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『ジグジグ』

 この度はTAR-004013様のご永眠の報に接し、誠に痛惜の念でいっぱいです。TAR-004013様は当社のレプリカント正社員として、高い能力と人間性で多くの同僚や顧客から……

 アイツの告別式に会社からの出席者はひとりもおらず、自動生成の弔電が合成音声で読み上げられていた。息子の遺影と同じ顔の「俺たち」を見た老里親オーナーがギョッと顔を強張らせる。焼香を済ませた俺は里親に目礼をしてそそくさと式場を後にする。

 式場のはずれにある喫煙所に俺たちが集まってきた。黙って煙を吐き続ける。俺たちのロットは紙巻きを吸う最後の自律治具らしく(後輩ロットは、そもそも喫煙習慣を持たない)自然と喫煙所にいるのは俺たちだけになった。

 俺たちはロット不良と呼ばれる世代だった。訓練校から放校されそうになるたびに教官や社会の盾になり、俺たちを守ったのがアイツだった。

 「ゴマすり」「貧乏人」どれだけ俺たちが揶揄しても、アイツはバカ正直に俺たちの前に立ちはだかった。はじめはロット不良としてスクラップされたくないだけだと思っていたが、どうやら本気で俺たちの才能を信じているらしいと気づいてからは、自分の行為が恥ずかしくなった。

 「アイツは……」誰かが何かを言いかけたが口をつむいだ。その代わりに首筋の排熱板が赤熱し煙を吐く。

 (見たか、あのきれいな肌を)
 (見たぞ、修繕されているが裏側に痕がある)
 (見たか、ゴルフボール……硬球……そのような痕を)
 (見たぞ、アイツは会社に)

 「許せねえよな」

 TAR-004013の告別式から一週間後、ホームセンターに旧型の技能伝承レプリカントが大挙して来店する事件が発生した。店長は供述する。

 「はい、違法なものは何一つ扱っておりません。すべて職人のための道具ですので。あの事件で使用されたグラインダーもトーチバーナーも庭石も鏨も……すべての合法的に入手されたものです」

【つづく】

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