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Book Guide 3 ── 「まち」の、”まだ分配されていない”未来

多様な視点を持つゲストを招いてお届けしているデジタルZINE「まちのテクスチャー」シリーズ。登場いただいたゲストの方々に、「まちを読む」というテーマで選書をお願いしました。それらの選書を3回にわけて紹介する第3回。過去の記録や記憶、あるいはすでに私たちが“知っている”と思い込んでいる事実と未来の存在とは ──。あまりにも有名な、SF作家ウィリアム・ギブスンの〈未来はすでにここにある。ただ均等に行きわたっていないだけだ〉という至言のように、“いまここにあるもの”に、すでに未来の破片が潜んでいることを知る5冊と1作。

Photography by Noriko Matsumoto

『みんなが手話で話した島』 ノーラ・エレン・グロース 著 /  佐野正信 訳〈早川書房〉

20世紀初頭まで誰もがごく普通に手話を使って話していた ── アメリカ・ボストンの南にあるマーサズ・ヴィンヤード島の当時を知る人たちの証言を集めながらその島の社会文化を追った本書には、(音の届かないくらい)遠くの船乗りたち同士で手で会話をすることや、郵便局に集まり手話で話す際の身体の使い方など、〈言語からなる様式〉が自然にうまれてきた様子が描かれている。今回、私たちの街歩きもまた言語からなる様式が発見される場となった。確実に存在する、多様な身体や言語からうまれてゆく幾多もの都市の空間活用。発見を積み重ねていくことから、変わりゆく都市に期待を込めて。【ノンフィクション】(選 / 和田夏実さん、牧原依里さん、西脇将伍さん)


『パブリックライフ学入門』  ヤン・ゲール、ビアギッテ・スヴァア 著 / 鈴木俊治、高松誠治、武田重昭、中島直人 訳〈鹿島出版会〉

パブリックライフとパブリックスペースの相互作用に気づくための、ツール、アイデアが盛り込まれた本です。人間主役の街づくりの重要性が謳われる一方、実際どのように都市や街、空間をデザインしていくか。
街の課題を完璧に抽出することは難しいけれど、利用者のニーズや都市空間の利用状況を観察し明らかにすることは可能であると、街づくりを自分自身で考えて捉えなおすためのエッセンスが詰め込まれてます。
「視て、学ぶこと」。この本は、ただ読了することが目的ではありません。ぜひ本書を手に取り、いつもと違う視点で街に出かけてみてください。【評論】(選 / 梶谷萌里@NTT都市開発 都市建築デザイン部)


『せいめいのれきし』 改訂版 バージニア・リー・バートン 文・絵 / いしいももこ 訳 / まなべまこと 監修〈岩波書店〉

地球が誕生してから今この瞬間までの生命のリレーが、演劇の舞台に見立ててファンタジックに描かれる絵本。長い雨期や氷河期といった地球の変化に呼応するように、さまざまな動物や植物が力強く描かれています。初版刊行から約半世紀を経て、2015年には現代の知見をもとに内容が一部改訂されていることも特徴です。
最初のページでは各時代の”主役”が紹介されます。三葉虫・恐竜・両生類などと並んで「人類」が記載され、私たちは長い歴史のほんの一部の存在だと気づかされます。
「さあ、このあとは、あなたのおはなしです。主人公はあなたです。」
最後に書かれたこの言葉を受け取る時、地球の変化を眺める観客から地球の歴史を彩る演者へとスイッチするような感覚を覚えます。【絵本】(選 / 吉川圭司@NTT都市開発 デザイン戦略室)


── Further Reading ──

『家は生態系―あなたは20万種の生き物と暮らしている』 ロブ・ダン 著 / 今西康子 訳〈白揚社〉

人間の家は、自然界でも珍しい極限環境と、自然界には珍しいほど穏やかな環境が、小さな容積に混在している。人間にとっては充分に掃除された屋内であっても、自然界でめったに見られない種からありふれた種まで、実に多様な生物が息づいている。
あなたは決して「一人暮らし」の家で一人(一個体)にはなれないし、健康のためには基本的にはその方が良い。この本のこうした記述は、腸内細菌や表皮常在菌の量と、免疫機能との有益な関係についての近年の新たな常識とも合致する。
この本で最も印象的な言葉が、「私たち人間は、行った先々に生物の大群を残していく(序文より)」。人類は今も昔も、いや、都市を造り、有人宇宙船を打ち上げるようになったいまこそ、生態系の「種まき人」なのだということを教えてくれた本である。【自然科学】(選 / 竹村泰紀さん)

『アースダイバー』 中沢新一 著〈講談社〉 【人文科学】(選 / 平野紗季子さん)

『電脳コイル』  原作・脚本・監督: 磯 光雄 / 2007年 / 日本  【アニメ】(選 / 番匠カンナさん)


主催&ディレクション
NTT都市開発株式会社
井上 学、權田国大、吉川圭司(デザイン戦略室)
梶谷萌里(都市建築デザイン部)

企画&ディレクション&グラフィックデザイン
渡邉康太郎、村越 淳、江夏輝重、矢野太章(Takram)

コントリビューション
深沢慶太(フリー編集者)