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最愛の君へ #あなたへの手紙コンテスト

今や、余生を送るだけの私より、これまで書き溜めた日記の一部を手紙として君に残す。


「子供ができた」 君のお母さんから言われた。まったく実感が湧かない。結婚したという事と同じくらいに。礼儀として喜んだふりをした。
君が生まれた。君を生むのに母さんがひどくつらそうだったけど、その苦痛は男である自分には全く想像できない。演技をしている人を観るように曖昧な笑みを作って、母さんに叱られた。
君は思っていたよりもきれいな顔をして生まれてきてくれたから安心した。テレビで観るようなお猿さんみたいな子だったらどうしようかと思っていた。それでも実感が湧かないのは変わらない。
母さんが君を連れて家に帰って来た。「これからちゃんと一緒に育てていこうね」と言われた。ちゃんと育てるという事がどういう事なのか解っていなかったけど、母さんの機嫌を損ねたくなかったので、解ったふりをした。
君のオムツをかえるのに苦労した。女の子の体を理解していない事を理解した。夜泣きはつらい。お風呂に入れるのだけはうまくできるようになった。
君が歩いた。ヘタクソだが、ようやく人間らしい一歩を標した。君を見て、人間がどれだけ動物として弱い生き物かと思い知らされた。もちろん君だけではないのだけれど。
君を公園に連れて行く。君は楽しそうに遊具で遊ぶのだけれど、危なっかしくて目を離せない。君が生まれてくるまで、自分がどれだけ自分の事しか考えていなかったのかわかった。
君を保育園に入園させる。母親と私のいない場所へ君をあずける。不安しかない。よその子と仲良くできるのだろうか。先生の見ていないところで怪我などしないだろうか。
無事に君は卒園できた。運動神経は鈍いが、明るく友達と上手くやっていける能力はあるようだ。ちょっと真面目すぎるところがあるから、少しは適当にやる事も覚えても良いのでは。
宿題が終わらないと泣く。宿題なんてたまには忘れてもいいと言ったら、君は怒って余計に泣く。胃の中の物を吐くまで泣かなくても良いと思うのだけれど。そこは父にも母にも似ず、強情でやっぱり真面目すぎ。
小学校を卒業、中学校に入学。君は仲のいい友達と相談して、不良のいない中学校に進学する事に決めたようだ。そんな中学なんてあるのかと疑問を抱いたが、本当にあるようだ。平和なのはなによりだ。
母さんから離婚したいと言われた。子供は母親と一緒に暮らす方が良いと考え、私が家を出る事に決めた。君と一緒に暮らせなくなるのはつらい。でも、君にとってはお母さんが毎日暗い顔をしている方がつらいことだろう。それに比べたら私のつらさなんてたいした事ではない。君が中学を卒業するのを見計らって、家を出ることに決まったよ。
中学卒業おめでとう。そしてサヨナラ。自分の経験から、家を出て行った父親と会うのは、会ったあとの辛さがしんどいのを知っている。だからもう会わないようにしようかとお母さんに提案した。でも君のお母さんは、定期的に会ってやって欲しいと言った。夫としてはもう好きではないけど、子供の父親としては頑張ったからと。
夏休みに君を誘って遊びに行く。君は楽しそうにしてくれるし、私も楽しそうに努める。でもやっぱり別れる時はつらい。私は最初から別れる時のつらさを思いながら一日を過ごす。君もそうだとしたら可哀想すぎる。
これまで何度か君を連れて遊びに行ったが、最近は部活が忙しいとかで、断られる事が続いている。年頃的にもそうだよな、と納得する。しかし断られるのもつらい。誘うのにも臆病になってきた。
君は東京で就職する事になった。車で2時間ちょっとの距離だけれど、もうそれほど会えないだろう。君は君の夢を追いかけて東京に行く。がんばれ! としか言えない。
君から突然の婚約報告。相手の男を連れて来て、一緒に食事をした。お酒は飲まないらしく、私は一人で酒を煽った。「お父さんったら、変な冗談ばかり言うのやめて」と君に叱られたが、まともな話なんてできやしない。娘よ、すまん。
今日は君の結婚式。式場への招待は辞退したが、心から君の幸せを願っている。私と母さんが君を迎え入れた時のように、君も彼と新しい家族をつくり、戸惑いながら育ててゆくのだろう。でも大丈夫。君と、君の信じた人とならうまくやっていけるさ。そう私は信じている。孫は男の子がいいな。男の子とならおもいっきり遊べる。私だってまだ走れるうちに男の子とボール遊びをしてみたい。君は運動音痴でボール遊びはつまらなかったから。なんて勝手な事言っても仕方がない。健康に生まれてきてくれる事に越した事はないな。ほんとは私のほんの小さな我が儘なんかどうでも良くて、君たちがたくさんたくさん幸せを感じられる瞬間を繋げていける事こそが私の最大の望みだ。ここからが君の人生における最大のスタートだ。健闘を祈る。

私より、誰にも負けない愛を込めて。





すみません。

3つ目も書いちゃいました。

大真面目に。

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