掟上今日子の忍法帖を読んで

 まず、忘却探偵シリーズにおいて物語の根幹に掟上今日子の記憶リセットがある。寝ることで記憶がなくなるために、守秘義務が完全に守られ警察が掟上今日子に依頼するという理屈になっていて、そこから物語は展開される。しかし、それだけでなく当人が記憶できないが故に、過去にとらわれない性格が表れていると思う。物語として、主人公は掟上今日子であるはずなのに主人公自身の成長は全くない。主人公自身は変わらないのに周りの状況が刻々と変化している。

 この本では、忘却探偵の要素に加えて、忍術とアメリカの要素がメインに描かれている。忍術は日本固有の文化であるが、日本人である私たちもよく知らないのではないか。この本の中で忍術はアメリカの文化同様に自分たちの文化とはかけ離れた、言うなれば高校で習う古典のようなものであると思う。作者はこの本で自国文化と他国文化の対比というよりも、他国文化二つの対比という形で描いているように思う。ニューヨーク市警は忍術が日本で一般に使われているものと考えていて、反対に掟上今日子は忍術や忍者について一般読者よりも深く知っているように描かれている。多分、もしかしたら私が浅学なだけかもしれないが、私たち読者はどちらからも距離が離れた第三者であるように設定されていると思う。もちろん、どちらかといえば掟上今日子よりではあるが。
 
 話の構成としては、問題解決に掟上今日子はあまり関わっていないというか事件解決を焦点に描かれていない。ただただ、文化の違いを描くということころに注力されているように思う。この本をミステリーと思って読むのは何か違う気がする。ライトノベルといって一蹴するのも違う気がする。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?