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『カメラを止めるな!リモート大作戦!』 ひたすら面白い映画に会いたくて 〜78本目〜

 いまの状況を楽しむ、そしてこれからのことを考えるという意味でも素晴らしい作品であった。キャストは『カメ止め』のときとほぼ同じメンバーであるので、『カメ止め』の正式な続編といってよいだろう。演じる人たちが役者兼カメラマンとなるところも見所の一つだ。どうやって撮影しているのだろうと考えるだけでも面白い。本作のようにZoomだけでなく、自撮り映像も上手く駆使して制作された映画はかなり珍しいのではないか。本編がYouTubeで無料公開されているのが嬉しい。鑑賞するならいましかない。

『カメラを止めるな!-リモート大作戦!-』(2020)

                脚本・監督・編集:上田慎一郎

【キャスト】
日暮隆之(濱津隆之)、日暮真央(真魚)、日暮晴美(しゅはまはるみ)、神谷和明(長屋和彰)、細田学(細井学)、山之内洋(市原洋)、古沢真一郎(大沢真一郎)、笹原芳子(竹原芳子=どんぐり)

            「やっぱり映画館で映画観たい」

物語の概要

 外出自粛中の日暮隆之(濱津隆之)は、「今月中に再現ドラマを完全リモート(遠隔)で1本作ってほしい」とプロデューサーから頼まれる。番組名は「実録!珍犯罪ファイル」。実際にあった珍しい犯罪を再現ドラマにしてお届けするというのがこの番組の趣旨である。この仕事を引き受けた隆之は早速『ONE CUT OF THE DEAD』のキャストに連絡し、完全リモートでこの再現ドラマを作り始める。彼らは、このプロデューサーからの無茶ぶりとも思える仕事を無事に完成させることができるのか。

本作の魅力

 本作も『カメ止め』と同じようにプロデューサーからの無茶な仕事を日暮隆之が引き受けるところから話は動き出す。この制作現場の舞台裏を完全リモートで制作するのが本作である。リモート撮影でしか再現できない面白さがここにはあった。
 まず、役者たちがそれぞれ自分の家で自撮りしたものをあとで監督が編集する方法を採用しているので、画と画が全くつながらないシーンが出てきて面白い。また、役者自らが自身の演技の撮影をしているので、手ブレがひどかったり、画面に手が映り込んでしまったりする。こういうところに素人臭さをたっぷりと感じることができ、それが笑いにつながるという上手い演出であったなあ。手ブレしすぎていたおっちゃんの映像に関しては、あれはあれで新たな映像手法なのかもしれないとすら感じたものだ (笑)。
 そして、冒頭からトップギアで攻めてくる「どんぐりさん」のはっちゃけ具合にすっかり元気と笑いをもらった。この人の演技を見ていると、自然と笑顔になってくる。本当にパワーたっぷりの面白い役者さんだなあと改めて感じたものである。本作を観ると、みんないつのまにか笑顔になっていることだろう。

1番印象に残った場面

 ラストシーンの日暮家3人で「落ち着いたら、何したい?」と話しているシーンで、真央(真魚)が自身のやりたいことを話しながら涙を流す場面が1番印象に残っている。上田監督が脚本に込めた「いまの自分の思い」と真魚の「いまの自分の思い」を役に込めたような演技が見事にシンクロした素晴らしい場面であった。真央のセリフが自分にとっての「やりたいこと」とも重なり、涙腺が緩んだものだ。

おわりに

 最後に交わした「また現場で」という言葉にもグッときた。映像作品に携わるすべての人々への「エール」を本作からありったけ感じた。本当に今だからこそ観る意味のある作品であり、今しか作ることのできない貴重な作品であったと思う。
 いまは自分が心の底から撮りたいと思う作品を作ることは難しい。今できることは、リモートで面白い映画を撮ることぐらいしかないのかもしれない。だけど、このままでは終われない。自分の本当に作りたいものを生み出すためにも、いまをじっと我慢して乗り越える必要がある。そして、今の時間をみんなで一緒に面白いアイデアを考えながら楽しく過ごそうじゃないか。このような作り手の思いや熱意が率直に伝わってくる素敵な作品であった。

(↑『カメラを止めるな!』の感想です。もしよければあわせてどうぞ。↑)

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