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16世紀のおうち

お仕事の話というのは一体ぜんたいどういうことで私の元へ舞い込んでくるのか。
InstagramなどSNSは多少利用しているけれど
どちらかと言うと備忘録・ポートフォリオ的に使っている感じで集客活動というのはほとんどしていません。
物理的にオンラインでできるような仕事ではないので、オフラインの地域密着式の方がお仕事は入りやすいです。
Instagramで問い合わせてくれてもアルゼンチンからの問い合わせはどうしようもない!笑


TallerUBEKO 公式instagramはこちら→https://www.instagram.com/tallerubeko


仕事の入り方もまた、興味深いテーマで
何かしら縁があってさせてもらえるんだからありがたい話です。

さて、
工房スタート以来、多分一番のビッグーオーダーがありまして
(過去の記録投稿なので2021年のお話です。)
地元の自治体遺産に指定されている16世紀建設(内部は100年ほど前に改装されています)のリフォームに合わせて
インテリアのアンティーク家具を一斉修復というお仕事です。
キラキラにかっこいい響きのお仕事ですが、
実際は誰も住んでいなかった家の家具なので虫喰いなどが進んでいてなかなかハードなお仕事です。
そしてその数、60点以上。ぎょえー。

しかも昔ながらのバカでっかいクローゼットなどもあるのでそちらは持ち出す運送費用を考えると
リフォーム工事中の家へ出向いて作業をしたほうが効率的ということで
今は週に一回、工事現場の邸宅へ通っています。
持ち出さない家具は全部で6、7点ほど。
それ以外は工房へ持ってきて作業します。

家具の作業自体もおもしろいけれど、こんなお宅のリフォームを覗けるのもまたおもしろい。
現場のお兄ちゃん、おじさんたちはみんないい人で、重たい家具を動かしたり道具を借りたり
快く引き受けてくれるし裏話も聞ける。
ラテン系のお兄ちゃんはガンガンにラテンミュージックを流しながら作業。
そこへたまーに、モロッコとかの宗教っぽい音楽が混ざってて異国情緒あふれている。


作業中のおやつタイム。現場のおじさんがご馳走してくれたアイスココア。

遺産に指定されているので、
インテリアや建具の変えてはいけない色やスタイルというのが案外あって規定が厳しいらしいです。市役所の人が2週間ごとくらいにチェックしに来ます。
その分、補助金や保管のサポートが自治体から出るのかと思ったらごみ収集税がちょこっと安くなるだけ、だって。

それでもそんな家を買って、修復して後世に残そうとしてくれる人がいるというのは素晴らしいこと。
世の中にお金持ちはたくさんいるけれど、こんなふうに(私には正しいと思える)使い道を選んでくれる人がいないと
世の中の素晴らしいものは瞬く間に消えていってしまいます。
歴史上のメディチ家や数多くのパトロンたち、映画Monuments Menのように
文化や芸術のために人生を捧げてくれる人が必要です。

現在、オーナーのダニーとロリーは修繕費がかさんで
「我が家はいつになっても完成しないサグラダ・ファミリア」と嘆いていますが。笑

さて、家具の話に戻りまして
まずは家の中で一番古いかと思われる書斎キャビネット。
こちらは元アンティーク商のジェローム曰く150年はゆうに超えている代物。
確かに背面の木材の粗い処理が時代を感じさせます。
シンプルなマーケットリー(象嵌)が施されていて、
黄ばんだニスを落としたらとても綺麗なウォルナットの木目が現れました。

そして高さ2メートル半ほどのクローゼット。
中に私が十人くらい入れそうな大きさです。
こちらもフロントの扉にマーケットリー。
オーナー・ダニーが、これは思春期の娘が使うから全部可愛い色にペイントして、と言うので
必死で説得してせめてマーケットリー部分だけは今のままにしておくことに、一応、なってます。

そのほか、トーネットの曲木ベンチやスペイン式肘掛け椅子、などなど
興味深い案件盛りだくさんで勉強してます。

お仕事ではありますがそれ以上に経験としてとても貴重です。
ダニーとロリーも好みがまったく違うので、夫婦喧嘩しまくりながらそれぞれの要求を投げかけてきて
その辺りの解釈や提案など、これまた勉強になりまくります。笑
数ヶ月彼らとやりとりし続けてだんだん彼らのキャラがわかってきたある日
散々夫婦でやり合った後に、ダニー自身が
「君の立ち位置、すごく難しいってことに今、気がついたよ。」だって。
ご理解いただきありがとうございます。笑

まだまだ続く、修復レパートリー。
乞うご期待。


現場で作業した150年もの。丸い室内窓によく似合います。

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