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ローエングリン感想とDuring the demiseについて色々

すっかり便利な時代となりまして、今は映画館やインターネットの配信サービスで海外のオペラを見られるようになりました。生で観るのとはまた別物だとは思いますが、私のような庶民でも気軽にオペラに触れることができて、雰囲気だけでも感じられるのは大変有難いことだなあと思います。
さて、Ottava tvにて、During the demise(Dtd)の原作であるローエングリンが配信されていることを知り、いそいそと会員になって視聴して参りました。(※ 1/23(木)1:00までの期間限定)

概要

Ottava tvで配信されているのはウィーン国立歌劇場での公演です。まずは私の覚書も兼ねて、公演概要を転記します(Ottava tvより引用)。こういう情報は放っておくと散逸してしまうのですが、きっと後々ほしくなるので。

作曲
リヒャルト・ワーグナー
指揮
ワレリー・ゲルギエフ
演出
アンドレアス・ホモキ
舞台及び衣装デザイン
ヴォルフガング・グスマン
照明
フランク・エヴィン
ドラマトゥルグ
ウェルナー・ヒンツェ
ドイツ国王ハインリッヒ
アイン・アンガー
ローエングリン
ピョートル・ベチャラ
エルザ・フォン・ブラバント
コーネリア・べスコウ
フリードリッヒ・フォン・テルラムント
エグリス・シリンス
その妻オルトルート
リンダ・ワトソン
王の伝令
ボアツ・ダニエル

解説によると、舞台を通常の設定(10世紀のアントワープ)から変更し、19世紀または20世紀初頭の小さな山村に移しているそうです。衣装が素朴で可愛らしい。レーダーホーゼンとディアンドルだ~!身近に感じられて普遍性が増すのかしら。
あとで少し書きますが、”一見奇抜に見える演出”が物語の理解を助ける、というのはなんとなく分かる気がします。

配役表

オペラの役と第1章の配役、第9章の配役(トレーラーの並びがスタメンと対応するという仮説)を記載します。この前提で話をするので、念のため。

役/第1章/第9章
エルザ/観客(ヒロイン)
ローエングリン(白鳥の騎士)/ケイ/リンドウ
王(エルザの父)/銀星/金剛
ゴットフリート(王子、エルザの弟)/ギィ/真珠
フリードリヒ伯爵/ソテツ/シン
オルトルート(オルトリート)/吉野/ヒース

配役についてはTwitterでも幾らか触れたのですが、恐らくローエングリンは「センター兼シンガー」で、歌って踊る役です。ボイスドラマ4話でもケイが歌いながら踊ってみせて、既存キャストが舌を巻いていましたね。現在のスターレスでPerformer/Singerの肩書きを持つのはケイとリンドウのみなので、第9章の配役の妙を感じます。マイカによると、歌いながらセンターでパフォーマンスする、というのはまた違った技術を要するようですし(第6章関係値Lv.1より)。
王は原作には棺しか出てきませんが、Dtdでは実は生きていて囚われている、という設定です。この王と、原作では黙役で冒頭とラストにしか出てこない王子がDtdでは中心になるようです。ちなみに公国の王なので、貴族ですね。原作にも『国王』ハインリッヒが出てきますが、これは別の人です。物語の舞台となるブラバント公国=公爵領はドイツ王国に属するもの、と考えれば良いと思います(ざっくり)。
オルトルートはDtdでは男性に転化され、伯爵を唆す魔法使いの役です。Lis Oeuf vol.15によると、サビ前のラップは吉野が担っているとのこと。ヒースがそれをやると思うと、エッジが効いてかっこいいだろうなあと期待が高まります。

ローエングリンの物語

感想だけ書いても分かりづらいかもしれないので、簡単にオペラのあらすじも併記していきます。ご存知の方はあらすじ部分は読み飛ばしてください。

・ブラバント公国の王が亡くなり、その子であるエルザとゴットフリートが遺される。
・フリードリヒ伯爵はブラバント公国の実権が欲しい。
・フリードリヒの妻で魔法使いのオルトルートがゴットフリートを白鳥に変え、フリードリヒには「姉のエルザが弟のゴットフリートを殺した」と嘘を教える。
こんな感じの前提で物語が始まります。以下、幕毎にまとめていきます。

第1幕
===あらすじ===
兵を募るためにブラバント公国へやってきたドイツ国王ハインリヒに、フリードリヒ伯爵は『エルザが弟を殺した』と告発する。エルザが裁判に召喚され、国王の尋問をうける。
夢うつつでどこか様子がおかしいエルザは、夢で見た騎士が守ってくれると述べる。
エルザの祈りに応え、白鳥が曳く小舟に乗った輝かしい騎士(ローエングリン)が現れる。
騎士はエルザに「私の名と素性を尋ねてはいけない」と告げ、エルザはそれを約束する。決闘が行われ、騎士はフリードリヒに勝利する。
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事前にあらすじを読んで、いや、なんで??と思った部分はオペラをみても暴論に次ぐ暴論で笑ってしまった。でもこれは現代人が見るからですね。神明裁判と言うらしい。決闘に神の意志が反映されて、勝った方が真実ということになるそうです。恐ろしいですね。勝てば官軍ってレベルじゃない。
こんなに清らかで美しいエルザ姫が罪を犯すはずがないとか、美しい騎士は神の遣いに違いないとか、人々の美への信仰が厚い。
輝かしい栄光に満ちた美が絶対的な説得力になる。これはケイ様だしリンドウくんだわぁ……と思いました。

第2幕
===あらすじ===
決闘に負けたフリードリヒは追放処分となり、情報源である妻オルトルートを責める。
オルトルートは、裁判は不正で、騎士は魔術によって勝利したと吹き込む。フリードリヒは再度エルザと騎士を告発することを決意する。
また、オルトルートはエルザの同情を誘い、懐に入り込んで、騎士は突然現れたように突然去ってしまうかもしれないと囁く。
婚礼の準備が行われる中、オルトルートが態度を豹変させ、騎士の素性が分からないことについて強く非難する。フリードリヒも騎士は魔法を使っていて裁判は不正だと主張し、素性と名前を明かすように騎士に迫る。
騎士は自分にそれを問うことができるのは妻のエルザのみだと拒絶する。
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個人的に、この2幕が最高に面白かったです。オルトルートの悪役ぶりがとても魅力的。2幕と3幕は話が長くなるので、まずオペラの感想、後でブラスタと絡めた話をします。
オルトルートはかつてブラバント公国を支配した旧家の末裔で、宗教もエルザ達とは異なり、多神教を信仰しています。御家再興と信仰の復活が目的。彼女には彼女の正義があるんですね。
フリードリヒがオルトルートを糾弾し、オルトルートがフリードリヒを拐かす場面はかなりの迫力!オルトルートの誘惑の言葉ひとつひとつが強烈で印象的です。
続いてオルトルートがエルザの同情を誘う場面。オルトルートが自分の不幸を嘆き、エルザは同情してオルトルートの幸せを自分の神に祈り、家に迎え入れる。その裏でオルトルートもまた自分の神に祈り、復讐を誓う。
エルザは真心からオルトルートを気の毒に思っているけれど、自分は婚礼を控えて幸せいっぱいの状態で、その施しはちょっと無神経。真心がもたらす喜びを教えてあげるわ、同じ神を信じましょう、なんて言っちゃう。エルザはすごくいい子なんですよ、優しい子です。これ、嫌味でもなんでもなく、良かれと思って、真心の善意で言ってるんです。
そんなエルザにオルトルートは内心で呪詛を吐きながら、しおらしく振舞い、復讐のための謀略を巡らせ、騎士は突然現れたように突然去ってしまうかもと不安を煽る。オルトルートの屈辱感や復讐心、執念が見え隠れする演技に圧倒されました。壮絶です。

ブラスタの話 第1章
追放処分となった夫に、オルトルートは「私はここを離れられない」と言います。彼女も土地と家と信仰に執着し縛り付けられている。これは歌に、シンガーに執着する吉野と重ねることもできるかもしれない。
ソテツがケイに、吉野とソテツの配役を逆にしないかと提案する場面があります(第1章関係値Lv.7)。これに対しケイは、考えなかったわけではないが配役を変える気はないと返します。ソテツのオルトルートは「楽しみのためにかき回す」、吉野のオルトルートは「そうせざるを得ないからする」。オルトルートという役は、たとえば吉野の印象から想起されるような健気さは表立っては感じられないのですが、しかし「そうせざるを得ないからする」切実さがありました。納得の配役です。
一方で、オルトルートの復讐心は私の中でリコと重なる部分があって、オルトルートとエルザの関係は第5章のリコと吉野に似ているように思えました。オルトリート役が気に入っていると言う吉野に対し、リコは「吉野ちゃん、ヒロインぽいのに」と返す(第1章関係値Lv.5)。もしかしたらリコは、白鳥の騎士に守られる、清らかで心優しく傲慢なエルザと吉野を重ねていたのかもしれない。あるいは第1章の時点ではそこまで明確に考えていなかったかもしれないけど、確実にそういう芽があって、その思いがリコの中で育っていったんじゃないかな。そんなことを考えて、ちょっと苦しくなりました。

ブラスタの話 第9章
フリードリヒとオルトルートを第9章ではシンとヒースがやると思うと、言葉の力が烈しく渦巻きそうでワクワクします。特にオルトルートの台詞がすごく魅力的なのですが、スターレス風に男性化するなら「自分の臆病さを神と呼ぶのか」「俺に任せればあの男を守る神とやらの弱さを証明してやる」って、言うわけですね、ヒースが!!ひえ~~想像できる~~!!!!しっくり来すぎてぞっとする!!!!ヒースのオルトルートがヒロイン(あるいは観客)に、リンドウの白鳥の騎士への疑念を植え付けるんだなあ。うわわ……。真珠が騎士と姫を繋ごうとするゴットフリート役(Dtdの翻案)である点も良いですね。
婚礼前の場面でオルトルートが起こす騒乱は、チームPのステージの魔法とチームBの告発と再解釈できる気がします。
そうすると、王に金剛を据えた意味はなんだろう。金剛とシンは逆でも良さそうなのに。第9章でヒントを得たいけど、どうかなあ。

第3幕
===あらすじ===
華やかな婚礼の後、エルザと騎士ははじめて二人きりになって話す。幸福もつかの間、エルザは不安を募らせて、ついに騎士の素性と名を問うてしまう。
そこにフリードリヒが乱入してきて、騎士がフリードリヒを倒し、フリードリヒは死亡する。重い空気のまま、騎士はドイツ国王(ハインリヒ)に事態の判決を問い、また、皆に素性と名を告げると話す。
出兵の準備が行われる中、国王の前に騎士が現れる。
騎士は、襲ってきたフリードリヒを自分が殺したこと、エルザが騎士を裏切り名を尋ねたことを告白する。
騎士は聖杯を守護する王の息子ローエングリンだと明かし、素性を知られれば留まることができなくなると告げる。
突然現れた白鳥と共に騎士は消える。オルトリートは勝ち誇って笑うが、代わりに弟のゴットフリートが現れる。
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おれたちのエルザ姫が、結婚した途端ヒステリー女になってしまった……(かなしみ)人の心はかくも弱い。あなたの苦しみを分かち合いたい、なんて言い方はずるいなあ。ローエングリンがとても悲しそうで辛かったです。
去り際にローエングリンは、せめて1年持てば弟が帰ってきたのにと言うのですが、つまり、彼は人の心が弱いことも理解していたんですね。いつか来る別れを覚悟していたから、離別を不安がるエルザに「ずっとそばにいる」というような甘言は口にしなかったのかもしれない。誠実さは残酷だなあ。
聖杯の騎士は、聖杯の祝福を受けて、必要とあらば世界各地に派遣されるみたいです。そういう精霊的な存在ならば、ローエングリンのどこか現実離れした完璧な騎士ぶりも納得ですね。
白鳥に姿を変えられていたゴットフリートは、冒頭のローエングリンと同じ姿勢、同じ服装で現れます。おそらくこれは今回の演出家さんの脚色。白いシャツ一枚で丸まって床に横たわる姿は、天から与えられた嬰児のようで、弱々しくて無垢。最初、ローエングリンがこの格好で現れた時は正直何事かと思ったのですが(歌では「輝かしい騎士」と言っているのに……話が違う……)、何者にも穢されていない清らかな存在であることを示しているのかもしれない。ローエングリンは神から授けられた力であり救いだったけれど、弱々しいゴットフリートは守るべき希望であると同時にエルザが負う重責だと感じました。最後のシーン、エルザの絶望的で何かを覚悟したような厳かな表情。裏切りの悲しい罪と微かな希望……かなあ……。真実はパンドラの箱だった。

ブラスタの話 全体的に
「私が払った犠牲を償えるものは君の愛だけ」というローエングリンの言葉はケイのヒロインへの献身を思わせるし、その地平にはリンドウにとってのステージとお客様があるのかもしれないし、さらには全てのキャストにとって同じことかもしれない。
よくブラスタ評において「ヒロインが物語に干渉しないところが良い」という話が挙がりますが、まさしく、キャスト達が抱える謎や問題に干渉せず、明かそうとしないヒロインによってスターレスは守られているのかも。
改めてDtdがブラスタの第1章に据えられたことが意味深く感じられました。

宿題

第1章で提示されたにも関わらず、私がいまだによく理解できていない宿題事項があります。長くなってしまったし、私はメノウくんのお誕生日に備えなければいけないし、第9章をやりながら考えたい。

銀星の疑問について
・どうして原作に登場しない王と王子が物語の要にいるのか。どうして王役が銀星なのか。
「死んだと思われているが実は生きていて囚われている」王は、その設定を素直に読むと、消えたオーナーや演出家夫妻のことのように思えますよね。王の不在により公国は混乱し、物語が始まる。演出家を信奉し、彼らの作りあげたステージを守ろうとする銀星が王の代理人を務めるということなのかな。
王子は、言葉を持たず、一途に騎士と姫の絆を保とうとする存在。ケイの下で、ステージを拠り所として運命に抗うキャスト達とも重なる気がする。中でも一途にケイの命令に従いヒロインを守ろうとしているギィが、今は王子役。そんな感じかなあ。
そう思うと、王と王子が要となるのは自然なことなのかもしれませんね。

吉野の疑問について
・そそのかす相手が王と王子なのはなぜか。なぜあのシーンなのか。
サビ前のラップの話ですが、それがお話上どのシーンなのかわからーん!笑
そもそもなんですけど、スターレスのショーって1曲にその演目のすべてが詰まっているのか、もっと長い芝居の中のメインテーマがプレイできる楽曲なのか、どちらなんでしょうね。
それはさておき、そそのかす相手が王と王子なのは、上記を踏まえると『新しいスターレスの歩みを阻もうとし、ケイを中心とする体制に軋轢を生じさせようとする存在』を示唆しているようにも思えます。今後の展開をお楽しみにって感じかしら。柘榴がだいぶ怪しいけれど、第9章のオルトリートはヒースだし……。

だいぶ妄想過多になってしまいましたが、過去の公演曲を振り返る良い機会になりました。
ケイの言動からも、Dtdが現在のスターレスに重ねられていることは間違いないことだと思われますし、またよきところで見直していきたいです。

長々とお付き合いありがとうございました!

関連リンク

ブラックスター -Theater Starless-(ブラスタ) https://blackstar-ts.jp/
TeamK 「During the demise」MV https://youtu.be/LU0C7qvI27Q
Ottava tv https://ottava.tv/