んだことだ。  子どもの背丈よりも高いヒマワリ畑では、隠れた彼女をなかなか見つけられない。  あの日はボクが鬼だったのだけれど、日が暮れるまで探し続けても、君は見つからなかった。  だから、どこに隠れていたのかを知りたくて、次の日も、君に会うためにヒマワリ畑へと向かったのだ。  だけど、かくれんぼをして遊んだあの

          【短編】ヒマワリ畑のかくれんぼ

          今日僕はちくわの中身を覗いてしまった

           しかし、何も起こらなかった。  僕は、ちくわの中身を覗いてしまったのに。 「まあ、そんなもんだよな」  ふと、いつか見ていたCMのことを思い出していた。  幼い子どもが、ちくわの輪の中をおそるおそる覗き込む。  すると、魚から、ちくわが作られていることを教えてくれる不思議な映像が流れる。  それを見た子どもは、驚きのあまり、ちくわから離れていってしまうといったCMだったはずだ。  キャッチーなフレーズが印象的だったのを覚えている。 「って、ふざけてる場合じゃなかっ

          今日僕はちくわの中身を覗いてしまった

          【超短編小説】一世一代の告白を、3度でも

          「……騙すみたいになっちゃって、ごめんね。  実はボク、男の子なんだ」  だから、君は俺と付き合えないと言う。  一世一代の大勝負。  なけなしの勇気をふり絞った告白だった。 「……違うよ」  だったら、そんな大勝負が1度に1回あろうと、2回でも変わらない。 「俺は、君を男の子として愛してる」

          【超短編小説】一世一代の告白を、3度でも

          それでも僕は、今も親を愛してる

           僕の『養父』は、9回目の殺人を犯したらしい。 「本当に、よく捕まらないよね」 「コツがあるんだよ、コツが。  何事も、成功するには正しいやり方を知れば何とかなるもんだ」  個室の居酒屋で、いつものビールを飲み干しながら、今日も養父の自慢話の聞き相手になる。  すでに養父はビールを何杯も飲み干していて、かなり酒に酔っている。  その口からポンポンと、大層楽しげに物騒な話を語り続けていた。  殺す相手の決め方。  日程や凶器などの計画の立て方。  当日起きた予定外の事態へ

          それでも僕は、今も親を愛してる

          【短編小説】電子の海に溺れている

          電子の海に溺れている 苦しいだけだと聞かされていたのに、その心地よさから離れられない。 どうが、しょうせつ、いらすと、ついーと、 深く、深く溺れるほど居心地がよくて。 『……、……、…………!』 気が付けば、深海に住み着いていた。 『……! ……!!』 曰く、深海魚は独特な生態をしている。 深海は、川や浅瀬と環境が違う。 ならば、ここでしか生きられない自分という生き物は、 ようやく、ようやく生きるべき場所を、見つけられた。 『……! ……!! ……!!』 ――バ

          【短編小説】電子の海に溺れている

          火のない所に煙は立たぬ

          「君、確か家庭を持ったら子どもがほしいんだっけ?」  今日も、君は俺の気持ちを無視して話しかけてくる。  いつも隣にいる彼女が持ち出す話題は、いつだって恋愛の話だ。  口を開けば理想の男性像について話し始め、話題を変えても、気がつけばロマンチックな出会いの話になっている。  正直、頼むから別の話をしてほしいと思っている。  そんな内心を、彼女も察してはいるのだろう。  それをわかったうえで堂々と無視をするのだから質が悪い。  つまり、結局どれだけ拒絶しても勝手に話し始め

          火のない所に煙は立たぬ

          【140字小説】ハルノサクラ

           俺が恋した春野サクラという幼馴染は、本当に名前通りの女の子だった。  誰もが認める美少女で、よく浮かべていた満開の笑顔に何度見惚れたのかは、もう全く覚えてない。  ……だけど、俺たちはまだ高校生になったばかりだぞ?  あっという間に散ってしまうところまで、名前通りな必要あったかよ……。

          【140字小説】ハルノサクラ

          「ワイルドなぐりぐり」

          「『ワイルドなぐりぐり』って、なにか知ってるか?」 「なんすかそれ? また何か変なのが流行してるんすか?」  地元の先輩とチェーン店で昼飯を食べていると、何の前触れもなくなぜかこの話題になった。 「ぐりぐりって、あの永遠の五歳児が母親にくらってるあれっすよね?」 「それをなんかワイルドにするって思ったやろ? それがちゃうみたいやねん。これ見てみ」  先輩のスマホの画面を見ると、そこには『ワイルドなぐりぐり』とタグのついた投稿が載っている。  肝心の中身はというと不

          「ワイルドなぐりぐり」

          文字のない世界

          「『約200年前、この世界から文字は存在する意味をなくした』。あぁ、ここで『約』という表現を使っているのは、正確な日時が伝わっていないからなんだ。  知ってるかい? かの有名なディズニーの『白雪姫』。あの原作でお姫様は死ぬんだよ。毒リンゴを食べて、王子様の口づけで目を覚ますこともなく。  遥か昔から、口頭で伝えられてきたお話は語り手の記憶違いや勝手なアレンジで別の物語に変わっている。特に、あまり重要ではない情報はなおさらだろうね。  だから、今ではその事件が起こった日はもう誰

          文字のない世界

          異端

          【異端】 その世界で正統とされていない学説や宗教。「――者」 ―視 正統でないものとみなすこと。 ―者。 1.正統でない教えや学説を信ずる人。2.伝統や権威に背く人。 3.仲間外れ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽   とある宗教を国教とし、信仰心のもと国民が一致団結し、他のどの国にも負けない発展を遂げたこの国の議会には独特な制度がある。  「異端審問」  聖典曰く、『この国が発展したのは唯一神イアが我々により深き知恵を授けなさったからである。しかし、イアを心底嫌う