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参拝(あるべき場所への思考ドライブ)

10:30 愛車に乗り込みエンジンをかける
今日は新屋山神社へ向かうのだ。
カーナビは情報が古くてあてにならないので、スマホのGoogle Mapで行き先を登録し、音声ナビゲーションを開始する。
私は慎重に車を発進させた。

新屋山神社へ行こうと決めたのは、ある客の勧めがあってのことだった。
その客は元々はグループ店舗の常連客で、うちの店には年に3回ほど来てくれる程度だった。
それがこの10日の間に3回も足を運んでくれた。
その客というのは40代女性で、背が高く横幅も大きい。
そして声はでかくてガハハと笑う豪快なタイプの客だ。
私はその女性のことが嫌いではないが、少し苦手に感じていた。
だから先週、彼女からその神社に行ってみるといいよ、と言われた時には適当に返事をして、実際に行く気などまるでなかった。
それが3日前にまた彼女が訪れてその神社の話をひとしきりして帰ったあと、行ってみるのも良いかなという気持ちに変わった。
その時点はあくまで、ドライブがてら行ってみてもいいかくらいの気持ちで、雨が降ったら止めようと思っていた。
前日、天気予報を確認すると昼から雨になっていた。
しかしもう、その時には行くべきだと心を決めていた。
それは近頃感じていた違和感からだった。

ナビゲーションでは最短ルートで向かえば1時間15分で行けると教えてくれていた。
が、私は高速道路を利用するそのルートから、下道だけの山を抜けていくルートを選択した。
そのルートでは2時間13分かかる予定だ。
余分に1時間もかかってしまう。
それでもそちらのルートを選んだのは、高速を走るよりも山道を走った方が今回の目的には相応しい筈だと、なんとなく感じたから。
私はどんよりとした重たい雲の下、なるべく新鮮な空気を取り込もうと運転席側の窓を開けたまま車を走らせた。

ここのところずっと身体が重く感じていた。
特に肩や首のあたりの筋肉が固まっているようだった。
重く感じていたのは身体だけじゃなく、気持ちも同じであった。
あの生き霊が憑いていると言われたことがきっかけなのかと考える。
わからない。
彼女曰く、その神社の御利益は金運と商売繁盛。
日本三大金運神社のひとつであるらしい。
商売繁盛は嬉しいが私の今の一番の願いは他にあるのに、それでも私をその神社へと向かわせたのは、彼女の体に漲るパワフルなエネルギーのようなものを受けたせいなのか。

途中で昼食をとり、富士宮を抜けて山梨県の富士吉田に入る。
天気予報どおり、細かい雨が降ってきた。
浅間神社の脇を通り細い山道へと折れると、新屋山神社本宮の駐車場に着いた。
車を降り、彼女から言われたとおりに鳥居の前で、おねがいします、とお辞儀をしてから階段を上がった。


新屋山神社本宮前の鳥居

鳥居に掛けられた縄が、頭を下げながらでないと中に進めないようになっている。


奥に本宮が見える

有名な割にはこじんまりとした本宮。


手水

手水で清めてから参拝する。
お賽銭はピン札の1,000円を入れると良いと聞いていたが、ピン札は用意しなかったので、財布の中から一番きれいな千円札を選んで入れた。
お札を1,000円で譲っていただき本殿をあとにする。
で、ここからが本番と言っていい。
実は新屋山神社は本宮の他に奥宮がある。
そして奥宮は富士山二合目(標高1,700m)に位置し、こちらの方がパワーが強いと言われているからだ。
再び車に乗り込みナビゲーションを設定し直す。
車で20分程移動するようだ。

林道を上がっていく。
車外の空気が急に変わったような気がする。
澄んだ空気はひんやりと肌寒い。
窓を閉める。
辺りを霧が包んでいく。

このあともっと霧が濃くなる

前を走るテールランプを頼りについていく。

最近は仕事を終え帰宅すると、とても疲れている。
身体が石になってしまったかのように固まる。
鉛を飲み込んでしまったように心も重い。
眠ると夢を見る。
ここ5日くらい同じような夢だ。
私のことを大切に想ってくれる女性が現れる。
それは過去に私と関係のあった女性であったり、全く知らない若い女性であったりする。
シチュエーションはそれぞれ違う。
同じなのは、現れる女性が私のことをあらゆる手段で励ましたり元気づけようとしてくれる事だ。
私は、彼女たちが私のことを本当に大事に想ってくれているという事を感じ取る。
言葉で伝えてくれるひと。
何も言わずにただ見つめるひと。
私のものを受け入れ、体から愛情を溢れさせるように伝えてくれるひと。
夢の中の私は別に落ち込んでいる訳ではないのに。
そのような夢を見ることで心のバランスをとっているのだろうか。

所々に伐採された木を集めている場所がある。
皮を剥がれた杉が、赤茶けた肌を露出している。

そういえば彼女が気になる事を言っていた。
「奥宮はご縁がある人だけが辿り着ける」
林道を走っていると、自分は何処か別の所に迷いこんでしまっているのではないかと不安になる。
実際は一本道なので迷うことなど無いだろうが。
ひたすら林道の一本道は続く。

ハンドルを握りながら、ふと先ほど不安になった事こそが今回、私を動かした理由と同じだということに気づく。
自分は今、自分でも知らぬ間に間違った場所にいるのではないか。
すーっと何も無かったかのように通り過ぎてきた日々の中で、気づかぬうちに重要な分岐点を見逃してしまったような気がしていた。
今、私が感じているのはそのような不安とか気持ち悪さであり、自分という人間の立ち位置としての居心地の悪さであるという事に気づかされたのであった。

道路の左端に先程まで私の車の前を走っていたステーションワゴンが停まっているのが見えた。
その車の手前に一瞬、小さな案内看板が目に入った。
同時に音声ナビが到着した事を教えてくれる。
慌てて車を左端に寄せた。


小さな案内看板

なるほど、これはナビゲーションシステムがある現代だからまだ辿り着けるけど、その前の時代だったら通り過ぎてしまう人も大勢いるのだろう。
いちど通り過ぎてしまえば何処へ続くのか知らぬが、異世界へと誘いこまれてしまうかのように狼狽えるであろう。
例え途中で引き返して来ても、反対側からはこの案内は見えにくい角度で設置されている。
正に注意深く見つけられた人だけがご縁に結ばれるという事になる。
そして私は改めて、自分の人生の内の割合近いこの3年くらいの間で、案内板のようなものを見落として、何かのタイミングを逃してしまったのだと確信めいたものを感じた。

車を降り、案内の先へと進む。


サークルストーンへの鳥居

先に参拝するように言われたサークルストーンの前の鳥居をくぐる。

サークルストーン

サークルストーンの石組みのまわりを3周廻る。
異様な雰囲気を感じる。


奥宮の本堂

こちらは本宮より更に小さい。
が、不思議なパワーを感じた。
また千円札を入れてお参りする。
〈自分のあるべき場所に戻れますように〉
お願いをするべき所ではないのは承知の上で、それでも願ってしまう。

ここでの参拝は単に神様が金儲けできるようにしてくれるという訳ではないということだ。
この場所でお参りする事によって、神様から強大なパワーをいただき、そのパワーを他人の幸福のために使うことで己の信頼や徳が上がり、やがてそれがお金や仕事として自分に戻ってくるということだ。

車に乗り込むと、どっと疲労感が押し寄せてきた。
「わたしは最初に参拝した時に急に体調不良になって気持ち悪くなってきた」
彼女はそう言っていた。
他にも体調が悪くなる人が多くいるらしい。
他所のパワースポットでも、そのパワーが強いほど人体に影響があるという話もよく聞く。
私もこの場所のエネルギーにやられてしまったのだろう。
心体が元気な時に訪れた方が良いのかもしれない。

下り坂を走り始めてすぐ、車道の左側に何かの影が動いたような気がした。
よく見ると生えた木の枯れ枝が揺れていた。
そのすぐあとに右側を犬の散歩をしているような老婆がいた。
腰の曲がった老婆から伸びる赤いリードの先には、何も繋がっていなかった。
一瞬見ただけだったからリードに繋がった犬かなんかは、草むらに隠れて見えなかっただけなのだろう。
しかし、ずっと家や建物が全くないこの山の中を、あんなに腰の曲がった老婆が散歩しているのだろうかと考えて不思議に思った。

「位置情報が消えました」
帰り道、音声ナビが何度も繰り返した。
何度か走った事がある道に出た頃、
「位置情報を入手できません」
と繰り返し始めたので、私はスマホのナビゲーションをオフにした。

なんとか無事に家に辿り着いたけど、さてこれから何か良い方向に事が進むのか。
私はあるべき場所へ辿り着けるのか。
御利益に期待する。

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