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【近接戦闘】兵器としての槍ー有効だが、放棄される

以下で見るように、国民党軍・中共軍ともに槍を有効な兵器だと認識していた。
にもかかわらず、中共軍は槍を放棄する方向性を明確にもっていた



国民党軍の内部文書ー小銃よりも槍

国民党軍は、白兵戦などの観点から、小銃よりも槍を採用しようとしたことがある。
以下の記事で記述したように、国府軍内部文書には「白兵戦ニ有利ナル槍兵」という言葉が見られ、部隊の半数近くを小銃ではなく槍・手榴弾で武装させる構想もあった。
白兵戦に小銃は不利で、銃剣に対しても否定的な見解が書かれていた。



中共軍の教範ー効果的だが、放棄すべき槍

中共軍の教範である「抗日遊撃戦争」では、「大刀、銃剣、長槍」をもちいて奇襲攻撃について書かれている。
このなかで、日本兵は長槍を最も恐れているという日本軍捕虜の証言が紹介されており、槍の有効性を強調している。
(詳細は以下の記事にある)

しかし、ここで注目したいのは、のちに「遊撃隊は長槍があれば充分であるといっているのではない」とし、「もしも新式の武器を手にすれば、かれらは無限の力を発揮するはずである」と述べていることである(※1)。

また、別の場所(※2)では「遅れた劣った武器の拝物主義者になることはできない」「紅槍会のある師父のように(中略)砲弾に立ち向かうのは、無益にして有害」としている。また、敵の兵器を鹵獲して運用することを説いている。

これらの記述から、槍のような前時代的兵器の効果的活用を推奨し、その有効性を示しつつも、将来的には鹵獲した近代的兵器の活用を企図していたと思われる

※1 朱徳「抗日遊撃戦争」日中戦争史研究会『日中戦争史資料―八路軍・新四軍』龍渓書舎、242-243項。
※2 前掲書、205項。


井岡山の戦闘ー槍で勝ち、槍を捨てる

井岡山での戦闘では、白兵戦がおこなわれることがあった。
戦闘には槍が使用されることがあり、「こんなときに槍はすばらしい武器であり、その白兵戦での長所をいかんなく発揮した」「軽い槍はもっとも有力な武器となった」などと絶賛されている。

しかし、以下のことに留意したい。
・この戦闘で編成された白兵戦部隊は槍を装備していたものの、決して槍が主力ではなかったこと。
・本戦闘後、一部部隊では槍は地方遊撃戦部隊に譲り、小銃を装備するようになったこと。


ブラウンー槍は兵器ではない

ブラウンの回顧には、長征出発前の中共軍について装備・編成が述べられている。
興味深いのは、「予備師団」に関する記述(※)である。
かれらは物資の運搬が主任務だったようだが、「事実上武装していないに等しかった」という。
その理由としては、彼らの装備である「槍だとか、刀、短刀などはお笑い種」だったからだという。
ブラウンにとって、槍は兵器ですらなかったのだろう。

※オットー・ブラウン『大長征の内幕』恒文社、1977年、131項。


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