バイト面接物語②

カラオケ店からのメールで面接は6月2日の13時からと決まった。

しかしこの日は東京に巨大台風が接近している真っ最中だった。
その影響で沖縄で開催予定だったハロプロのコンサートが中止になるくらいの巨大台風。
そんな時に面接なんてしてる場合か?
20代の僕なら確実に行っていない。
でももう42歳。
大人ってドタキャンしない生き物らしい。
というわけでもちろん行かせていただきます。

横からの雨でほぼ意味をなしてない傘を差し、水溜りがない場所の方が少ない道路を靴をびちょびちょにしながら駅まで歩く。
そこから電車で10分弱。
目的の駅に着き、改札を出て2分歩けばその店に着く。
その2分でタバコの煙を体内に取り込んでいく。
昔ならどんな面接であろうが緊張したもんだが今や全く緊張しない。
これが本業の作家としての仕事なら未だに緊張する。
でも今日はバイトの面接。
しかも20人募集してるイージー案件。
逆に緊張したら先方の企業にも失礼だ。
平常心でタバコを吸い終わり、いざ店内へ。

階段を上り2階にある店に入るとすぐ右手に受付があった。
しかし誰も人がいない。
しばらく待っていると店の奥から1人の男性が出てきた。

男「いらっしゃいませ」

この瞬間、僕は気付いた。
こいつはバイトだ。
店長の風格を兼ね備えていない。

僕「すみません。バイトの面接に来た丸尾と申しますが」
男「かしこまりました。店長を呼んでくるのでこちらの1番の部屋でお待ちください」

当たりだ。
やはり店長は別にいる。

言われるがまま1番の部屋に入ると手前と奥に長めの椅子があり、その間にテーブルが置かれている。
こういう場合、どっちに座るべきなのか。
確か上座とか下座とかあったよな。
本来なら立場的には下座に座るべきだが、お客さんという立場の場合は目上の相手の場合でもこっちが上座に座ったような、、、
答えの出ぬまま手前の席に座る。
そもそもカラオケに上座も下座もないやろ。
絶対に日本特有の文化だし、グローバルな大手企業様は気にも留めないはず。

しばらく待っているとノックの音とともに扉が開き男性が1人入って来た。
こいつが店長だ。
僕の第六感がそう告げる。
オーラ?風格?落ち着き具合?
ノンノン。
その男性がスーツだったから。
明らかに僕より年下だがそんなの関係ない。
若い世代にチャンスを与える未来志向の企業だと考えよう。

男「はじめまして。店長の○○です」
僕「丸尾です。よろしくお願いいたします」

しっかりと立って腰を深く曲げて挨拶。

店長「本日は雨の中わざわざすみませんでした」
僕「ほんまやで。他の日に変更するとかいう選択肢なかった?」

そう言いたいのをグッと我慢して、

僕「いえいえ。案外降ってなかったですよ」

嘘をついた。
めちゃくちゃドシャ降りでパンツと靴はグシャグシャだ。
このタイミングで自分が大人になったと実感するとは。

店長「では早速ですがこちらを全て記入してもらっていいですか?」

店長が出してきたのはよくあるタイプのタブレット機器。

店長「3ページあるので全部書けたら受付にお声掛けください」

そういうと店長は部屋から出て行った。
タブレットを見ると、名前、住所、職歴、希望シフトなどを入力する画面になっている。

履歴書やん!!
ここで書かされるの!?
履歴書不要ちゃうの?
人柄重視って書いてたやん!!

店長からの不意打ちに関西弁がこだまする。
募集ページに履歴書不要と書いていたのに、まさかここで書かされることになるとは。
ここで書くくらいならあらかじめ書いて送信出来るようにしとけよ。
めっちゃ無駄な時間やん。

要領の悪さに腹が立ったが、もう42歳。
大人は心の余裕が大事なんです。
態度に出さずに書きますよ。
だって部屋に監視カメラある可能性もあるからね。
わざとこっちがむかつく仕掛けをして別室でその反応を見てるんでしょ。
そんなトラップには引っ掛からないぜ。
全てを察して笑顔で書き込んでいきます。

まずは名前、住所、現在の仕事などを書いていく。
その下には制服の希望サイズを選ぶ欄が。
S、M、L、LLから選ぶみたいだ。
MかLなのは間違いない。
でも正直、制服発注する前に試着したい。
メーカーによって同じLサイズでも大きすぎたりする場合あるし。
この時点でMかLを選ぶのは難しかったが、大は小を兼ねるということでLサイズにした。

次に希望シフトを入力する画面。
オープンが朝の10時でラストが翌朝の5時らしい。
これに関しても働いてみないとわからない。
どのくらいのしんどさか知らないので、例えば12時間勤務を希望して実際働いてみたら6時間で限界が来るかもしれない。
ひとまず10時~20時を希望シフトにして、「土日も入れます」というところにチェックを入れる。
募集ページに「土日に入れる方歓迎!」と書いていたのを覚えていたからだ。
オレでなきゃ見逃しちゃうね。
確かに学生達は平日授業があるから土日は休みたいだろう。
だが僕くらいになるともはや曜日は関係ない。
ここで他のバイト面接者とのアドバンテージを取らせてもらう。
すまん、他の候補者たちよ。

他には家からの交通手段を書く欄もあった。
本来なら自転車だが、今日は大雨だったので電車で来た。
ここで自転車と書いてしまうと今後ずっと交通費が出ない可能性がある。
なのでひとまず電車の欄にチェックを入れる。

電車から自転車に変更は後でも簡単に出来そうだが、自転車から電車への変更はややこしそうな気がしたから。
そうして10分くらいかけて3ページを埋めたところで受付に行く。
するとまた先ほどの男性がいたので、

僕「書けたら受付に持って行くように言われたので来ました」
男「かしこまりました。少々お待ちください」

そう言うとそのバイトは僕からタブレットを受け取り、バックヤードへと入っていった。
僕は1号室に戻り、店長が来るのを待つ。

しばらくすると先ほどの店長が店内に入って来た。

店長「あらためましてよろしくお願いします。では早速面接をしていきます」

ようやく始まるようだ。
店長がタブレットを見ながら問いかけてくる。

店長「丸尾さん、、、他にも仕事されてるんですね」
僕「はい、しています。ただ、結構時間が空いているのでバイトを探していました」
店長「今までカラオケで働いたことはありますか?」
僕「カラオケはないですけど、ずっと居酒屋で働いていたので接客業の経験はあります」
店長「ある程度して仕事を覚えたら昼間の時間帯はワンオペになりますけど大丈夫ですか?」
僕「はい、大丈夫です。今までのアルバイトでもワンオペの現場は多く経験してますので問題ありません」

ここまでは完璧だ。
ワンオペという断りたくなる条件にも瞬時に笑顔で対応出来た。

店長「ちなみに髪の毛って染められてますか?」
僕「白髪があるので白髪染めしてます」
店長「見た感じ、結構茶色いので黒く染め直したり出来ますかね?」

そらそうだ。
だって白髪染める時に、「真っ黒は嫌なんでなるべく明るい色でお願いします」って言うてるもん。

さすが店長。
この高校生の夏休み明けくらいにしか染まってない茶色に気付くとは。

店長「なぜうちの店に応募していただけたのですか?」
僕「家から電車1本で来れますし、週単位でシフトを組めるというのが凄く助かります。また、こちらの店舗ではないですが、大阪にある店舗さんの方によく行かせて頂いてましたので安心感がありました。店員さんのアットホームな雰囲気もこちらに応募する決め手となりました」

序盤に嘘をついたのだから何度ついたって一緒だ。
アットホームを毛嫌いしてたが、自分の店をアットホームと言われて嫌な気分になる店長なんていないからね。

店長「採用になった場合、どのくらいのペースで勤務を希望されますか?」

こういう場合は多めに言っておいた方がいい。
20名募集してるってことは人が足りてない証拠。

僕「週4回くらいが希望です」
店長「結構多いですね。人が足りていないので助かります」

合格だ。
これはもう合格と言われたようなもんだ。
合格を祝う鐘の音が聴こえる。

そこからいくつか質疑応答が続き、最後に店長が、

店長「本日はありがとうございました。合格した場合は3日以内にお電話で連絡させていただきます」
僕「わかりました。お忙しいところありがとうございました」

店長、焦らすねぇ。
いますぐ合格って言ってくれたっていいのに。
まぁ大手だから細かいところにもマニュアルがあるんだろう。

そこからまた傘を差し、来るときよりも強くなった雨と風を全身で受けながら家路についた。

そこから5日が経った。
電話はきていない。

( ゚Д゚)はぁーーーーーーー!!!????


落ちてるやん!!!


マジで言ってんの???
落ちる要素、一つでもあったか!?
お前らが求めてた土日入れる人材やぞ!

台風の中、わざわざ面接行ってんねん!
その時点で無条件合格でもええくらいやぞ!
ていうか面接やったらお茶の一杯くらい出さんかい!

電車乗って交通費もかかってんねん!
往復500円返せ!

髪の毛もなんで黒く染められるか聞いたんや!
こんなことなるなら「宗教上の理由で無理です」って言うて変な空気にしたったらよかった!

なんで面接で制服のサイズ書かせたんや!
受かってからでよかったやろ!
あの悩んだ時間返せ!

もうこの際やから言っておく!
カラオケでワンオペってなんやねん!
ワンオペ出来るような規模の店じゃないぞ!
キッチンと受付、どうやって1人でまわすねん!
客室めちゃくちゃあったし、5人おっても不安な広さやったぞ!
そんなブラックなことしてるから大量にバイト辞めたんちゃうんか!
じゃないと新店でもないのに20名募集するのはおかしいやろ!
もういい!
二度とこの系列店いかん!
なにがビッ○エコーや!

いや、待て待て待て。
ここで怒るのは誰でも出来る。
俺が落とされたと考えるから腹が立つんだ。
俺より素晴らしい20名が採用されたとポジティブに捉えてみようじゃないか。
念の為、もう一度募集要項を確認しようと思い、あらためて募集ページを見てみる。

まだ募集しとるがな!

えーーーーーーー!!!!


20名埋まったから落とされたんじゃなくて?
まだまだ人が足りてないのに落とされたん!?
あの年下店長め!
他の仕事何やってもダメやから文句言わずに働けば誰でも社員になれるブラックカラオケ店で最低賃金雇われ店長になったような男に評価されたと思うと悔しい!

・・・うそ!
強がった!
靴舐めるから雇ってくれ!

ちゅうことでバイト決まりませんでした。
また新たなバイト先を探しまして、決まれば報告します。

長々とした文章を最後まで読んでくれてありがとうございました。
ではまたお会いしましょう。
ほなまた!

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