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行けば行くほど自然が豊かになる旅とは?


目指すのはリジェネラティブな営みをサポートする旅

sustainability for tourism? tourism for sustainability?

旅とサステナビリティ(持続可能性)の関係については、それなりの時間をかけて考えてきました。

初めは、取り扱い方面の島々の集落で、その場所らしい暮らしが成り立たなくなっていくと、目的地が減っていってしまうーそんな懸念を抱いたことがきっかけでした。
だから「旅を通じて地域のサステナビリティ(持続可能性)を高めるにはどうしたらいいか?」というのが当初考えていたことです。

その後オンラインのラーニングコミュニティに所属したりしてサステナビリティについて学ぶうち、ちょっとずつ力点がシフトしてきました。

「旅を通じて地域のサステナビリティ(持続可能性)を高めるにはどうしたらいいか?」という姿勢は、100%そうとは言わないまでも、ある程度、 "sustainability for tourism" の要素があります。
これはまだ自産業中心の考え方で、本来は"tourism for sustainability"であるべきではないか、と考えるようになってきたのです。

じゃあ tourism が貢献すべき sustainability の中身ってなんだろう?という問いが、今度は残りました。

持続可能な観光国際基準を学ぶGSTCサステナブルツーリズム研修

そんな中、今年(2023年)の5月にちょうど機会がありまして、GSTC(Global Sustainable Tourism Council)という世界的なサステナブルツーリズムの団体の研修を受けることができました。

実地研修で乗車したスカイホップバス

研修で学べたこと・得られたことは色々ありますが、一番気付かされたのは、国際的な基準への準拠はマネジメント・システムであるということです。
つまり、サステナブルツーリズムの基準を満たすための項目は様々あれど、

  • 項目に定められた内容を自社としてどう解釈するか

  • 項目のうち何をどこまでできているか、今後どうしていくか

  • その解釈や取り組み状況をオープンにして、利用者や受け入れ先・社会一般とコミュニケーションしながら、前進し続ける

ことが大事だということです。

そうなると、個々の項目についてどこまでやるつもりで、今はどこまでできているのか、自社としての長期的な到達点を見定めなければなりません。
そして個々の到達点を決めるためには、全体としてどこを目指すか?というスーパーゴールが必要になってきます。

ここに至り、たとえ国際的に認められる基準に準拠するにしても、結局 "tourism for sustainability" の for 以下の "sustainability"をどう考えるか、自分で考えて答えを出すしかない、というところに立ち返ってきたのです(注)。

「リジェネラティブな営みをサポートする旅」

外の権威に答えを求めるという近道があえなく断たれたところで、tourism が貢献すべきサステナブルの中身について、現時点での自分の定義を定めるなら
(その場所の)自然を豊かにするような人の生活・暮らし方が続いていくこと」
としました。

ということで tourism for sustainability の中身を具体的に言うと
「リジェネラティブな営みをサポートする旅」
になります。

なんでこうなったかという理由を以下に続けたいと思います。

なぜ"リジェネラティブ"か?

”リジェネラティブ”ー日本語では「環境再生型」と言われたりします。
その意味は『〇〇しながら自然環境を再生するような』といったところでしょうか。
よく聞くところでは、農業とくっついて、耕作しながら自然環境を良くするような農業の方法を”リジェネラティブ農業”と呼んだりします。

雄勝のMORIUMIUSで始まったリジェネラティブ農業は緑肥で土壌を改良することから始まりました

サステナブル/サステナビリティが派生した元の言葉”サステイン”(sustain)の根っこの意味は、下から支えて続くようにする、ということだそうです。

その時支えて続くようにする対象が、今現在の状況、すなわち現状維持のままでは、地球環境が人を含む様々な生き物にとって生きづらいものになっていくことを止められないでしょう。
一番分かりやすい温暖化を例にとれば、今の水準のCO2排出を続ける限り、気温の上昇は停止せず進んでいってしまうのですから。

だから自然環境に対するプラスマイナスゼロを”サステイン”しても、これまでの累積の効果や、現状がすでに地球にとって回復しきれないほど高い水準の負荷になってしまっているため、自然環境は悪化し続けてしまうことになります。

だとしたら、自然環境にプラスの影響を与え続けない限り、人や生き物が生き続けることはますます難しくなるでしょう。

いわば戦略レベルでのサステナビリティを実現するには、戦術レベルではリジェネラティブでなければならない、ということです。
これがリジェネラティブでなければサステナブルにならないという結論に至った理由です。

なぜ"営み"か?

続いてなぜ”営み”なのか、という理由です。

自然環境は放っておけば良くなるかというと、決してそうとは限りません。

遷移という言葉を聞いたことはありますか?ある場所に生息する生物種が時間とともに変化していく過程のことを指します。
この遷移、行きつくところまで行くとその場所の気候や地質などの条件にあった特定の種が優勢になり、他を圧倒・駆逐してしまうことがあります。
そうなると生物量は多くても、種の多様性が少ないという状況が生じます。

この状況は外的ショックに弱くリスクが高い状態です。優勢な種の天敵が急に現れたり疾病が流行ったりすると、一気に絶滅しかねません。

これに対して多様な種が微妙にバランスを取りながら共存・共在している状態は、確率的には成立しづらく貴重であるばかりか、外的ショックにも強く(淘汰される種もあるかもしれないが全滅することはない)、より良い自然環境と言えます。

人新世と呼ばれるような時代より前、自然が人間の管理対象ではなかった頃には、人間も自然の一部として存在し、相互にバランスを取り合う関係にありました。
その場所に固有の自然環境と折り合いをつけなければ暮らしが成り立たず、その過程が各地の習俗や文化を形づくってきました。
人間の営みが自然の手入れになるような関係があればこそ、その地域・住民は生き抜いてこれたのです。

屋久島・白谷雲水峡の登山道の修復現場

そうした人と自然の関り合いが、自然環境を守るうえでも、文化の多様性を守るうえでも不可欠だからこそ、”営み”が大切だと考えています。

それにこの”営み”は、その場所でしかできない体験、その場所でしか触れられない価値観との出会いをもたらし、きっとこれからの旅の醍醐味になっていくのではないでしょうか。(アドベンチャーツーリズムはこの考え方に近いものだと思っています。)

旅のミライへ

ということで、繰り返しになりますが今ゴールとして目指すのは「リジェネラティブな営みをサポートする旅」です。

トヨタは「走れば走るほど空気がきれいになる車」を目指し、実際に新型MIRAIを生み出しました。

比べるのもおこがましいですが、旅でも目指していけば、きっといつかは「行けば行くほど自然が豊かになる旅」にたどり着けるのではないかと思います。

技術的に出揃っていないものもまだまだあり、到達するのは簡単ではないでしょう。だから何もしないというのではなく、できることから旅のミライを目指して一歩一歩進んでいきます。

どんな一歩を踏んでいくのかという考察は、また稿を改めて。
長々とした文章を最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

(注)GSTCの設立を支援した国連世界観光機関(UNWTO)によるサステナブルツーリズムの定義はあります。
「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」
しかしこの定義も観光や tourism がサステナブルであるために満たさなければいけない条件を定めたもので、観光や tourism がその実現に貢献する手段であると捉えた時にサステナブル /sustainability が確保された状態とはどのようなものかについては言及していません。


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