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フリーライターはビジネス書を読まない(34)

場所を尋ねたら「お菓子屋の上」って、どこやねん……

ミニコミ新聞は、私が住む区内のお店とかイベントの情報、記事広告などを発信するタブロイド判で、新聞販売店が副業でやっている広告屋が制作していた。それを月に1回、新聞に折り込んで配布しているのだった。
制作資金は区内の販売店が10万円ずつと、広告収入で賄われていることを、後になって知った。

電話をかけてきたのは、その広告屋で事務職をやっているおじさんだった。
「うちの社長が、いちどお会いしたいというてます。書いてもらう内容とか、料金も含めて」
社長といっても販売店の大将なのだが、広告屋は有限会社だから社長といえば社長か。

地元に得意先ができるのは、ありがたい。
「はい、お伺いします。場所はどちらでしょうか」

Googleマップで簡単に検索できる時代ではない。地図を広げて住所をたよりに探すより、こいうときは訊くほうが早いのだ。
「お菓子屋の上ですわ」

このとき私の脳裏に一瞬浮かんだのは「この人は他人にものを伝えるとき、分かりやすく伝える努力をしないのだろうか」ということだった。

「え、えーと、どこのお菓子屋さんですか?」
「○○のお菓子屋です」
○○は町名だが、その町には百軒以上のお菓子屋がある。
「なんという店名ですか。近くに分かりやすい目印はありますか」

もしかして、地図から探したほうが早いかな。

「△△駅の筋向いにある□□屋という店ですが」
あー、その店なら知っている。我が家から1本道で行ける。
それにしても、説明がヘタにもほどがある。

翌日、その広告屋を訪ねた。昨日の電話で時間を決めていたが、社長は不在だった。販売店で何かトラブルがあって、少し遅れるとのこと。
通された事務所は、事務机が6つほど島型に並んだ一角と、印刷機が1台置かれたスペースがあって、それぞれのスペースの間に間仕切りはなかった。

机は6つあるが、昨日電話をかけてきたおじさんと、デザイナーだという若い女の子との2人だけで、ほかにスタッフがいる様子はうかがえなかった。

「2人で業務されてるんですか」
おじさんのほうに訊いてみた。
「通常はこの2人で、夕刊の配達が済んだら、販売店からもう1人来ます」
と、女の子のほうから返事が返ってきた。
販売店と兼けもちしているスタッフもいるのか。

そうこうしていると「遅なってすまん」といいながら、50歳過ぎくらいのオヤジが入ってきた。
「待った?」
「社長です」
「あ、はじめまして、平藤です」
名刺を交換して、あらためて自己紹介と挨拶をする。

「うちでつくってるミニコミ新聞を手伝ってほしいんやけど、原稿料は安いで」
おっと、いきなり核心をつく先制攻撃。でも、まあ常識的な範囲なら、この際ぜいたくはいわないつもりだ。
「それと、前から書いてもろてる女性のライターがおるんや」

このオヤジ、大阪弁をしゃべってはいるけれど、ネイティブな発音ではなかった。どこか地方から移り住んできた人によくある、地元のイントネーションを微妙に残した発音だ。本人は大阪弁のつもりでしゃべっていても、大阪で生まれ育った人間が聞くとどうしても違和感がある。

オヤジはしゃべり続けた。
「そのライターが、真面目なんはええねんけど、自分で抱え込むタイプなんかな。いっぱいいっぱいになってしもて、ギブアップ寸前なんや。紙面に穴はあけられへんし、ちょうどあんたのハガキが来てたから、この人に手伝ってもらうかということでな」

なるほど、私が呼ばれたのは助っ人としてなんだな。
「まぁいっぺん会うてみて。今夜にでも電話させるわ」

紙面を見せてもらったけれど、広告のほかは区内のお店紹介とか記事広告のインタビューぐらいで、ひとりで抱え込んでいっぱいいっぱいになるような要素は、このときは見当たらなかった。

「ところで、原稿料の相談やけど」
いちばん肝心な話が始まる。経験則からいって、ここでヘタに妥協してしまうと、後からの値上げはほぼ不可能なのだ。

(つづく)

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