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与那国滞在記-2

日常においては朝に弱く起きるのに一苦労の毎日を送っていますが、旅行先では日常と同じくらいの時間に目覚ましもなく自然に起きることが出来ます。
なんなんだろうなあの現象。毎日ああだと良いのですが。
与那国での数日も、毎朝7時には起きていたのではないかと思います。
宿の洗濯機をお借りして洗濯をし、ふくやまスーパーで買った牛乳とサーターアンダギー(オーブンでブンするとカリッとなって美味しい)で朝食を済ませ、今日はどこへ行こうかと思いを巡らせます。
この旅行中に実感したことには、「今日は何をしようかな」と思える幸せ。
あくせく働くしがない会社員たるわたくし、平日は何をしようかなどと思うまでもなく労働です。
週末は「何をしようかな」と考えることが出来なくはありませんが、何かしら予定が入っていたり、あるいは平日の疲れを癒さんと休息を取って一日が終わることも珍しくはありません。
人はそれをぐうたらと呼ぶ。
与那国にいた一週間ほどは、今日は何をしようかどこへ行こうか、それを当日の朝に自分で決めることが出来るという稀有な時間でした。

与那国をぐるっと回るのに最も適しているのは、おそらく原付です。
スピードがある上に小回りが利くので、気になったところでさっと停車して立ち寄ることも海を眺めることも生物を見つめることも出来る。
温暖なあの島においては、風を受けて走るのはとても気持ちの良いことでしょう。
しかし哀しいかな、わたしは免許を持っていません。
なので一日か二日くらいは電動自転車でも借りようかな、などと考えていました。
が、その前にとりあえず手始めに西半分を、歩いて回ってみることにしました。
10月22日は、歩いて西半分を回ることに決めたのだ。

宿泊していた祖納から西へ向かって歩き始め、まず目指したのはティンダハナタ。
ひときわ高くそびえるゴツゴツした崖のような場所であります。
遠いように思ったけれども意外と近いものでした。
舗装された道を少し歩き、遊歩道に入って綺麗な湧き水を横目に進めば展望台まではすぐ。
海と祖納の集落を一望することが出来ます。
展望台のその先にも進めそうな気配を感じたので、覆い茂る植物をかき分けて行くとどん詰まりはモロともののけ姫の住んでいそうなちょっとした岩穴でした。
来た道を戻れば駐車場には大きな蜘蛛が綺麗な巣を張っていました。

ティンダハナタを後にし、再び西を目指します。
空港を右手に歩いていると、ダイビングショップが見えてきました。
海底遺跡を見てみたかったわたくし、電話予約なぞせずとも今行きゃいいじゃんと立ち寄ることにしました。
ごめん下さいと中に入ると、対応してくれたのはこんがり焼けてはきはきとした口調で話す可愛い女の人でした。
「微妙な予約のお客さんがいて、その人次第なんですよ~」ということで、2日後or3日後ということになりました。
すべては微妙な予約の客次第です。
「この道、日陰ないから無理のないようにね~」という言葉を背に三度歩き始め、しばらく進んだ空港の敷地の横に「馬鼻崎」という看板というか標識のようなものが見えたので、「フム、これは・・・?」と曲がってみることにしました。
したらよ。ここがよ。楽園よ。
見渡す限り広がる緩やかに傾斜した薄い緑の原っぱに濃い緑のアダンに、群れをなす牛と馬。
殊に馬の可愛さと言ったら。与那国馬は小柄で茶色くてそれはそれは可愛らしいのです。
人間を気にする素振りもなく、無関心に草を食んでいる者あり、ゆっくり歩いている者あり。
そっと背中を撫でると、特に嬉しそうでも嫌そうでもありませんでした。
は?何か?くらいなもんです。
おぉ・・・その無関心・・・心地よい。
断崖絶壁から眺める海はまた絶景で、波が発生する様はいつまで見ていても飽きのこないものでした。
ただ、波の押し寄せる岩の窪みに海からの大きなゴミがあまりにもたくさん溜まっていたのは残念なことだった。
誰かがどこかに捨てたゴミは無くなってしまうことなんてなくて、どこかで他の誰かのところに辿り着いてしまうんだなあ。
哀しみ。

北牧場(という所だった、帰ってから調べた)を後にし、久部良を目指してまたも歩き始めます。ひたすら歩きます。歩いて歩いて歩きます。
ぽつぽつ人家が見えてきたと思うと間もなく久部良の集落へ到着しました。
久部良でまず目指したのは久部良割(クブラバリ)。
巨大な岩の裂け目があり、かつて人頭税を課せられていた時代に少しでも負担を減らそうと妊婦を跳ばせたという伝説があるのだとか。
健康体の人間でも飛ぶのは難しいだろう幅のある深い深い岩の割れ目を、身重の人間が飛び越えるのは至難の技であったことは想像に難くありません。
もしそれが本当のことだとしたら、わたしが当時の水子だったならば人頭税を課していた偉い人やこのような人減らしを考案した人を末代まで祟るね。
深い深い谷間を覗くと、今はアダンがわしわしと覆い茂っていました。
久部良割を後にしてぷらぷら歩くも、そろそろ燃料切れの時が近づいていました。補充しなければ。
しかしのんびりし過ぎたせいでランチタイムをやや過ぎた中途半端な時間、お目当ての海人食堂をはじめ閉まっているお店ばかりでした。
うぅ・・・燃料が切れちゃうよう・・・と彷徨えば、目に飛び込んできたのは開いた扉と「open」の文字。
ふらふらと入ると、小さな店内はたくさんの本に囲まれた最高の空間でした。
Moist Roll Cafeという名前のそのお店で頂いたのは、カジキのトマトパスタとロールケーキにアイス黒糖チャイのセット。
パスタも2種のロールケーキ(しっとり・・・)もアイスチャイも、すべてが美味しかったです。
待ち時間&食事中は、たくさんあった本の中からはちみつとクローバーの1~2巻を読んだった。活字はとても読み終わりそうにない厚みのものばかりだったので。。。
次に与那国へ行くなら、久部良に泊まってあのカフェに入り浸って読書三昧も悪くないかもしれません。
美味しい料理で力をつけてから西崎へ向かい、久部良の集落と美しい海を一望したのち今度は南を歩きます。
目指すはDr.コトー診療所のロケセットが有名な比川の集落。
南牧場線を進んでいきます。
Dr.コトー、ドラマ放映時にはまったく観ていなかったので、今回の旅行前に「予習するか・・・」とTSUTAYAで借りて観てハマってDVD-Box買いました。
旅行前は予習で観て、帰ってからは復習で観ています。しかしドラマの時とはけっこう変わっている風景もあるのかなあ。
こちらにも馬が歩いているので、めんこいなあ、お前たちはほんとにめんこいと馬を愛でつつ、美しい海を眺めつつ、馬糞から生えたきのこを観察などしつつ歩きます。

途中、寄り道した浜でヤドカリを観察中にダイビングの日程確定の電話連絡を受けるなどしながら辿り着いたのはコトー先生の診療所セット。
無人だったので千円置いて500円のお釣りを勝手に貰いました。お釣り200円足りねえ・・・と思いましたが、無人なので致し方ありません。
コトー先生の居住空間は立ち入り出来なくなっていたのが残念でしたが、待合室や事務室はドラマの頃の面影を濃く残していました。
診察室はがらんどうだった。。。そこにヤシガニラーメンやら藁草履やら自転車やらが展示されていました。
手術室も入れなくなってたかしら。しかしドラマではほとんど映っていなかった酸素ボンベ置き場など、細かいところまでかなり作り込んであるセットでした。
あの病室なら、入院生活も悪くないよな~。
屋上に上がって貸切状態でひとり満喫して下に降りたところ、スタッフと思しきおじさんがいたので千円払って500円頂戴した旨をお伝えしたところ、残りのお釣り200円も下さいました。
性善説に基づく営業方法だな。

陽も傾いてきたとこだし、そろそろ帰るか・・・と南から北を突っ切る道をえっちらおっちら登っていると、先ほどのおじさんが車で通りかかり「祖納まで?4kmあるよぉ~」と言われましたが(いや今まで何km歩いたと思ってんのよ・・・4kmくらい余裕で歩けるわ)と思いつつ笑顔で「頑張って歩きまーす」などと持ち合わせの少ない愛想を振りまいて家路(宿路?)についたのでした。

いい感じの樹といい感じの一本道

3につづく

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