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映画『オッペンハイマー』原作のバックストーリー

 歴史学者のマーティン・J・シャーウィンは、出版社からJ・ロバート・オッペンハイマーの伝記を執筆するよう依頼された時、こんな重要人物について執筆するにはまだ機が熟していないと考え、断ろうとした。しかし出版社の担当者に説得され、引き受けることにした。1980年3月に執筆契約を結んだ時には、5年で書き終えることを予定していた。
 しかし、1990年代の終わりごろにはシャーウィンは完全に行き詰まっていた。膨大な資料を集めていたが、これをどうまとめてたらいいか、考えあぐねていた。20年たっても1文字も執筆できていなかった。「書き終わらない伝記」は、もはやシャーウィン家のジョークとなっていた。
 実際に伝記(映画原作)が出版されたのは、25年後の2005年だった。そしてそれは、カイ・バードの力があって初めて可能になった。
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 1999年、シャーウィンは仕事を探していたバードを夕食に誘い、一緒にオッペンハイマーの伝記を書かないかと誘った。
 2人は長年の知り合いだったが、バードがスミソニアン博物館でのエノラ・ゲイの展示について本を書いた時に、シャーウィンのエッセイを引用したことで、友情が深まっていた。
 バードは、一緒に本を執筆することでシャーウィンとの友情が壊れるのではないかと恐れ、最初は断ったが、説得されて執筆に加わることにした。
 シャーウィンが集めた資料を基に、バードは執筆を始めた。バードが書いたものをシャーウィンに送ると、シャーウィンは修正を加えて送り返した。「それはまるで魔法のようだった」、とシャーウィンの妻は語る。
 2005年4月、ついにオッペンハイマー伝記が出版された。
 2021年9月、シャーウィンとバードは、ノーランが伝記を映画にしようとしていると知った。それまでにも映画化の企画はあったが、シャーウィンは懐疑的だった。しかしその後ノーランと会って話したバードは、闘病中だったシャーウィンに、ノーランなら信頼できると伝えた。
 2021年10月、シャーウィンは84歳で亡くなった。
 完成した映画を見たバードは、「シャーウィンが映画を見たら、映画の正確性にとても喜び、また芸術としての完成度に感銘を受けただろう」と話す。
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 バードは、ロス・アラモスの撮影現場を見に行った時、キリアン・マーフィーがオッペンハイマーにそっくりであることに驚いた。撮影の合間、挨拶しようと近づいてきたマーフィーに、バードは思わず「オッペンハイマー博士!やっと会えました」と叫んだ。マーフィーは、「あなたの本はみな読んでますよ」と答えた。

この記事は、Behind ‘Oppenheimer,’ a Prizewinning Biography 25 Years in the Making, by Andy Kifer (New York Times)を基に書いています。

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