『虚像祭の思い出』3年F組 八木 ひとみ #架空ヶ崎高校卒業文集

『虚像祭の思い出』

2014年卒 3年F組 八木 ひとみ

 三年間の架高生活で一番印象に残っているのは虚像様が完全に石化した、あの日のことです。

 虚像祭の後夜祭。
 「せっかくだしクラスメイト全員でキャンプファイヤーを囲もう」という道半みちなかば先生の提案で、私ともうひとりのクラスメイトが古森さんの家に彼女を呼びに行きました。

 入学直後に白羽の矢が立ち、それから一歩も家から出られなくなってしまった、かわいそうな古森さん。今日は彼女が生贄になる日です。

 もうひとりのクラスメイトの説得で二年半ぶりに家の外に出た古森さんの手を取って、三人で一緒に校舎に戻りました。校舎が近づくにつれて、紫色の黄昏時をオレンジ色の篝火が侵色していきます。オレンジの色彩は無限遠のグラデーションを経て虚空に消えていきます。いよいよ生贄の刻が来たのです。

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 キャンプファイヤーは最高潮です。道半先生が叩く太鼓に合わせてクラス全員が肩を組み古森さんを迎え入れます。古森さんを囲んでぐるぐるまわるクラスメイト達。「ヒアエーヒアエー」「ヒアエーヒアエー」という呼び声が無人の校舎に響き渡ると、どこからともなく「キタリ」と声が聞こえました。それは声と言うよりも「思念」のようなもので直接に感じ取れました。

 キャンプファイヤーを突き破り、虚像様が姿を現しました。三年間の思い出を食らい新たな三年間を維持するための架高の想像主そうぞうしゅです。クラスメイトが校舎に比する虚像様の巨体を見上げます。虚像様は古森さんの襟首を摘み上げ、三首八眼を見開き大きく顎を開きました。生贄を口に運ばんとした瞬間、虚像様の視線が私を射抜きました。

 「キタリ」古森さんを投げ捨てた虚像様が私に歩み寄って来ます。気づかれたのです。私が自宅に刺さった白羽の矢を人知れず古森さんの家に突き立てたことを。

 魔眼に射抜かれた私は金縛りにあったように身動きができませんでした。ただ私に向かって手を伸ばす虚像様の肘関節が三つもあることを不思議な冷静さで観察していたと思います。

 その時、ウラヌスガスが虚像様の足元から立ち上りました。いつの間にか、誰かが校庭用のスプリンクラーを改造していたのです。校庭に備えられたスプリンクラーからウラヌスガスが斉射され古の契約により虚像様は石化していきました。いまも校庭の中央に鎮座する、苦悶の表情を浮かべて胸を搔き抱く虚像様の像は、この時に生まれたものです。

 私は古森さんに謝罪をして、古森さんも私を許してくれました。これが私の三年間で得られた最も大切な思い出です。私を助け出し、古森さんを外に連れ出したクラスメイトの顔は今も思い出すことができません。

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