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X-by-wireとは

【はじめに】

エックス・バイ・ワイヤと読みます。

Xは代数記号の変数の意味で、様々な装置の名前が入ります。

バイワイヤと略されもします。


【どんなもの?】

ワイヤーは電線の事です。

ピアノ線や鋼線のことを指しているわけでは無いです。

通常、物理的なリンク機構や歯車、油圧などを使って操作系の伝達を行なっていた部分を、電気信号に置き換えて伝達することを言います。


【名称について】

航空機のフライ・バイ・ワイヤにちなんでドライブ・バイ・ワイヤなどと呼ばれた事もあります。

車の操作系は部分的にバイワイヤ化された経緯があるため、装置ごとの個別の名称で呼ばれることが多いです。


【X-by-wireのメリット】

人力で動かしていた部分をアクチュエータによる駆動にすることで、操作系を軽くできる他、遠隔操作も可能になります。

制御性の自由度が高くなるため、従来よりもよりきめ細やかな制御が行えるようになります。

駆動力を直接伝える必要がないので部品配置の自由度が高くなります。

機械的に繋がっていないので操作系に伝わるバックラッシュを無くすことが出来ます。

また、人の手による操作を完全に排除できるため、人の誤操作による事故を防ぐことが可能になります。


【X-by-wireのデメリット】

単純にアクチュエータが増える方向なためコストが高くなります。

電気的な不具合で機能が低下もしくは不能になる可能性が高くなります。

人がそれまでの機構を通じて感じ取っていた感覚もフォースフィードバックアクチュエータ越しに伝わるため、感覚に不自然さが起こる可能性があります。

通信性能やアクチュエータの応答性が十分に高くない場合は、タイムラグが発生します。


【代表的なバイワイヤ】

〈スロットルバイワイヤ〉

昔はアクセルペダルとスロットルバタフライは鋼線のワイヤーで繋がれていて、ペダルを踏むとワイヤーが引っ張られてバタフライが回転する仕組みでした。

これをモーター駆動に置き換えて、電子制御するようにしたものです。

電子制御スロットル(略して電スロ)とも呼ばれます。

昔の鋼線の仕組みでは、アイドル回転の制御にISCバルブという別のバルブを使っていましたが、電スロではISCバルブの代わりも出来るのでISCバルブを省略することでコスト的にも合うようになったため広く使われます。

クルーズコントロールの車速維持制御に使われる他、トラクションコントロールでは出力抑制に使われ、姿勢制御でも使われます。


〈シフトバイワイヤ〉

ATの変速段の制御は初めからユーザーの操作が不要です。(だってそれがATなんだから)

では、何が電子制御に置き換わったのでしょうか?

答えはPレンジです。

AT車のシフトレバーは電化的なスイッチだけでなく、鋼線のワイヤーでPレンジのロック機構を作動させていました。

そのためレバー操作には大きなストロークを設ける必要性があり、あのようなストレート形状をしています。

現在の離すと中央に戻るジョイスティックタイプやボタン式やダイヤル式などはこのシフトバイワイヤが必須です。


〈ブレーキバイワイヤ〉

ブレーキは車の制動を担う重要な装置です。

これが故障すると車は暴走します。

そのため現在のブレーキバイワイヤでは油圧系統を十分に残した形で実装されています。

ブレーキバイワイヤでなくとも油圧回路の間にモーターによる加圧をする仕組みはESC(Electronic Stability Control=横滑り防止装置)で実現されています。

イメージ的にはブレーキペダルからの圧力orストローク検知で油圧をアクチュエータで発生させる構造のものが多いです。

ハイブリッドカーでは回生ブレーキとメカブレーキの効きのバランスを調整するために使われます。

回生ブレーキは状況により制動力が変化するため、従来のメカブレーキと組み合わせると制動力にバラツキが出て違和感を覚えてしまうからです。


〈ステアバイワイヤ〉

ステアバイワイヤの技術は近年でも限られた車にしか搭載されていません。

ステアリングの物理的な機構を残すものもあれば、完全にアクチュエータ任せのものもあります。

アクチュエータ任せのものは路面からのフィードバックを正確に伝えることが難しかったり、タイムラグが出たりします。


【フェイルセーフとX-by-wire】

X-by-wireは以前の機械的な機構が持っていた安全機構をサポートする必要があります。

例えばパワーステアリングが故障しても人力で思いっきり曲げてやれば舵を切ることは出来ます。

ブレーキアシストが効かなくなっても、思いっきりブレーキペダルを踏み込めばブレーキは効きます。

スロットルペダルワイヤーが切れても、スロットルのバネで自動的に閉じ方向になり、エンジンの出力は抑えられます。

しかしX-by-wireではそれらの仕組みは無くなってしまうので、代わりの仕組みが必要になります。


【X-by-wireのフェールセーフ】

いくつかの方法でフェールセーフが組み込まれています。

〈制御線の多重化〉

バイワイヤで使う制御線を多重化し、片方が機能不全になったとしても、もう片方が生きていれば機能するようにします。


〈従来機構との切り替え〉

例えば通常時は従来機構がクラッチで切り離されていて、制御機構に不具合があるときは自動的にクラッチが繋がって、予備システムとして機能するようにします。

ただし、従来機構が残る関係上、部品配置の自由度は上がりません。


〈制御機構の多重化〉

バイワイヤだけでなく、従来機構とは別の手段で多重化します。

例えばステアリングをジョイントによる力の伝え方からワイヤーリンケージによって力を伝えるようにすると、物理的には繋がっているものの部品配置の自由度は上がります。


【あとがき】

自動運転のための技術が進歩を遂げるためにはバイワイヤ化が必須です。
(と言いつつ電気自動車になると多くのバイワイヤが必要なくなりますが)

私のように古い人間から見ると、信頼性に関しては機械仕掛けなものよりも、どうしても一歩見劣りしてしまいます。

計算された信頼性よりも、直感的な安心感を拠り所にしてしまうのでしょう。

しかし、老化や身体の欠損など、自ら運転できなくなるようになると、こういった技術に頼らざるを得ません。

当事者意識は当事者になってもなお目の前に来ないと実感出来ないのが厄介なところです。


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