打越正行

研究分野:社会学、沖縄、参与観察。書いてきたものに『ヤンキーと地元――解体屋、風俗経営…

打越正行

研究分野:社会学、沖縄、参与観察。書いてきたものに『ヤンキーと地元――解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち』(筑摩書房、2019年)などがある。

最近の記事

Lifetime Blues #12 2022年6月26日 京都の大学生が沖縄を旅して聞いた「いちゃりばちょーでー」 https://onl.bz/ksk2wJq 10:43-

    • 聞くことを共有する

       講義を勝手に開放して2年目になります。    学びなおしの機会をつくるとか、開放的な大学をめざすとかも大事なことですが、なにより和光の学生にとって学びが充実するからやっています。講義アンケートをみる限り、和光の学生も学外からの参加者によって学びやすい雰囲気となり、有益だったと評価してくれているようなんで今後もやってくつもりです。  今年も、講義内でおもろいことがありました。  和光大学には障害のある学生も通っています。担当した講義には聴覚障害のある学生がいました。講義中は

      • ビアガーデン「どうしても、はらっぱ」

        最初は学生2名で始めたのに、そのうち6、7名くらいで毎週火曜に企画会議し始めて、最終的に50名規模のイベントを自分たちでやってのけちゃった。毎年やってるわけでも、どこかのバックや、教員が支援するでもない。巻き込み上手で、人に頼りながら形にする力、さすがやなあと思う。あとこういう学生たちをなんとか支えたいっていう大学の雰囲気も素晴らしかった。 そろそろ、昔の和光はとかってノスタルジーに浸るんじゃなくて、いまの和光を勝手につくってけばええのにと思う。昔の和光もそうだったんだから

        • ブックリスト

           昨日の図書館ゼミで配布した、ブックリストです。30分であれ以上しゃべれるのかというほど、話し続けてしまいました。本なんて下手に出会ってしまうと大変なことになるので、図書館にはその覚悟で寄ってってくださいという話をしました。結局、西原さんのと石岡さんの2冊しか紹介できませんでした。続きはまたどこかで、、。 ■■■  大学でものを考えるということは、私にとって孤独で苦痛をともなう営みです。まさにこれから、大学で学ぼうとしている方々に向けて伝えることではないかと思うの

        Lifetime Blues #12 2022年6月26日 京都の大学生が沖縄を旅して聞いた「いちゃりばちょーでー」 https://onl.bz/ksk2wJq 10:43-

          ゼミでの自己紹介

           打越です。私はインタビューや実地調査をして人や社会について調べる社会学者です。私が人について調べるときに大切にしていることは、2つあって、それは長くみることと、隣でみることです。上から目線で早急に決めつけるようなことはしないということです。  先日、私の人の見方をアップデートする機会に恵まれました。和光大の坂の下に東和楼という街中華があります。おじさんとおばさんのおふたりで40年以上にわたり続けられてきた店です。3月のある日、和光大の学生が飲食後に所持金がなくて支払いがで

          ゼミでの自己紹介

          シマ歩きの旅(抜粋)

          本報告書について  本報告書は、1次データを収録した資料集です。解釈も考察もなされていないままのデータを可能な限り掲載しています。そのような編集方針をとったのは、1年足らずの短期間で1次データを解釈、考察してまとめることより、(1)データについて考え続けること、(2)そして同じ場所で同じ現実をみても、私たち観察者は異なるものを異なった見方でみているその「ずれ」や「複数性」を残すことを重視したためです。  この報告書は、5年後10年後に、参加者の皆さんが引っ越す時や新しい生

          シマ歩きの旅(抜粋)

          「銭湯の行動学」論文から考えたこと

           昨年、京都に集中講義に行った時、大学の前に銭湯があった。旅人でも気軽によれ、地元のおっちゃんや学生らと同じ湯につかった。その時以来、大学(の近く)に銭湯があったらなあと考える。  ある方の論文を読みたくて、手にとったテキストにたまたま載っていた以下の佐藤さんの論文がとっても印象に残ったので、以下メモ。 「公共浴場では、身体それ自体が究極的ななわばりとなる。ここではほかの人びとと居あわせながら、まるっきり裸という無防備な姿で自分の身体に関与するという、もっとも私的な活動に

          「銭湯の行動学」論文から考えたこと

          大学で学ぶ前に――学ぶことは楽しい?

          これから入試も始まりますので、高校生だけでなく、社会人や既卒生、そして今まさに大学で学んでいる学生さんに向けて、大学で学ぶということについて書いてみます。 学ぶことは、知らなかったことを理解できたり、できなかったことができるようになったりと、なにかと次のステージにたどり着くことができるので、とても楽しいことだと思います。現時点でそのことに気付いているのだとしたら、とっても幸運なことだと思います。 ただ水を差すようですが、大学で学ぶということは、楽しいことだけではないという

          大学で学ぶ前に――学ぶことは楽しい?

          生きつづける 沖縄の「アムラー」

           沖縄の繁華街であるR街には、キャバクラ店がひしめき合っている。  高級クラブが並ぶ那覇の松山とは異なり、おもに地元の建築作業員やヤンキーの男性たちを相手にしたローカルな歓楽街だ。私は社会学者として、沖縄のヤンキーや建築作業員のフィールドワークをしてきた。彼らが通うR街のキャバクラにも、何度か連れて行ってもらった。深酒で酒癖の悪い彼らの飲み方は、お世辞にも上品なものとはいえなかった。  そんな男性たちの太ももに手を添え、巧みなトークであしらいながら、キャバ嬢の女性たちは働いて

          生きつづける 沖縄の「アムラー」

          始めるタイミング

           4月より和光大学、現代社会学科にて働くこととなりました打越正行と申します。40歳にして初めて専任の仕事に就くこととなりました。そのような私にとって、毎年4月はあまり居心地のいい時期ではありませんでした。入学式や入社式、新しい土地での生活など、世間ではなにかを始める時期ですが、私はそういう流れに乗れずにいたからです。4月だからなにかを始めるとか、誰かと出会うとか、そもそも遊ぶにしろ、学ぶにしろ、大学の期間限定で行うことを冷ややかにみていました。なにかを始めるのは自分のスイッチ

          始めるタイミング

          新入生あいさつ

          和光大学への入学、そして編入おめでとうございます。コロナで大変な中での新学期に不安なことも多かったと思いますが、この大学で大いに学んでもらえることをスタッフ一同、心より願っています。  私は、和光の学生には自身で人生をひらいていける力をつけて欲しいと考えています。既存の仕組みやルールも大事かもしれませんが、自身で考えてよりよいやり方を自分たちでつくっていって欲しいと強く願っています。  そのために、和光大は自由に学ぶことと、学生による自治を大切にしています。  自由に学ぶ

          新入生あいさつ

          再生

          学生の皆さんへ

           社会学者の打越正行です。この動画は、学生の皆さんに向けて作成したメッセージ動画です。  学生の皆さんに投票してくださいとお願いはしません。あなたたちは投票する責任があると考えるからです。  まず学生の皆さんは自身のために投票してください。現在の日本社会の状況は、かつてと比較して大変なことになっていて、それを当事者として訴えなければなりません。コロナ禍、就職活動、また非正規雇用の増加など、皆さんが日々感じている生きづらさは、決してあなたに原因があるわけではなく、日本社会の政治や社会構造に起因することです。それらを訴えるために、まずはあなたのために投票に行ってください。  他方で、私は(いつも口うるさく学生たちに言ってることなんですが)、大変な状況にいますがそれでも皆さんは特権階級にいる人たちであることに変わりはありません。社会問題を認識し、それに対し声を上げることができる環境にあります。どうかあなたと誰かのために投票してください。  いまだ在日コリアンの方は制度的に投票できません。また路上で生活するホームレスのおっちゃんや、私が調査で出会った沖縄の建設現場で働く若者たちの多くはどこかの市町村に投票権はありますが、住む場所を転々としてきたため投票はがきを受け取れない方もたくさんいます。はがきはなくても投票できますがそれほど投票行動と遠い世界を生きているということです。ぜひあなたと誰かのために投票してください。  最近、民主主義がぶっ壊れ、非正規の不安定就労が多くなってきました。その通りです。しかし沖縄ではずっと前からそのような状態が続いてきました。辺野古のことをご存じですか。米軍基地建設に対して、現在の辺野古の立場はどのようなものかご存知ですか。条件付き容認です。このようなことをいうと、だったらはやく基地建設をすすめようと考える人もいるかと思います。  しかし、辺野古に住む人びとは20年反対してきたのです。赤ちゃんは大学生になり辺野古を出て、運動の中心として活動してきた方々も異なる人生のステージにいます。その結果、出した答えが「基地容認」なのです。社会学者の熊本博之さんは、そのような辺野古の人びとを「決定権なき決定者」と言い表しました。そもそもここ20年、辺野古住民に決定権はなかったのです。反対の時は無視され、容認に転じると条件交渉が始まる。これがこれまでもずっと沖縄に民主主義はなかったということの意味です。  もちろんだからといって、本土の人びとが、そして若者がいまになって声を上げることを冷笑するつもりはありません。むしろ、ぜひその声をあげることをためらわないでください。そして自分と誰かのために投票に行ってください。  このくそみたいな社会を、まずはおおいに愚痴りましょう。そしてそこにはまろうとするだけでなく、少しずつ一緒にそんな社会を変えましょう、そしてクソおもろい社会をつくりましょう。ぜひ自分と誰かのために投票に行ってください。

          学生の皆さんへ

          再生

          革命のない大富豪

          失業を恐れて保守的に  大富豪というトランプゲームがある。建設現場の昼休みや、週末の打ち上げなどで、仲間と盛り上がる定番のギャンブルだ。大富豪はゲームごとのあがる順番で順位が決まる。最下位の者は、次のゲームを始める前に勝者に有利なカードを渡し、その代わりに不要なカードを受け取る。強い者はより強くなり、弱い者はより弱くなるルールが、このゲームの醍醐味のひとつである。    しかし格差が拡がるだけでは盛り上がりに欠けるので、このゲームには革命というルールもある。特定のカードがそ

          革命のない大富豪

          人の動きで場を制する

          那覇とコザ  20kmほど離れた那覇とコザの2つの町は、車なら(渋滞がなければ)1時間程度で移動できる。2つの町で通勤、通学している人も多く、その距離はそんなに離れていない。  他方でこの2つの町の文化に温度差を感じている人は多いのではないだろうか。それを感じるのは、使う言葉や人間関係の取り方の場面であったりする。ヤンキーの若者たちのなかにも、その違いは存在し、那覇では「コザは独特だよね」と言われ、コザ周辺では「那覇は怖い」と言われる。 **  今年の夏、中部の建設作業

          人の動きで場を制する

          建設業からヤミ仕事へ――「現場号」からの風景

           沖縄の建設現場で働きながら社会調査をしてきた。建設現場で働く従業員は、朝の8時から、ずっと終業時刻の5時半を目指して働く。現場は暑く、資材は重く、そして時には痛みも伴う。このような感覚で働くため、仕事を終えた時の解放感は、他のどんな仕事よりも格別なものだ。帰りの現場号(建設会社の移動用の車両)では、運転手を尻目に従業員たちはサザンスターを飲み干す。この時間は、丸一日感じた苦痛から解放され、何も考えずボーっとしていられるひと時となっていた。  現場で働いている時は、とにかく

          建設業からヤミ仕事へ――「現場号」からの風景

          「沖縄嫌い」

           私は今までに沖縄の暴走族やヤンキーの若者に聞き取り調査をしてきた。そこで出会った若者の多くは、ゆいまーるとは異なる社会に生きていた。そのような若者がいることを記録していきたい。 * *  2007年7月の平日深夜。北部出身の拓也(仮名)は、中部のバイク仲間とゴーパチを走っていた。ガラス工場や離島の農業での仕事を経験して21歳、運送業に就いた。毎日、北部の実家から浦添の会社まで通いながら、夜はバイクでツーリングを楽しんだ。 拓也 北部は(中南部と比べて)もっと仕事がない。今

          「沖縄嫌い」