治安の悪い映画館

都合により4週間ほど大阪に滞在しております。
残すところ一週間となり、ホームシックにかかっているわたくしは帰りの日を待ちわびる毎日であります。
この大阪滞在が決まったとき「何か楽しいことを見つけといた方が精神衛生上よかろ」とちょっと大阪について調べてみました。
するとなんということでしょう。
大阪にはとても良い感じの映画館が鎮座していらっしゃるではありませんか。
その名も「新世界国際劇場」。かなり古い映画館のようです。
行かれた方々の感想として目についたのは、「地下はヤバい」「地下はカオス」というものでした。
その映画館は地下と地上階にスクリーンを持っているらしく、地上階では公開されて少し時間の経った作品や昔の洋画が3本立て(!)で、地下ではいやーんばかーんな大人の映画が上映されている模様。
そして地下は男性同士の出会いの場になっているとかいないとか。
しかし大阪くんだりまで行ってピンク映画を観ようとも思ってはおらず、わたしの目的地である地上階については特に何の記載も見られなかったので、まあ普通の映画館なのかなと判断するに至りました。

そして迎えた最初の週末、朝一で映画館へ向かいます。
上映されているのは『マイナス21℃』『タクシー運転手 約束は海を越えて』『ハングマン』の3本、うち『タクシー運転手』については観たいと思っていた作品なので特に楽しみにしていました。
映画館に着くと、まず入り口がどこなのか分かりませんでした。
出入り口かと思われたガラスの扉は堅く閉ざされているし。
あれー?と思っていたら、暖簾のかかった端っこの入口が、地上階と地下階共通の出入り口なのでした。
入口すぐの券売機でチケットを購入、おばあさんにもぎってもらい中へ入ります。
ガラガラ。最高。ガラガラの映画館、大好物です。
後方の真ん中ブロック右端の席に陣取り、(2階席もあるんだよな~、2階もいいな。シネスイッチ銀座で2階から映画を観た時、なんだかとても良かったんだよな。2本目は2階席で観るのもいいな)なんてことを思いながら開映を待ちます。
お手洗いの場所は確認しなかったので分かりませんが、たまに空気の動きに乗ってフッとアンモニア臭が漂うので、潔癖気味の方には1階席は少し辛いかもしれません。
朝一ということもあるのかお客さんは10数人、わたしの座っている列にも他に人はいませんでした。

上映時間間近になると、館内アナウンスが流れました。
通常、「飲食は他の客の迷惑にならぬよう」とか「前の座席を蹴るな」とか言うアレです。
しかしこちらの映画館でのアナウンスは、「荷物から目を離すな」「スリに気をつけろ」というものであったので、(オッ治安の悪さ・・・)と思いました。
そして1本目の本編が始まります。始まったんだけど。
完全入れ替え制ではなく出入り自由とは言え、上映開始後もひっきりなしに人の出入りがあります。
通路はさんでいくつか向こうの席に座っていた人がいつの間にかいなくなっていたりもする。
今まで通っていた映画館では上映開始後にそこまで人の動きがあるということはなかったので、これには少々驚きました。
その後も出入り口付近で小声ではなく普通の音量で話し始めるおっさん、大きな荷物を持ってぐるぐると館内を歩き回り続ける初老、そして引き続き落ち着きなく出入りする人々。
ここは、映画館では・・・?という疑問を抱きつつ、映画を観ます。
しかし映画も終盤に差し掛かった頃、主人公が生きるか死ぬかという大事な局面において、ついに直接の害がやって来ました。
ひとりの妙なおっさんが、ガラガラの館内でわざわざひとつ向こうの席にやって来たのです。
(なんぞこのおやじは)(いや、でもな・・・ひとつ席挟んでるしな・・・)(とりあえず様子見か?)などと思ったのも束の間、すぐにわたしの隣の席に移る素振りを見せたので(オッこれはアウトですね・・・)と同じタイミングでわたしも通路を挟んだ隣のブロックに移りました。
するとその妙なおっさんはどこかへ去っていきました。
半分意地で1本目のみ最後まで観ましたが、とても集中出来たものではありません。
同じようなことがあっても不愉快なので、残り2本は諦めて映画館を後にし帰宅しました。
わたしは映画鑑賞を邪魔されることが本当に嫌いなので、あの妙なおっさんに対し今でもかなり恨みを抱いています。少なくとも、彼の手にまっすぐ深々とフォークを突き立ててやりたいと思うほどには。
だって映画館なのに。手描きの看板とか、すごく良かったのに。
とても残念なことでした。
が、所詮わたしは余所者であり、あの界隈や映画館の”ルール”など知る由もないし知りたいとも思わないし、それを改善すべきとも思いません。
需要があるから続いているのだろうし。
二度と行くことはありませんが、貴重な社会科見学となりました。

その後、職場で何度か「どこか観光とかしたの?」と聞かれたので「新世界の映画館へ・・・」と答えると、もれなく「エッ!?そんなとこ行ったの?」「ひとりで??」などという反応ばかりなので、(あ、地元の人もあまり行かない場所なのね・・・せっかく3本立て1000円なのに・・・)とやっぱりちょっと勿体なく思ったりなどしたのでした。

おわり

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