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煙草〈コップ一杯の夢と適量のノンフィクション〉

煙草の匂いが苦手だ。

煙を吸うと呼吸と発語がしづらくなる。正直興味はあるが、副流煙でこれだから実際はもっと酷いことになるのだろう。

幼いころは大人の姿が眩しくて、大人にしかできないことに憧れだった。お酒だってそう。だけど知らない方が良いことだってある。酔っ払ってダル絡みする人が苦手だ。誠実そうに敬語で話していたのに自分が年上だと知った途端に先輩ヅラでタメ語になる人が苦手だ。移動は運転だから飲みたくても飲めない自分が苦手だ。子供から無条件で大人にはなれたのにその逆はできない。10年前に思い描いた自分にどれくらい近づいたのか。

夢は叶えるよりも見ている方が美しいのかもしれない。気づいたら夢を追わなくなった。いや、現実が忙しくて諦めたのか。大人になると諦めざるを得ないことも増える。

若者は夢があっていいな、などと私も若いのに考えてしまう。こんな時はグラスに入ったアルコールや煙の漂う煙草が似合うのだろう。煙草の煙を吐き出す人は何を思いながらそうしているのだろう。1人寂しくジンジャーエールを飲みながらふと思う。

いや喫煙という行為に意味などなく、大人に憧れて吸った人もいるのか。きっと後悔しているかもしれない。洗濯できない衣類に臭いが予想以上に染み付いた。だけどその匂いはどこか心地良かった。またひとつ汚い大人になってしまった。

プラスチックコップ一杯の夢は氷と一緒に溶けてぬるくなった。煙草の匂いは数日間続いた。

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