林芙美子というと、成瀬巳喜男監督の名作「浮雲」の原作者、というくらいの知識しかなかったのだが、なぜか最近その名前を目にすることが多く、「読め」と言われているような気がしたので「浮雲」の文庫本を買って読んでみた。
映画を観ていたのでだいたいどんな話なのか知っていて入りやすかったのもあるが、面白かった。
戦時中の仏印、ある意味「楽園」のような、日常からちょっと浮いたような場所で恋仲になった男と女(男は既婚)が戦後、日本に引き揚げて来て、戦後の日本の世相の中でグズグズとくっついたり離れたりする・・・大雑把に言うとそんな話だ。
映画については自分なりの見方みたいなものがある程度出来ていて、(他人がどう思うかは別として)自分なりの感想/評価みたいなものがひねり出せるのだが、小説に関してはそこまではっきりした軸みたいなものが自分の中には無くて、うーん、なんとなく面白かったです。みたいな感想しか書くことができない。
とりあえず印象に残ったところを抜き出してみる。
敗戦後の様子として興味深い、と思ったが、考えてみれば「どの顔にも気力が無く、どの顔にも血色がない。抵抗のない顔が狭い列車の中に、重なりあっている。」という描写は現代の小説の電車内の描写でもフツーに当てはまる気もする。
みんなとみじめになっていく・・・。
これもまあ今の日本の話でも・・・・・・。
「新しい戦前」なんて言葉が少し前に話題になったけど、今の日本はもう「新しい敗戦後」なのでは?
というのは「浮雲」とは関係のない独り言だ。
読む前はなんとなく主人公の女性(ゆき子)の一人称、あるいは三人称でも視点人物は女性だろうと思っていたので、視点人物がゆき子だったり富岡になったりそれ以外の人物になったりするのがちょっと意外な感じがした。
富岡は、結婚しているのに仏印で現地の娘と関係を持ち、ゆき子とも関係を持ち、日本に帰って来て妻の許に戻ってからもゆき子と温泉に行ったり、その温泉で別の女とくっついたりという困った男だが、この男にまとわりついた虚無感みたいなものは確かにちょっと魅力があった。