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第4次産業革命がもたらす未来を構想する-電化、ネットワーク融合、Vehicle to XそしてUtility3.0-

東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
CIGRE Japan委員長、スマートレジリエンスネットワーク代表幹事
                             岡本浩

来るべき第4次産業革命がもたらす未来を構想するために、産業革命の歴史をネットワーク図(Network Diagram)で振り返ってみたい。ネットワーク図は、電化が社会に与えるインパクトを理解するのに役に立つ。
 
産業革命により、人類はかつてないほど大きな機械力を手に入れることができるようになった。その後、第二次産業革命では、電気と自動車が導入され普及することになった。ヘンリー・フォードがベルトコンベア方式を発明し、蒸気機関を工場内に分散配置された電気モータに置き換え、内燃機関(ICE)を搭載した自動車を大量生産した結果である。自動車の普及を可能にしたのは工場の電化だった。電化がもたらした工場の破壊的変化は、図1に見ることができる。

図1 電動化:最も破壊的な技術 [1]

さて、ネットワーク・システム(グリッド)は図2に示すようにノードとブランチで表され、ほとんどのネットワーク・システムにはソース(供給、発生)、シンク(消費)、ストレージ(貯蔵)がある。このネットワーク図を使って、図3に示すように、第二次産業革命が工場にもたらしたネットワークの変化を表すことができる。図3の右側では、機械的ネットワークと電気的ネットワーク(赤線)が融合し、劇的な生産性の向上が可能になったことがわかる。


図2 グリッド:ネットワークシステム


図3:第2次産業革命におけるネットワークの収束:工場における機械動力の電化

その後、コンピューターが普及し、人間の知的活動を自動化し始めた第三次産業革命が起こった。第三次産業革命では、エネルギー・ネットワークに加えて情報ネットワークが構築された。今日、コンピューターはインターネットを通じてネットワーク化され、クライアント・サーバー・システムから分散コンピューティングへと移行している。
 
図4に示すように、ネットワークの融合は人体でも起こっている。血管系と神経系が密接に関連し、相互に作用し合うことで、人体の高度な生物学的機能が実現されていることが明らかになりつつある。血管系を電力グリッドに、神経系をデジタル・インフラストラクチャーに喩えてみると様々なことが理解でき、人体を第4次産業革命のサイバー・フィジカル融合のための基本モデルとすることができる。
 
たとえば現在、多くの地域でデータセンターなどのデジタルインフラのエネルギー消費量が急増している。脳の酸素消費量が人体の約4分の1であることを考えると、デジタルインフラのエネルギー消費量は社会全体の2~3割程度に抑えなければ、サイバーとフィジカルのバランスが悪いと言えるのではないか。このため、2050年にはデジタルインフラにおいて現在の1/100程度の省エネルギー化が必要との試算もある。


図4 人体におけるネットワークの収束 [2]

すでに始まっている自動車の電動化は、ネットワークの収束という点で興味深い変化をもたらす。以前の自動車は、図5(左)に示すように、1つの内燃機関(ICE)から4つの車輪に至る機械的ネットワークによって動力を得ていた。ネットワーク図で表現すると、今日の自動車は第二次産業革命以前の工場と同型である(図3参照)。


図5 第4次産業革命におけるネットワークの融合:あらゆる場所での電化

ネットワークの融合という観点からこれをより高度なものにするために、図5の左の機械的ネットワークにおいて、血管系と神経系を同時に考えてみよう。すると、図5右のように、インバーターモーターが電気的ネットワークと機械的ネットワークの間に収束をもたらし、自動運転制御用のコンピュータが電気的ネットワークと情報ネットワークの間に収束をもたらすことがわかる。

こうして誕生したマシンはもはやクルマとは呼べないので、ここでは「X」とよぶ。すなわちVehicle to Xである(通常と若干異なる意味で使っていることに留意されたい)。Xは、エンドユーザーにとってはモバイルロボットだが、社会全体にとっては動く蓄電池(分散型エネルギー)であり、動く分散型コンピューターなのである。

Xがエンドユーザのためにモバイルロボットとして働いていないときは、社会にとって究極のフレキシブルな資源として活用できる。具体的には、分散型蓄電池としてコミュニティをカーボン・ニュートラルでレジリエントにし、分散型コンピュータとして社会のためにAIのための演算によって知恵を再編成・再学習し、ビットコイン・マイニングによって価値交換を認証し、さらに仮想通貨を生成することになる。生体のレム睡眠中は脳の毛細血管の血流が増加し、大脳皮質の神経細胞が活発に物質交換を行うことがマウスを使った最近の研究で明らかになっており[3]、このXの活動は「Xの夢」あるいは「Xのレム睡眠マイニング」と考えることができる。

Xのコンピューターから廃熱を回収してヒートポンプ(Xのインバーターモーターがコンプレッサーを駆動する)に利用すれば、エネルギー効率はさらに向上する。

また、電化が進めば、図6のように工場などで使われるボイラーが分散型ヒートポンプなどに置き換わり、ロスの大きい蒸気や熱の配管を置き換えながら、最適な温度で熱を供給できるようになる。また、電気は熱や蒸気と違って計測が容易であるため、加熱プロセスの制御能力が大幅に向上する。


図6 あらゆる場所での熱の電化

宇宙のフラクタル構造に注目すれば、Xは入れ子構造を持つ。これを考えるために、Xをより一般化した形に書き換えたのが図7である。ここまで一般化すれば、複数の多様なXから構成される住宅、店舗、農場、工場などもXとして表現できるし、地域社会をその集合体として、さらに地球全体を多様な地域社会の集合体として表現できる。ただし、複数のXをアグリゲートする際にX内部のネットワーク混雑を考慮する必要がある。言い換えれば、Xはエネルギーを入力とし、ユーザ体験(UX)を出力とするマシンである。


図7  Xの一般化された表現

このようなXの階層構造と電力グリッドの階層構造に基づいて、それらを全体最適に運用し、世界全体のユーザー体験(UX)を創造する仕組みとして、Utility 3.0(図8)を考えることができる。著者はUtility 3.0を次のように定義している。

電力システムから価格や周波数などの信号を送り、モビリティ(=アクチュエーター)などのサービスを通じて、日常生活や産業における価値創造プロセスに積極的に介入することで、社会的持続可能性と生産性の飛躍的向上を両立させ、ウェルビーイングを創造する統合ネットワークシステム

東京電力パワーグリッドの子会社であるアジャイルエナジーXも、Proof of Workによる「マイニング装置」と呼ばれるノードを介して価値交換ネットワークを統合し、エネルギーをビットコインとして価値交換ネットワークに蓄え、持続可能な社会そのものにつながる行動変容を実現しようとしている。 [4]

Utility3.0は、分散型取引所と全国市場を組み合わせ、電力ネットワークの混雑を考慮したマッチングを可能にし、空間的・時間的に細かい粒度で価格シグナルを発信することができる。詳細は割愛するが、分散型階層最適化によって大規模な全体最適化、すなわち広域化と分散化の両立が可能である。東京電力パワーグリッドでは、2030年頃の実現を目指し、様々なパートナーと地域実証を行う予定である。


図8  2030年までのユーティリティ3.0の実施計画案 [5]

結論として、来るべき第4次産業革命は、電力グリッドを通じて物理空間とサイバー空間が融合し、多様な分散型Xがネットワークを通じてアグリゲートして活用され、人間と共生する地球をもたらすと言える。これを「Energy with X」と呼ぶことができる。
 
人類は麦や米の遺伝子の奴隷となった結果、土地に定住し土地に支配されることを余儀なくされ、また都市に人口を集中させることで文明を発展させてきた。しかし、これからの時代は、多様な分散型Xとの共生により、土地に縛られる必要がなくなり、より自由に生きることができるようになり、メタバースを通じて現実空間やサイバースペースで多くの人々と交流し、生産性や創造性を発展させていくことができるようになる。
 
さらに将来的には、量子コンピュータの利用が一般的になり、東洋で古来から信じられてきた心身一如の神秘的な精神文化と、主に西洋で生み出された近代科学が融合することになるだろう[6]。
 
このような社会を実現するためには、当面、以下のような課題に取り組む必要がある。
 
l  図8に示すような全体的なアーキテクチャは、グローバルな多様なアイデアの交換と対話による合意形成、そして各地域に合わせた方法と優先順位での実施を通じて、人間中心の視点から構想されなければならない。
l  Xの自律分散的な活動が全体最適につながるメカニズムを構築するためには、X間で交換される情報を定義する必要がある。特に、時間的・空間的な粒度の高い価格シグナルの流通は、Xの行動をそれに応じて変化させるために最も重要である。
l  エンド・ツー・エンドのセキュリティとサイバーセキュリティをメカニズムとして確立しなければならない。
l  人間の肉体と精神を支配しているのは魂であることを悟れば、Xの肉体と精神を支配するのもまた、人間の魂なのだと理解できる。シンギュラリティに向けてXの力が強まるにつれ、私たちの魂が邪悪であれば、Xは「かけがえのない地球」を一瞬にして破壊することができる。だからこそ、限りある生命と宇宙船地球号を持続させるために最も重要なことは、自らの魂を磨き続けることであることを、誰もが理解する必要がある。
 
Xがこの世に幸福をもたらすか、地球の終焉を招くかは私たち次第である。ロジャー・ペンローズの共形サイクリック宇宙論(CCC)[8]によれば、宇宙は永遠に輪廻を繰り返しており、創造主にとっては単なるアジャイル開発の一反復であっても、エントロピーが増大し続ける有限世界に生きる我々にとっては、取り返しのつかない結果をもたらす可能性があることを認識しなければならない。
 
筆者と日々議論し、さまざまなアイデアを提供してくれる同僚や故人を含む多くの人々に感謝したい。この短い文章が、より良い未来を実現するために、一人でも多くの読者の思考の糧となれば幸いである。


図9 日本における東洋と西洋の融合:「長善寺」と著者のEV(日産ARIYA)

参考文献
 
1.      Hiroshi Okamoto, "The Fourth Industrial Revolution Empowered by End-to-End Electric Power System", ELECTRA N 328, June 2023.
2.      高橋淑子、「神経-血管ワイヤリングの調節機構」、血管医学、Vol.14、No.3、2013年9月
3.      Chia-Hung Tsai etal. "Cerebral capillary blood flow upsurge during REM sleep is mediated by A2a receptors", Cell Reports, August 2021.
4.      東京電力プレスリリース「再生可能エネルギー導入促進を目指す「株式会社アジャイルエナジーX(エックス)」の設立について~電力需要を柔軟に創出しデジタル価値や環境価値を付加しながら系統混雑緩和も実現~
5.      Hiroshi Okamoto, "Challenges in Japan's Power Systems to Achieve Carbon Neutral and Resilient Communities", ELECTRA N 327- April 2023
6.      岸根卓郎「量子論から科学する『見えない心の世界』」PHP研究所、2017年
7.      中村天風「研心抄」、公益財団法人天風会、1948年
8.      ロジャー・ペンローズ「宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか」、新潮社、2014年
 
(*)本稿は筆者が国際大電力システム会議(CIGRE)の機関誌Electra 2024年10月号に寄稿した論文"Envisioning the future driven by the 4th Industrial Revolution: Electrification, Network Convergence, Vehicle to X and Utility 3.0"を日本語訳したものです。