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ささやかな時


休みの日はいつもこの公園に来る。

ベンチに腰掛け、文庫本を開く。

もう何度も読み返してくたびれた文庫本の適当なページを開く。

気に入った箇所を読み返すこともあれば、ただ開いているだけで別の事をぼーっと考えている時もある。

肝心なのは、気持ちの良い昼下がりに公園に本を読みに来ている暇人だと、他人から見えることだ。

何もしないでじろじろと辺りをうかがっている不審者などと思われてはいけない。

実際に、その場所で風景や人々の動きを観察するのが好きなだけなのだから。



今日も文庫本を片手にページの向こう側を眺めている。
今日は文字が頭に入って来ない。

もう片方の手は、ジップアップのパーカーのポケットに突っ込む。秋晴れの陽射しが心地よい日だが、風が吹くと少し肌寒い。

ゲートボールのスティックを持った老人が2人、目の前の遊歩道を通り掛かる。

夫婦だろうか、男性の方は腰が曲がり地面を見ながら歩いている。
ふたりとも楽しげな表情だ。

羨ましい。
これまでいろいろな事があっただろうに、人生の終盤に至ってもまだ隣に居続けてくれる人がいる。

ふたりが向かった遊歩道の先を下ると、ちょっとしたグラウンドがある。
そちらの方からスティックで玉を打つ、カーンという乾いた音が聞こえてくる。
この音は好きだ。

園服を着た幼児達が遊具で無邪気に遊んでいる。
母親達は何か深刻そうな顔をしながらお喋りをしている。

木の上で鳥が鳴いている。
茂みから猫が飛び出してきて、それを別の猫が追いかける。
うぎゃーっ、という叫び声でそちらを向くと、2匹の猫はケンカを始めていた。

黄色に染まった葉が文庫本の上に落ちてきた。
栞にでもしようかとパーカーから手を出し、枯れ葉を取る。

「幸せかい?」

と、物語の主人公が問われていた。







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