編集者の本音④売上よりも大切にしていること

3刷2万部。

おかげさまで「医者の本音」に重版がかかりました。

このブログが売れ行きに貢献しているわけではありませんが、もちろんうれしいのでここでご報告!まだまだポテンシャルのある本だと感じてます。

こうして関係者とともに精魂込めて作った本が売れるというのは、なにりよりもうれしいことなのですが、それ以上に大切にしているものとは何か?というお題目です。

最初にお断りしておくと、やはり「本が売れる」というのはすごく大切な事。

編集の仕事って、お願いしてばっかりなので、唯一のお返しになることといえば、「多くの人に読まれました」というご報告なのです。

もちろん、担当本が売れると「ドヤ!」という気持ちになるので(本音)、売れ行きはすごく気になるし、他の編集者の人の売上げ好調の情報はできるだけ入れないようにしてます。羨ましくなっちゃうから(本音)。

そう、これほどまでに大切な、どのくらい売れたのかという事実。

でも、企画の初期の段階で、「売れるから」という理由だけで、行動に移すわけじゃないと思うのです。右手に売上というそろばんを持っていたら、左手には何か別のものを持っている。その「別のもの」とは人それぞれに違う。では、自分は何だろう? 何を大切にしているのだろう? そのひとつは「人間理解の追求」なのかもしれないなと。

こじらせた問いーなぜ本をつくるのか?

1年間に出る本のタイトル数は、7万以上とも言われています。おそらく自分が本作りを離れても、大勢に影響はない。今、たずさわっている「SB新書」というレーベルに限った話をしても、すでに講談社や中公、岩波、新潮、文春という硬軟の新書レーベルはそろっていて、もう充分なのではないか。なにも、ムリにたくさんつくらなくても、情報は行き渡っているのではないか。(それでなくても書店の棚は混雑している…)そんななかで、自分が会社のコストと人生を割いて、本作りをする意味はあるのか…なんて、ぼんやりと考えていた時期がありました。

そんなときに出会った、1冊の本。それがあまりにも痺れすぎて、光明を見た気がしたのです。

それが『カッパ・ブックスの時代』です。

すでに多くの編集者の方が言及されている本ですので、詳細は省きますが、光文社の新書レーベルとして「アンチ教養」を掲げて、戦後の出版業界においてベストセラーを連発した奇跡のような編集部の話です。

・望月衛『欲望 - その底にうごめく心理』(1955年)

・林髞『頭のよくなる本 - 大脳生理学的管理法』(1960年)

・岩田一男『英語に強くなる本 - 教室では学べない秘法の公開』(1961年)

・黄小娥『易(えき)入門 - 自分で自分の運命を開く法』(1962年)

・占部都美『危ない会社 - あなたのところも例外ではない』(1963年)※「カッパ・ビジネス」

・多湖輝『頭の体操』シリーズ(1967年 - 2005年)

・佐賀潜『民法入門 - 金と女で失敗しないために』(1968年)※「カッパ・ビジネス」

・渡辺正『にんにく健康法 - なぜ効く、何に効く、どう食べる』(1973年)※「カッパ・ホームス」

・盛田昭夫・石原慎太郎『「No(ノー)」と言える日本 - 新日米関係の方策(カード)』(1989年)※「カッパ・ホームス」

今見ても、興味をそそられるタイトルばかり…。

サブタイトルとタイトルの見事な役割分担。

そして、僕が痺れた一文がこちら。

『頭のよくなる本』と『頭がよくなる本』。この「の」と「が」のちがいがわかるかい、君。読者に、意志力を強要しては、ベストセラーにはならんよ。(P66)

たった1文字の助詞の使い方に込めた、執拗なこだわり。徹底した人間心理と欲望への理解。さらにはこんな文も。

タイトルというものは、何より、読者の感覚に訴えかけ、「読まなければ損をする」と、感覚的に説得ーーいや、読者自身が思い込んでしまうようなものでありたい。すぐれたタイトルは、そのまま、有効な宣伝なのだ。(P68)

書きだすときりがないけど、教養・知性のような言葉を隠れ蓑にせずに、大衆の関心や欲望に忠実に「半歩先」を活字で見せる思想は、すごみすらある。

よく、作っている本が後世に残るのか、なんて話もあるけど、それについても不毛だと斬って捨てる。(レーベル立ち上げの神吉晴夫の言葉)

あれは古典だ、これは古典でないなどというのは、ときの流れと、のちの世の人が決めることだ。ものを創りだす人間は、自分の創ったものを、同時代の人たちに共鳴・共感してもらって、その人たちの生活を、いっそう豊かにできれば願っているのだ、ただ、それだけだ…を(P87)

既存の教養レーベルがあったとしても、そこにアンチを掲げて、大衆の欲望に根ざした新しい知性の姿を見せることができるのだという、その奮闘には大いに勇気づけられました。

ぜんぜんスケール感は違うかもしれないけど、業界の隅っこで、「時代」と踊る仕事に関われている醍醐味を再確認できたのです。

本を買うことで虚栄心を満たす。自分を好きでありながら、同時に卑下もする。ーー本をつくっているときって、そんな、複雑で愛らしい心理を抱えた人間について、ずっっと考え続けている作業で、それがたのしいんだな。

きっと、本づくりで大切にしているのは、本の中身を通じて見える、人間そのものへの理解なのだと、最近感じている。そんな話でした。散漫ですみません(もちろん売上は大切です…笑)。


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坂口惣一

コメント2件

すっごく共感しました。時代と踊り、人を愛す。安易な教養主義には、人間への愛がない。
ですね!人間愛!ありがとうございます!
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