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【ポンポコ製菓顛末記】                   #39 騙しのテクニック part2

 東京オリンピック贈収賄、CM制作費過大請求、と広告業界のカネにまつわる話は後を絶たない。エリート業界で憧れである(あった?)筈の広告、メディア業界だがその実態をたどれば・・・
 
 


猫が見ていても視聴率


 
 TV広告は番組と番組の間にCMが入る。CMは基本的には15秒だ。読者の皆さんはあの15秒1本のCM放映料はどれくらいと思われるだろう?

 媒体費は極めて複雑、かつ、取引先毎に価格設定しているので一概に言えない。一口にTVCMといっても地上波とBSやCSの衛星放送、また、3ケ月単位に番組提供する番組広告とスポット的に行うスポット広告、さらに古い広告主と新参企業では値段が異なる。従ってピンキリだが概ね1本当たり何十万、何百万円という単位だ。さらに視聴率が高ければそれだけ多くの視聴者が見ている筈なので単価が上がる。そして昔から大量広告をすればするほど広告効果が上がるとメディアも広告代理店も広告主に刷り込み、煽ってきたので本数も増える。だから大体TV広告をそれなりの規模を狙うと、何千万、何億円となり、大手では時に何十億円とかかる。

 そんな投資を広告主はなくなく売り手の言いなりになってきた。しかし、『ノバセル』の女社長のようにチョットまともに考えれば「本当か?」と疑いたくなるのも道理だ。ましてエビデンスを示せないとなれば、「一体いくら払ってると思っているの~!!」と怒鳴りたくなるのは至極まともなセンスだと思う。
 
 私も広告部長に就任した時は『ノバセル』の女社長と同じ感覚であった。何故なら21世紀初頭に14年ぶりに広告部に戻っても40年前に現場担当していた頃の視聴率調査方式と全く変わっていなかったからだ。
 そもそも取引のベースとなっているTV番組視聴率がいい加減だ。21世紀を迎えてからもしばらく変わっていなかった。視聴率は東京・名古屋・大阪のみ機械測定でリアルだが、その他ローカル地区は数か月に一度の手作業記入式だった。また機械式調査も全国5千万世帯あるのにたった千世帯の世帯視聴率だ。世帯視聴率とは誰が見ていてもひとりでも見ていればカウントされる。それこそ猫が見ていてもカウントされると良く揶揄されていたが、家族みんなでTVを視聴するという昭和の名残のままなのだ。家族の中でも親か子供か、男か女かという個人視聴率は補足式に測定するだけで、主体はあくまでも世帯視聴率を基本としていた。
 そしてCM視聴率はこのTV番組の世帯視聴率を使う。何故なら近辺に流れるCMも見ているという前提を根拠としていたからだ。CM中にトイレへ行ってもお構いなしだ。媒体費の基準、即ち視聴率1%でいくらという取引はこのようにしていた。それは個人の時代、デジタルの時代になっても、基本的にこの世帯視聴率基準という慣習を変えてこなかった。たった千世帯のいい加減な数字で何千万、何億円というカネが動いているのである。

 それ自身もズサンだが、驚くべきは取引が見積取引で実績精算は基本的にしないという慣習だ。どういうことかというと、番組提供なりスポット広告を発注する時はCMを入れる番組の過去視聴率をもとに同じように視聴率を取るであろうという前提で発注をする。ところが実際の視聴率はブレル。上回ることもあるが大概10%前後下回る。しかし上ブレ、下ブレ共に一切実績精算しないのが業界の慣習なのだ。大体下ブレするのでTV局、代理店共にいつも儲かることになる。
 もちろん一般の商品でも標準重量どおりには製造できない。個別には上ブレ、下ブレの誤差がある。但しその誤差は極めて少なく精緻で各メーカーは誤差を縮めるために血のにじむような努力をしている。顧客とはその信用の基に商取引が成り立っている。
 ところがTV広告の場合はそのブレ幅が大きい。大きい割には取引金額が何億円という単位だ。根拠となっている基準の視聴率がズサン、ブレが大きい、金額が大きいとなれば、その影響は計り知れない。ポンポコ製菓の1ケ百円、50gの菓子重量が0.1gずれました、損失額は20銭です、とは訳が違うのだ。
 この実績精算をアクチャルという。差額を金額で精算したり、現物、つまりスポット広告で精算したりするが、業界ではあまりなじみがない。上ブレした場合は逆に返納することになるので精算処理が煩雑になることと、何よりも下ブレするケースが多くTV局、代理店にとってオイシクナイからだ。
 従って彼らには精算する気など毛頭ない。筆者も何度か交渉したが「そんなこと言うのは生方さんだけですヨ」とたしなめられる始末だった。「銀行は貸すのが商売だ。返さなくてもいいんだろう!」とトンチンカンなこと言ったポンポコ製菓の社長と変わらない感覚だ。
 
 百歩譲って広告は商品という現物とは異なり、将来の広告効果を買うという投資だ、と割り切れば解らない訳ではない。株などの金融商品と同じ投資なのだ。但し、はまれば効果は絶大だし必要なのだが、ほとんど元本は戻らないハイリスクローリターンの投資である。
 

良くお気付きになりましたネ!ご明察です!


 
 そしてこの広告主から“くすねとった??”媒体費を代理店、TV局で配分する。その配分方式はブラックボックスだが、どうもTV局から代理店にキックバックリベートがあるようだった。特にその影響力はコンコン広告社が最も大きく業界を牛耳っているようにみえた。何故なら筆者は代理店やローカルTV局との懇親を何度も深めたがTV局の担当者のコンコン広告社担当者への忠誠ぶりは半端ではなかった。どの代理店よりもクライアントよりもアタマが上がらないふりだった。そしてそのバックリベート・マージンが地区によって異なるようだった。

 こんなことがあった。

 ポンポコ製菓はTVスポットの発注方式を地区によって扱い代理店を変えていた。それは代理店の支配力をけん制するための代理店政策の一環であり、刺激を与えるために地区変更を時には行った。ある時九州地区の扱いをコンコン広告社から他店に変えたのだが、その時の反応が過剰であった。変更理由をしつこく問い質し、何時戻してくれるのか執拗に聞いてきた。
 筆者は不思議に思い、そもそも代理店とTV局の取引の仕組み、そして九州地区の特性についてコンコン広告社の局次長と部長にさりげなく好学の為と称して質問した。
 すると局次長は嬉々として会議室のホワイトボードを使って図解してくれた。「生方さん、良くお気付きになりましたネ!ご明察です!」と。どうも九州TV局のバックリベートは他ローカル地区より何らかの理由で多かったらしい。だから目の色を変えて九州の地区変更を拒んだのだ。
 しかし、そんな内輪話を代理店の局次長がクライアントの部長にいくら質問されたからと言って暴露して答える筋合いはない。横で事のいきさつを見ていた担当部長は口をあんぐりと開け、すごい形相で上司である局次長を睨んでいた。
 「このアホ! バカ、たわけ! いい加減にしろ!」といわんばかりであった。
 
 

所詮広告業界は・・・


 
 前回の南西旧社やコンコン広告社局次長のように正直に暴露するのはご愛敬である。現在もめにもめている自民党・安倍派のパーティ券搾取も見習えば事は簡単に進むのにと思う。

 しかしそもそもの取引の仕組みがいい加減で自分たちのご都合主義である。前々回の中小企業社長の騙しのテクニックなぞ可愛いものだ。
 
 もっと遡ればそもそも広告業界の出自はそういう方々の集まりなのだ。今でこそ上場企業だ、コミュニケーション業界などと紳士ぶっているが、もともとはお祭りやイベントを仕切っている方々と変わらない。昔の代理店の社長や責任者には如何にもという形相の方々が多かった。顔は浅黒く、ポマードべったり、胸ははだけてゴールドのアクセサリーをちらつかせる。そういった風貌だ。

 そしてそんな反社会勢力ギリギリで育ってきた生き残りが例の東京オリンピック贈収賄関連者である。彼らには悪いことをしてきたという感覚は恐らくないと思う。いわば当たり前の感覚であろう。しかもその筋の方々は教養も倫理観もなくても何故かカネ計算は正確で早い。カネの匂いには敏感である。#5で紹介した、財務リテラシーが無くてもゴルフのニギリ計算は早いポンポコ製菓の経営陣と同じである。

 そんなマズイ出自を払拭しようと懸命だったコンコン広告社はある時コーポレートスローガンを“CED“と謳った時代があった。曰く”Communication Excellence 〇〇”という訳だ。
 とってつけたようなスローガンに笑ってしまったら、当の担当部長は答えた。いや“Cost Expensive 〇〇”ですと。
当事者は自覚していて妙であった。
 
 
 さて、いまや「市場社会」。教養も学問にも精通したエリートがカネ儲けに邁進したのが現代だ。
 次回はその顕著な業界、銀行・金融関係の話をしよう。



 
 
 

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