編集者の本音③「本と金」–書店からの買い上げとランキング操作は是か非か。

「本を購入をしたいんですけど」

発売前に、著者さんからそんな申し出を受けた僕は、すぐさま返した。

「それ、書店から買ってくれませんか?」

通常、出版社を通じて自作の本を買うと「著者価格」と言って少し安い価格で購入することができる。しかし、ここで僕がしたのは、書店から直接まとめた冊数を買ってもらえませんか?という提案だ。

その効能は、書店での「ランキング入り」と「一等地」への展開を狙えること。当然、定価での販売になるので、著者の方の持ち出しになってしまう。

(まず、ここで強調しておきたいのは、書店からの購入は、著者さんの意向ではなく、出版社の営業戦略でもなく、僕個人の責任での発想であり、批判があるとすればそれは甘んじて受けます)

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では、なぜお金を払ってまで書店の「一等地」を取ることがたいせつなのだろうか。ちょっと考えてみてください。

あなたは、ラーメン屋を開くことにしました。

候補地は、国道16号(悪名高い笑)沿い、あるいは国道から道を2本入った人通りの少ない市道。人の入りが期待できるのはどちらでしょうか? 迷うことはないのではないと思います。ラーメンの味がどうであれ、まず車通りがないと、人に知られる機会は少ない。

ラーメンの味に自信があればどうだろう? 裏通りでも口コミで広まるかもしれない。そう思うけれど、フランチャイズの店なので、1ヶ月で結果を出さないと店自体が引っ込められてしまう。口コミが広まるまでに売り上げを確保できるか、その1ヶ月が勝負になる…そんな状況だとしたら。

出版は「ロケーションビジネス」の側面がある。書店の限られたスペース(人通りの多い「新刊話題書」)を取り合う「陣取り合戦」でもあると思う。

そのためには、売れる本になる必要がある。でも、村上春樹氏や池井戸潤氏じゃない限り、初日から飛ぶように売れるなんてそうそうない。それでも、「話題書」コーナーをめざしたい。中身に自信があれば、なおさら、多くの人の目に留まって欲しい。そのために、営業力をかける出版社があれば、広告力を武器に交渉する出版社もある。著者が何百万の広告を打って、それを材料に棚を取ることだって、ある。「話題書」コーナーに置かれている理由は、本それぞれかもしれないけれど、「著者購入」はそこに食い込むための、(数百万の広告に比べれば)ささやかな武器になる。

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これ、読者の人から見ると、どう思うのでしょう?

今度は映画を考えてみてください。

ジブリのプロデューサー・鈴木敏夫さんが言っていたと記憶しているのですが(いつもおぼろげな記憶ですみません)。映画は制作(内容)だけではない、宣伝だけではない、「配給先(公開する映画館の数)」を合わせた3つの要素で売上が決まるのだ、という趣旨のことを言われていた。

どんなに中身の良い映画だったとしても、知らないとみようと思わないし、観れる場所がないと、(当然だけど)観ることはできない。ディズニーのように、資本力に任せて、ブロックバスターのようにお金をつぎ込むことでヒットを作るのは、出版も同じ構造だと思う(やり方と規模はまるで違うけど)

これは、個人的な認識なので、間違っている可能性が多いにあるのだけど、「売れる編集者」は、「中身」の編集力だけでなく、「宣伝」「展開」の三位一体をよくわかって、押さえている人なんじゃないか、と思っている。中身だけでの上限もあるし、宣伝・展開だけの上限もあるのではないか…と。

少し脱線しましたが、僕はこうした考えに基づいて、書店で、少しでも担当作が目につくように、著者購入を斡旋しました。恣意的だと思われるかもしれないけど、「本と読者との出会い」をアテンドしたいと。だって、これ読まないと人生損するよ、と本気で思ってるから。

でも、ここにはいろんな問題がはらんでいる。書店のランキングに別の圧力がかかることで書店に逆に迷惑をかけることもあるのだと思う。(よく考えれば、自分の担当本だけを目立たせたいというのは、完全なるエゴである)

もう一つの大きな問題は、書店に足を運ぶ人が減ってきた、そして書店の数自体が減ってきている、という現実だ。そして、情報過多時代。情報の受け手の「感度」は驚くほど上がっていて、もう恣意的な露出やパブ、出版社言葉のメルマガなんて、スルーされる。それは自分を見ても明らか。

だから、ネットの熱狂、クラスタの絶賛、口コミの後押し、コミュニティでものを売るというのは時代の必然なんだろうなぁと思う。資金力がなくても、小さなところから火が起こせるのは、素敵な時代だなぁと思います。そして、それぞれの本でまったく異なる「読者」との出会いをデザインしていくことが、これからますます問われるようになるのだろうなぁと思います。

(※最後に。富士山は遠くから見ても、登る途中でも富士山です。僕が見ているのはあくまで1合目から。きっと登頂した人からすると、まったく異なる景色が見えているのだと思います。でも、おんなじ富士山、なんですよね…)





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またきてくださいねー
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坂口惣一

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