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【小説】Mellow Yellow

セルフ二次創作(宇宙ラジオ)

赤は「愛情」。白は「純潔」。「上品」なピンクに、「不可能」、転じて「奇跡」の青。そんな中「嫉妬」の花言葉を持つ黄色のバラが、わたしにはいつも不憫に思えてならなかった。別に「友情」の言葉だってある。でも検索してみると、大体のサイトで「友情」は二番目で、先に出てくるのは決まって「嫉妬」の方なのだ。
「何でだろうね?」
「あたしに訊くな」
「でもさ、ヒマワリとか菜の花みたいな「黄色がメイン」って感じの花にはあんまり見ないんだよ。不公平じゃない?」
「知らん。偶然だろ」
相変わらず花峰さんはそっけない。多分興味がないのだろう。今もつまらなそうにミックスジュースをすすっており、さっき来たばかりのそれはもうすぐ空になりそうだ。対してわたしのレモンスカッシュはまだ半分も減っていない。
「こう……わたし、名前に月も星も入ってるから。あれって大体黄色で描かれるじゃん。だからちょっと気になっちゃってさ」
「まあ仮にも暖色の花に「嫉妬」みたいなネガティブな花言葉があるの、変わってるとは思うがね」
埒の明かない不毛な会話。些細なことが引っかかって色々考えてしまうのはいつまでも変わらない、わたしの悪癖の一つ。カラン、とグラスから音が鳴った。氷が一個溶けたらしい。あまり味が薄くなるのも癪なのでむせない程度に急いで飲んでいると、花峰さんが口を開いた。
「バナナとかさ、青いと未熟で、熟れると黄色くなるじゃん。一人前の色とでも思えばいいだろ。それに熟れるっていうの、英語で「Mellow」って言うらしいぞ。だから「Mellow Yellow」とか、曲名によく使われるんかね。しゃれてるよな」
そこまで言うと花峰さんは二杯目のドリンクを頼むべくメニューを眺め始める。わたしは頭の中で「Mellow Yellow」という響きを反芻してみる。熟れる黄色。一人前の色。「嫉妬」はそれ故に、外から集まってきた感情なんて仮説を立ててみる。自惚れすぎかな。そう思いながらそれを話すと花峰さんは、
「じゃあアンタにはやっぱ似合いだわ」
来たばかりのバナナジュースを、まだ飲み終わっていないわたしに差し出して、愉快そうに笑うのだった。

作家修行中。第二十九回文学フリマ東京で「宇宙ラジオ」を出していた人。