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【映画感想】『ONE PIECE FILM RED』ダメ親父シャンクス 思春期の娘との子育て奮闘記

映画館でワンピースの映画を見るなんていつぶりだろうか。
昔、父親に連れられて「ONE PIECE ねじまき島の冒険」を見たとき以来であろう。実に20年ぶりの劇場鑑賞である。

さて、結論から言うとこの映画は傑作です。映画館に見に行きましょう。
良い意味でこれまで見たことがないものが見られる映画は傑作、と敬愛するフォロワーが言っておりました。
歌唱シーン、もといMVが多用される作品であるため、音響設備が充実した環境で視聴した方が良いのは間違いないでしょう。(ここだけ敬語)

ネタバレ解禁は2022年8月15日みたいなので、気になっている人はすぐに時間を作って見に行こう。注意しておくとすると、劇中歌の「ウタカタララバイ」は歌詞がほぼストーリーを語っているため、調べないことを勧める。

歌唱シーンとストーリーのテンポが最高

解説するまでもなく、本作品は登場キャラの1人ウタ(歌:Ado)のMVに彩られており、中盤まではこれでもかと多用される。私はミュージカル映画とは、劇中意味が無くても歌唱シーンがあるものと思っており、実は本作はウタは意味無く歌わない。ライブの一幕、戦闘、敵キャラ召喚の呼び水と、意味は様々。なので、本作をミュージカル映画に分類して良いものかは分からない。

前半は上記の通り、メインストーリーの間に歌唱シーンが挟まれる構成になっており、前半全く話が進まないということはない。むしろ、歌唱シーンとストーリー、戦闘パートがテンポ良く進んでいく。これまでの、盛り上がるまでの前半がかったるい点が解消されている。

レビューには、前半が面白くないというものが多かったが、全然そんなことはない。むしろ、前半の方が面白い。後半は、お決まりのコース(なんやかんやあってボス倒すんでしょ)確定なため、退屈とまで言わないが既定路線。みんなが後半の展開を見たいのは分かるけどね。

例えば、「ウタカタララバイ」が流れるシーンは、サイケなMV風の映像が数十秒続くシーンがあり、人によっては何を見せつけられているんだ!(怒)となるだろう。私は、ワンピースでミュージカルをやってもハマるんだという新鮮さで飲み込めた。やっぱり高いお金払うなら新しいものが見たいよね。ルフィがボスと戦わない

ルフィがボスと戦わない

中盤から後半にかけては、MV要素が薄れ、楽曲が単体で流れてくるようになる。そしていよいよ、ウタとシャンクスの過去・秘密が明らかになり、物語が一気に加速してくる。ルフィとウタがサシで対峙するシーンもこの映画の大きな見どころである。

ウタの能力が明かされることで、「ルフィの自由を求める心とウタの世界を支配し得る力の対立」がテーマとして描かれていく。ほぼ同時にウタの過去が明かされ、今回の騒動を起こす動機も十分に視聴者に理解出来るように描かれている。ウタの戦う動機はいいとして、今回注目すべきはルフィの戦う動機である。

なんと今回、ルフィはボスであるウタと(拳で)戦わない。では、どうするか。ひたすら説得するのである。思えば今作のルフィの言動はこれまでのルフィ像と大きく異なるように映る。自分の考えを口に出し説得を試み、ウタの過去に興味を持つ。仲間を傷つける敵と判明しても戦闘はしない。仲間の危機を救うため、敵をぶっ飛ばしてきたこれまでのルフィと大違いである。ただ何故かは明確である。ウタがルフィの親友だからである。

これは他の作品では良くある展開ではあるが、ワンピースでは見られなかった。つまり、かつての親友が信念の違いから裏切り、対峙する展開である。ラスボスが親友って展開、熱いよな!ルフィとウタを直接戦わせることも出来ただろうが、それではこれまでと変わらない展開であるし、控えている赤髪海賊団を立たせることが難しくなってしまう。(それにルフィじゃ能力の相性で100%勝てない)

ここでルフィはウタに「何のために海賊やってるの?」と聞かれ、「新しい時代を作るため」と明言している。これが原作でのルフィの夢の果てかは分からないが、作品の根幹の思想に触れている気がして、まさか最終章に絡んでくるのではないかと、ゾワゾワした。こんなに明かしちゃって大丈夫か!?

ウタの過去中のシャンクス

さて、とはいえウタの過去にも触れておこう。むしろ、個人的に一番この記事で言いたい部分でもある。

中盤、ようやくウタの過去が自身の口から明らかになる。シャンクスがウタをある島に置き去りにする理由が、劇中で語られる通りかなりヒドい。アフターフォローを上手くやったつもりだろうが、やってることは完全アウト。一方的な置き去り、夢の押し付け、説明不足、親を裏切り者扱いさせる、事実の隠蔽……誤解で、後に解けたとしても、そんな思い出を植え付けさせて子供のメンタルに良い影響与えるわけない。

シャンクスよ、せめてもう少しマシな言い訳を考えなさいよ。一緒に残したゴードンにも言い含めるのが足りな過ぎ。自分が悪役になって、事実を隠せばいいってもんじゃないでしょうが。自分が腐らずに来れたのは、拾ってくれたロジャーが立派に親の背中を見せてくれたからだし、子を置き去りにしたヤソップがウソップに慕われてるのは、母親から父親は立派な人物であると聞かされて育ったためだということがまるで分かってない。シャンクスおめー、イケオジ感出してるがさてはダメ親父だな?

ラスボス戦はまあそこそこ…

正直、後半のバトルパートはあまり語りたくならない。この映画、ラスボス戦に至るまでの過程の描き方に全てが詰まっている。確かに、麦わらの一味とビッグマム海賊団と赤髪海賊団との共闘の描き方の妙は感心したが、どうしてもお決まりの展開を見ているようで、そこまでノレなかった。

シャンクスが遅れてやってきて仲裁する、頂上決戦編やワノ国編で見た展開であるし、劇中本人が言っているようにこれは遅過ぎた「親子喧嘩」なのである。それも世界も巻き込んだとても傍迷惑な。ここまで拗れる前に、親子喧嘩するならエレジア島でやっておくべきだったなシャンクスよ…と思う筆者なのであった。

世間の評はシャンクスかっけーだが、実は逆だと思ってて、娘と最悪な別れ方さすし、親子喧嘩に全世界巻き込んでくれてるし、カッコいい親父とは程遠いのではと。その点は、結局良かれと思ってやったことの尻拭いに奔走する展開にさせてくれる、アベンジャーズシリーズのトニー・スタークに既視感がある。だから、シャンクスが落とし前つけたり、苦悩するシーンを掘り下げて見せて欲しかったなと思う。(FILM UTAではなく、FILM REDなら尚更)

ラストシーンとまとめ

ルフィがウタに語った、「新しい時代を作るため」という言葉により、
ラストシーンの「海賊王に、おれはなる!」という恒例の決めゼリフの意味が一段階深く理解できるようになる。これは良いラストシーンであった。「(ウタのように人を支配しない自由な新時代を作る)海賊王におれはなる!」

というわけで、ONE PIECE FIML REDは、当初はおちゃらけて親しみやすいキャラだったのに、話の流れで持ち上げられまくって神格化されていたシャンクスを等身大のキャラに引き戻した話でした。ではまた。

補足

ルフィが初期から「だって、海賊は歌うんだぞ?」と言って音楽家を仲間に引き入れようとしていた理由が見事に補完されていた。うーん、見事。

#ネタバレ


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