2022 宮中歌会始

沈むように溶けていくように(平民と皇族が)。

今年もこの季節がやって参りました。

新年の到来とともに、皇居に平民が殴り込める合法的かつ伝統的な祝祭。

つまり、立憲君主国家を寿ぐ瞬間、その名も宮中歌会始です。

毎年新年最初に皇居で行われております宮中行事「歌会始」。何百年も歴史のある行事で、本来は皇族・貴族による、いとをかしな和歌の披露会でありました。詠唱も雅な節をつけて、専門の歌い手が5人のハーモニーで歌い上げてもらえます。ソニーミュージックもびっくりなプロデュースがされていたのでした。

そんな殿上人の遊びの世界、戦後の民主化でド平民にも広く門が開かれ参加できるように相成りました。

結果、天皇陛下の御前で「今年はいいみかんが出来た」とか「おにいちゃんとサッカーした」みたいな素朴な歌が、古式ゆかしい儀式そのままに朗々と宮中に響き渡るようになったのです。

ここで一つyoutubeの映像をご覧ください。

平民の小学生の宿題見たいな和歌は、この雰囲気の中で詠唱されます。


騒がしい日々に笑えない「君」に、

そんな君主のお耳に届けられるのは庶民による、殿上人が聞いたこともないような文化の短歌であります。その瞬間、平民と君は二人駆けていくことになるのです。

パーティーマスターはもちろん、夜に駆ける、はずのない恐ろしいほどの昼の象徴。太陽神の末裔たる、今上天皇NARUHITOであらせられます。


そんな庶民による毎年の宮中珍道中。

今年も疫病神未だ去らず、皇居宮殿もギリシャ文字が足りなくなりそうなほどの広々としたお席を設けた結果、去年に引き続き来賓は少なめで開催となったようです。

御簾がわりのアクリル板も、ゼーレの会議みたいなオンライン参加も継続。

ただし去年驚いたのは、賓客がほとんどおらず、スクリーンがチラチラ並ぶ歌会始でも、これまでとほぼ違和感なく同じだったということであります。

変わらない日々に泣いていた僕に。

それでも歌会にどんな意味があるのか?いや、苔のむすまで何にも変わらず続けることこそが意味。それが文化、それが宮中行事なのであります。


今年のお題は「窓」

「光」とか「緑」みたいなふわっとしたお題が多い中、今年は珍しい具体物のお題です。今年が初登場かな、と思いきや昭和34年以来二回目の題材です。

方向性が定まりそうで定まらない。窓から何が開けるのかが平民の感性の見せ所でしょう。

今年の応募は米国やブラジル、オーストラリアなど13の国と地域からの69首、点字での11首を含む1万3830首。


それでは今年の精鋭、入選した10名をご紹介しましょう。

入選作の披露は年齢の若い順に行われます。

新潟県加茂市の高校1年、難波の来士(15)

ここ数年の最年少枠を連続でかっさらっている、歌会始のPL高校こと東京学館新潟高校より今年も入選。

この学校では書道の時間にえらく気合いを入れて歌会始投稿用の短歌指導をしているようですよ。コロナ中でも動画配信で短歌の指導があったとか。

お題「窓」に対してライト君は教室の窓を詠んだそうです。指導の先生曰く「オリジナリティある着眼点」で、ご当人は「下の句に特に力を入れた」そうです。乞うご期待。


女子大生なんかが出てくると、あいみょんそのままみたいなJ-POP短歌 を披露してもらえるのですが、去年に続いて今年も20代の参加は無し。

窓ってお題がちょっとクラシック過ぎたかなあ。

年代ガバッと飛びます。

東京都三鷹市、伊藤の奈々(41)

20代も30代も飛び越えて伊藤さんの登場。

とはいえこの年代の女性で和歌をやっていらっしゃる方ってのは、いい感じに仕上がった世界観を持って皇居全体に「お、おう。。」っていう空気を送ってくれる方が多いのです。全身ダヤングッズみたいな人だといいな。

茨城県つくば市、団体職員、芳山の三喜雄(49)

つくばで団体職員とくれば、そう!研究所にお勤めですね。ミツバチの研究者でいらっしゃいます。

数年前に腰を痛めて寝たきりになったことをきっかけに趣味として短歌を初められたそうで、歌会始の投稿4年目にして入選です。

詠むのは震災の話だそうで。減ってきましたが震災ネタは未だ毎年ありますね。

東京都港区、川坂の浩代(54)

この年代の、特に女性の方は長年短歌結社で研鑽を積まれている方が多いのです。川坂さんも全国規模の短歌サークルにご所属。同サークルは何名も歌会始入選者を出しているようです。入選すると「歌会始体験記」が会報に載るみたいですよ。短歌サークルにとって歌会始への入選はこの上ない名誉であり目標なのです。

青森市、高橋の圭子(60)

高校の先生の高橋さん。闘病中のお父様を「皇居に連れて行く」と励ますために歌会始への応募を始めたと言います。お父様は旅立たれましたが、10年目にして栄え
ある入選。

詠むのは太宰治。ご当地津軽ですねえー。全国から応募される歌会始はご当地感も魅力なのです。

東京都新宿区、三浦の宗美(68)

みうらそうびさん、とお読みするそうで。ずいぶんかっこいいお名前で筆名みたいな雰囲気ですね。もしかしたら何か活動をされてる方なのかな?

香川県小豆島町、藤井の哲夫(78)

歌会始初投稿にして入選という快挙の藤井さん。当選の公表後は一年分の連絡を一日でもらったと驚きます。

ただ、この藤井さんも50歳ころから短歌をはじめ、某門真の電気屋さんを退職後に地元小豆島に戻ってからは短歌会の世話人をしているという手練れ。

70歳を超えて参加した同「窓」会の歌だそうです。

香川県春日市、田久保の節子(81)

なんと香川県からもう一人入選。
香川県はここ6年間入選がなかったのですが、今年は大金星です。海についてのお歌だそうです。窓と海の相性は良さそう。

福岡県久留米市、高木の典子(84)

幼少の頃から百人一首で短歌に触れ合っていたという高木さん。

短歌づくりもベテランで、考え事を31文字にして広告チラシの裏に書き留めるのが習慣だとか。すごい!日常的なアウトプットが短歌形式!一時期twitter的130文字で考える仕事法みたいなのありましたよね。

富山県南砺市、西村の忠(85)

今年最年長の西山さん。地元富山で郷土史家をなさっています。歌会始はなんと35才の時以来50年ぶりの応募にして入選。いいですねー。歌会始は技巧溢れるベテランだけでなくてふと入選した素朴な歌が魅力だったりするのです。

富山県からなんと35年ぶりの入選となりました、富山ならではの風景の静と動を読み込み、富山の人にももっと歌を詠んでほしいと言います。

平民の歌の後は、プロの和歌をお楽しみください。

今年の選者と天皇直々に名指しで呼ばれたゲストの和歌が披露されます。

素人の後にプロが詠って締める、こちらはクラシックな歌の祭典「のど自慢」に受け継がれているスタイルです。

のど自慢と違うのは、最後は皇族方の歌が披露されるところです。

眞子ちゃんがK君のことをよんだ和歌が披露されたりしたら、平安時代からラブソング大好きな日本らしく熱いわけですが惜しくも皇籍離脱してしまいました。

一方で愛子ちゃん20歳になってが今年から公務に参加、つまり歌会始にも参加。もしかしたら和歌の披露もあるかも。

皇族方の歌はどうも無難なものが多くて、もっと平安からの伝統的なやつ=百人一首並みにラブラブなやつなんて聞いてみたいものです。

皇后の歌のもちろんあるよ!天皇皇后の歌は完全に特別扱い。複数回繰り返されて詠唱されます。ここに厳格な民主制と立憲君主国制の住み分けを感じ取りましょう。夜に駆けるのは本当に日が沈んでしまう時だけなのです。

大トリは鳳凰(おおとり)がシンボルの今上天皇。

天皇の歌は3回繰り返して詠唱されます。3回目のリフレインで転調しながら盛り上がる大サビのフレーズは天皇の歌にしかつきません。J-POP定番の大サビ転調の源流を感じてください。

チックタックと時は進んで最後まで味わい深いのが歌会始。

ここまで見たあなたも、ひとつ歌でも投稿してみようと思ったことでしょう。
番組の最後に案内される、歌会始唯一の投稿方法に驚愕してください。

令和4年の歌会始は1/18(火) 10:30からNHK総合で生中継です。



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