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車のLCAとは(分析編)

【はじめに】

車のLCA(概要編)でLCAについて説明しましたが、実際に販売されている車のLCAはどのようになっているのかを分析して解き明かしていきたいと思います。

車のLCA(概要編)はこちら


【LCAの公表率ランキング】

LCAの公表姿勢からメーカーの環境保全への意識がどの程度なのか読み取れます。

公表車種が多いほど、環境負荷に対して自信があることの表れになります。

メーカーによって車種数に開きがあるので、公表率でカウントします。

2017年8月現在のHPで公開されている情報を元にカウントしています。

5項目すべて公開のものを1とし、1項目のみの場合は0.2、前モデル比の割合など、絶対尺度になっていない中途半端なものは0.1として、カウントし、メーカーごとの車種数で割ることで算出しています。


1位 トヨタ 45%(35.4車種/全78車種)

2位 マツダ 19%(2.5車種/全13車種)

3位 ダイハツ 6%(1車種/全18車種)

4位 スズキ 4%(0.8車種/全22車種)

4位 日産 4%(1車種/全27車種)

6位 スバル 2%(0.5車種/全22車種)

7位 ホンダ 0%(0車種/全19車種)

7位 三菱 0%(0車種/全10車種)


車種ごとのHPで環境仕様としてLCAを載せているメーカーはトヨタだけです。

しかし、そのトヨタでもあくまで"当社比"の相対的な評価しか書いてありません。
しかも、絶対的な尺度であるかのようなミスリードを誘うような記述になっています。

代表的エコカーであるプリウス・プリウス PHVに至ってははなぜかCO2しか載っていません。
何か不都合な真実でもあるのでしょうか?

ダイハツはトヨタ向けにOEM供給をしていて、当然詳細な資料を提供しているはずですが自社HPでの公開はしていません。
(スバルもOEM供給していますが86の環境仕様にLCAは載っていません)

相対比較ではメーカー・車種を跨いだ比較が出来ないので絶対的な尺度に変えて欲しいほしいです。

企業としてLCAを算出する際に見積もっているはずなので、ぜひ公表してほしいところです。


【最も環境に良い車ランキング】

2017年8月現在、LCAが公表されている車の中でLCAの優れている上位10車種を紹介したいと思います。

どのメーカーも相対的な表現しかしていないので換算しています。
精度は低いかもしれませんのでご了承ください。


〈算出方法〉

走行時のCO2排出量は燃費(JC08)からガソリン使用量を算出し、ガソリン使用量からCO2排出量を算出します。

CO2排出量は環境省の基準を適応します。

2.322kg-CO2/リットル(ガソリン)
2.619kg-CO2/リットル(軽油)

出典:燃料別の二酸化炭素排出量の例 環境省
https://www.env.go.jp/council/16pol-ear/y164-04/mat04.pdf


NOx、PM、NMHCは制御次第で変わってしまいますが、SOxは燃料に含まれる硫黄量に比例するので、走行時SOx排出量を燃費(JC08)から算出ます。

使用量(リットル)×密度(単位:g/cm^3)× 含有する硫黄分の成分の割合 × 分子量割合

ガソリン密度:0.74g/cm^3
軽油密度:0.82g/cm^3

出典:自動車用ガソリン 石油連盟
http://www.paj.gr.jp/statis/kansan/

硫黄含有率:10ppm=0.00001

出典:サルファフリー 石油連盟
http://www.paj.gr.jp/eco/sulphur_free/

分子量比:64 / 32
硫黄(分子量32)→二酸化硫黄(分子量64)


ガソリンのSOx排出量(kg) = 使用量(リットル)× 0.74 × 0.00001 × 64 / 32
軽油のSOx排出量(kg) = 使用量(リットル)× 0.82 × 0.00001 × 64 / 32

NOx、PM、NMHCはSOx排出量から算出します。

NOx、PM、NMHC、SOxは環境負荷が大きい(人体に影響する)のでCO2排出量とのバランスを考慮して100,000倍したものをCO2と合計したランキングになっています。

1位 ピクシスエポック(=ミライース)
CO2:9043.71 kg NOx:0.0757kg PM:0.1360kg NMHC:0.0252kg SOx:0.0740kg 計9354.622kg

2位 レクサスHS
CO2:17471.36kg NOx:0.0139kg PM:0.0040kg NMHC:0.0052kg SOx:0.0157kg 計21355.461kg

3位 アクア
CO2:9800.31kg NOx:0.0876kg PM:0.0159kg NMHC:0.0269kg SOx:0.0816kg 計30994.404kg

4位 ピクシスジョイ(=キャストアクティバ)
CO2:10578.00kg NOx:0.0822kg PM:0.0164kg NMHC:0.0308kg SOx:0.0863kg 計32161.333kg

5位 ヴィッツハイブリッド
CO2:10249.49kg NOx:0.0933kg PM:0.0175kg NMHC:0.0292kg SOx:0.0898kg 計33221.937kg

6位 カローラアクシオハイブリッド
CO2:10833.61kg NOx:0.0986kg PM:0.0167kg NMHC:0.0278kg SOx:0.0903kg 計34169.150kg

7位 カローラフィールダーハイブリッド
CO2:11234.45kg NOx:0.1033kg PM:0.0162kg NMHC:0.0310kg SOx:0.0945kg 計35734.706kg

8位 ワゴンR
CO2:9633.62kg NOx:0.0997kg PM:0.0266kg NMHC:0.0476kg SOx:0.0931kg 計36331.223kg

9位 ヴィッツ
CO2:12345.08kg NOx:0.0980kg PM:0.0140kg NMHC:0.0292kg SOx:0.0991kg 計36369.758kg

10位 パッソ
CO2:11333.57kg NOx:0.0899kg PM:0.0190kg NMHC:0.0507kg SOx:0.0951kg 計36810.714kg


小さくて軽い車が有利ですが、やはりハイブリッド勢が上位を占めています。

軽自動車同士のワゴンR(33.4km/L)とピクシスジョイ(30km/L)の比較では単純な燃費ではワゴンRの圧勝ですが、LCAだと逆転する現象が起きています。

2位がレクサスHSなのがとても意外でした。
カーボンニュートラルな植物由来原料のプラスチックの使用量が多いのが功を奏しているのだと思います。


【各ステージごとの排出量の比較】

〈CO2〉
走行時の割合が最も多く(60~70%)、続いて素材製造(15~20%)、続いて車両製造(7~10%)。

CO2排出は燃料の量に比例するため燃費から計算される排出量がそのまま反映されます。

実燃費がモード燃費よりも悪いし、使用年数も想定の10年よりも長いので本来の走行時排出の割合はもっと大きいと思われます。

〈NOx〉
走行時の割合が多い(40~50%)のはCO2と同じだが、CO2程大きな割合を占めていない。
続いて素材製造(30~40%)、続いて車両製造(9~12%)です。

〈SOx〉
CO2を除いた排出量はSOxが最も多いです。
燃料に含まれる硫黄分が燃焼時に排出されるので、燃費に比例して排出されます。
燃料に含まれる硫黄分は10ppm以下ですが、走行時に排出される割合が最も多く(45~60%)、続いて素材製造(34~50%)、続いて車両製造(4~5%)です。

〈PM〉
他の排出ガスと違い、走行時の排出量はほとんどなく(2%)、大半が素材製造時に排出されます。(80~90%)
時点は車両製造時(6~7%)です。

〈NMHC〉
この排出ガスだけ車両製造の排出量が最も多く(47~50%)、続いて走行時(27%)、
続いて素材製造(15~25%)です。


【ハイブリッドは本当に環境に良いのか?】

ガソリン・ハイブリッドがともにあるノア・ヴォクシー・エスクァイアを例にとって考えてみたいと思います。


1.8Lガソリン:2.0Lハイブリッド
左から素材製造、車両製造、走行、メンテナンス、廃棄、合計

<CO2[kg]>
3063.462:3252.101、1375.962:1541.833、14512.500:9756.303、233.654:233.218、467.308:466.437、19652.885:15249.891

<NOx[kg]>
0.044:0.050、0.013:0.015、0.079:0.058、0.004:0.004、0.006:0.006、 0.146:0.133

<SOx[kg]>
0.055:0.067、0.006:0.006、0.093:0.062、0.004:0.002、0.002:0.002、0.159:0.140

<PM[kg]>
0.023:0.031、0.002:0.002、0.001:0.001、0.001:0.001、0.001:0.001、0.027:0.035

<NMHC[kg]>
0.007:0.010、0.026:0.020、0.013:0.011、0.001:0.001、0.001:0.001、0.047:0.042


〈総合的な傾向〉

総合的にはハイブリッドカーのほうが環境負荷が小さいです。

ハイブリッドカーは素材製造、車両製造、メンテナンス、廃棄の環境負荷が高いです。

これはハイブリッドカーが材料を多く使うことの表れです。

しかし排出ガス全体で見ると走行の環境負荷が大きいです。

走行時が優れているハイブリッドカーは、この部分で取り返していると考えて良いでしょう。

〈PMだけはハイブリッドが不利〉

CO2、NOx、NMHC、SOxの排出量がハイブリッドではガソリンより良いですが、PMだけはガソリンの方が良いです。

PMの内訳を見ると走行時の排出量はごくわずかで、素材製造時が最も多く排出しています。

素材製造のCO2、NOx、PM、NMHC、SOxの排出量を見るとほとんど同じ傾向が読み取れます。

すなわち、素材製造では排出ガスの種類ごとの差はほとんどなく、使われる材料の量に比例して一定の割合で排出される傾向にあることがわかります。

そしてPMは優れたエンジン制御が排出を抑制していることで走行中に出ることはほとんどないです。
走行で排出される量がとても小さい分だけ特出した形になっています。


【あとがき】

分析してみると、電気自動車リーフや水素燃料電池自動車MIRAIなどの違ったパワートレインの絶対値が分からないのが惜しいです。

メーカーの相対評価は改善傾向の説明には使えますが、車社会全体から見てどうなのかが分かりません。

絶対量を必ず見積もっているはずなので、公表してほしいです。

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