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「都市と生活者のデザイン会議」 ①キックオフ座談会

街づくりの未来を探る視点から、国内外でのフィールドリサーチや、各界のトップランナーとの対話などを展開してきたNTT都市開発のデザイン戦略室。
そして、変化し続ける都市と生活者の関係に着目し、いち早く未来の兆しを捉えるべく、多角的な調査研究活動を行ってきた読売広告社の都市生活研究所
異なる視点や知見を掛け合わせ、さらなるビジョンを拓きたい。ここに、業種を超えた共同研究プロジェクト「都市と生活者のデザイン会議」が発足しました。
生活者の意識変化とこれからの街づくりは、果たしてどこへ向かうのか。新型コロナウイルス感染症の影響が全世界へ広がる状況のなか、オンラインで実施されたキックオフ座談会の模様をお届けします。
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<座談会参加メンバー>

NTT都市開発株式会社 デザイン戦略室
(以下NTTUD)
井上学、權田国大、吉川圭司、堀口裕

株式会社読売広告社 都市生活研究所(以下YOMIKO)
水本宏毅、城雄大、小林亜也子、森本英嗣


両者の共感から生まれた共同研究プロジェクト


ーーはじめに、「都市と生活者のデザイン会議」の発足経緯と目的について教えてください。

YOMIKO 城 発足のきっかけは、私たち都市生活研究所の視点から、NTT都市開発が手掛けた二つの事例に心惹かれたことに遡ります。旧京都中央電話局を改修した複合施設「新風館」と、京都市の元清水小学校跡地を活用したホテル「ザ・ホテル青龍 京都清水」はいずれも2020年の竣工事例ですが、都市空間のあり方を考える上で非常に実験的かつ意欲的なアプローチが盛り込まれている。ぜひヒアリングにうかがいたいと考えていたところ、デザイン戦略室の「note」記事を拝読して、大いに共感を覚えるところがあり、何かご一緒できないかとお声がけをさせていただいた次第です。

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NTT都市開発が開発・運営を手がける「新風館」(京都市中京区/2020年開業)。エースホテル京都、映画館のアップリンク京都、飲食店などが入居する複合施設。レンガ造りの旧京都中央電話局(1926年竣工)の歴史ある建物を受け継ぎながら、隈研吾建築都市設計事務所による建築デザイン監修のもとに新たな形で生まれ変わらせた。(Photo: © Forward Stroke inc.)

NTTUD 吉川 ありがとうございます。私たちとしてもお声がけをいただいて、都市生活研究所のサイトを拝見したところ、街に対する視点や考え方に通じるものがあると感じました。特に感銘を受けたのが、“生活者の視点”を重視している姿勢です。なぜ、このようなアプローチに至ったのでしょうか?

YOMIKO 城 私たちの活動の核心につながる話ですが、都市生活研究所の目的は、都市と生活者が織りなす潮流を捉え、未来の兆しを読み解くこと。背景としては、時代とともに変化のスピードや多様化の流れがますます加速し、従来のマーケティングや調査の手法ではその兆しを捉えたり、人々の意識に応える施策が難しくなってきていることが挙げられます。その上で、未来は突然訪れるものではなく、すでに今現在の都市と生活者の中に顕れているというのが、私たちの理念です。そこで、私たちなりに「The Future is Already There in The City」という言葉を掲げ、都市の中にある生活者の未来の潮流を見つけ出し、企業や社会に貢献するべく研究に取り組んでいる次第です。

NTTUD 吉川 まさしく同感です。これまでの開発事業は一般的に、行政による上位計画やエリア単位のマーケット調査などマクロな視点に基づくものがほとんどでした。しかし、こうした一方的な開発のあり方を見直す機運が高まり、デベロッパーとしても自らの役割や目的を街の人々にきちんと伝え、関係性を深めていく必要性を感じているところです。この流れのなかで私たちデザイン戦略室も、生活者というミクロな視点からその土地の文化や歴史を読み解き、求められる街の方向性を探るべく活動してきました。

YOMIKO 城 街づくりを考える開発者の視点と、私たち広告会社の視点が、ここで重なり合ったわけですね。アメリカのジャーナリストで都市活動家として知られるジェイン・ジェイコブズは「都市は生き物であり、常に変化し続けている」と述べていますが、ぜひそれぞれの視点から、都市と生活者を巡る大いなる変化や関係性について探っていきたいと思います。


異なる視点を掛け合わせ、さらなるインサイトを導き出す


ーー両社の目的意識の共通項をここから深掘りしていく上で、それぞれの組織の概要について説明をお願いします。

NTTUD 吉川 デザイン戦略室は元々、NTT都市開発のブランドマネジメントに取り組むための部署として2015年に創設されました。人々の暮らしが量的に満たされた今、あらゆる面で質や価値を捉え直すことで、弊社のブランド力や街全体の資産を継続的に高めていかなければならない。その活動の一端を、国内外でのフィールドリサーチやキーパーソンへのインタビュー、識者によるトークイベントのレポートなどの記事に落とし込み、この「note」上で発信してきたというわけです。

YOMIKO 水本 読売広告社は広告会社として企業や社会のマーケティングやイノベーション活動に取り組んできましたが、それは都市と生活者の関係性を見つめ、未来の兆しを見出すところから始まります。都市生活研究所のミッションは、この都市と生活者の関係性、即ちインタラクションを探ることにあります。組織的には、都市の歴史や新たな潮流をいち早く捉えることに軸足を置いた「都市インサイト研究ルーム」と、生活者の意識や行動の変化など人に軸足を置いた「生活者フォーサイト研究ルーム」の二部署で構成。研究領域としては、都市に対する市民の誇りや愛着をひも解く「シビックプライド研究」、世界における都市再生事例を分析する「再生都市研究」、次の時代に必要とされる場や空間を考える「次世代サードプレイスの潮流研究」などが主な対象として挙げられます。

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読売広告社 都市生活研究所の活動より、シビックプライド研究会の研究成果を集約した2冊の書籍。
(左)「シビックプライド―都市のコミュニケーションをデザインする」
(右)「シビックプライド2【国内編】―都市と市民のかかわりをデザインする」
(監修:伊藤香織、紫牟田伸子/編集:シビックプライド研究会/発行:宣伝会議)

NTTUD 井上 まさに、私たちが着目している街づくりのあり方にも通じるご活動だと思います。具体的には、社会・都市・自然の接点で営まれる人々の暮らしにフォーカスしていくアプローチ手法。次に、生活者や市民という言葉の捉え方が従来の消費者的な位置付けから新たな価値の創造者へと変化していくなかで、人々の社会参画を促進しながら共同でコモングッド(共通善)を追求していく姿勢です。私たちにとっては「街は誰のためにあるのか」という原点に立ち返って考える姿勢にもつながる話だと思います。

NTTUD 吉川 その上で私たちが重視しているのが、広い意味での“デザイン”です。この場合のデザインとは建物の形だけを表すのではなく、街の人々との共創のプロセスや考え方、よりよいアウトプットにつながるマネジメントなどを含めた方法論のこと。デザイン戦略室はその方法論をとおして、社内外のブランド価値の向上や、新たな街づくりのあり方を切り拓こうとしています。

YOMIKO 城 実は私たちも、これからの豊かな生活を考える上で、プロセスがより大きな意味を持つと考えています。例えば「次世代サードプレイスの潮流研究」のテーマの一つは、人と人、人と空間など、さまざまな関係性のプロセスをどうデザインするか。つまり、場や人々が織りなすプロセスこそが重要だということですね。

NTTUD 權田 はい。型にはまった方法を当てはめていくのではなく、その土地や人々に求められる場のあり方をどうデザインするかーーデザイン戦略室ではそれを「コピペじゃない街づくり」と呼んでいるのですが、そのための方法論が今まさに求められているのだと思います。


第1弾企画は “3誌の編集長との対話” に決定


ーーこうして発足した「都市と生活者のデザイン会議」ですが、第1弾の取り組みとして、雑誌メディア3誌の編集長との対話取材を行うことになりました。その理由と目的について、教えてください。

YOMIKO 城 両社による話し合いを進めてきたなかで、共通する課題意識を「生活者の意識変化とこれからの街づくり」という言葉に集約できることがわかりました。では、この非常に広範な領域のなかで、具体的にどんな論点を掘り下げていけばいいのか。例えば、先進的な場づくりに取り組んでいる建築家やコミュニティデザイナー、新しいワークプレイスのデザイナーや運営者など、注目すべき事例やキーパーソンの視点をひも解いていく方法もあるでしょう。でも私たちは手始めとして、雑誌メディアの編集長の視点に学びたいと考えました。その理由は以下のとおりです。
まずは、メディアとしての視野の広さ。各雑誌ごとに専門的なテーマを持ちつつも、マクロな視野のもとに多角的な情報収集や取材を行っていることです。次に、社会が大きな変革期を迎えるなかで、その変化をさまざまな切り口で捉え、独自の分析を続けていること。そして、このような膨大かつ複雑な情報を的確に整理し、人々へメッセージを伝えていく編集の力。こうした視点やアプローチによって、社会における大きな変化の潮流をあらためて捉えることで、私たちが向き合うべき課題の“発見”につながるのではないかと考え、今回の企画に至りました。

NTTUD 堀口 これはあらゆる業種にいえることだと思うのですが、時代の流れとともにライフスタイルが多様化し、リアルな場や空間の持つべき意味が大きく変わりつつあるなかで、どうやって人々の生きる目的に寄り添っていくべきかが問われています。デベロッパーとしても、コロナ禍の拡大によってリアルな場の必要性が大きく問い直されている状況に対し、生活者が求める場とは何かを見定め、その価値基準を新たに言語化していく必要がある。この言語化の部分においても、雑誌の編集長の方々が持つ知見からヒントを得たいと思っています。

YOMIKO 小林 その上で今回は、それぞれに異なる視点を持つ雑誌メディアと対話を行うことで、都市や生活者の実像を異なる角度から掘り下げられるのではないかと考えました。例えば『商店建築』は、創刊以来60年以上にわたって商空間を見つめ続けてきた雑誌。編集長の塩田健一さんはまさに、時代の変容に対するすぐれた感覚値をお持ちの方だと思います。
WIRED』編集長の松島倫明さんは、前職の書籍編集の頃から、今後の生活者の行方を探るべくアーリーアダプターやイノベーターにおける新たな潮流を見据えてお仕事をされてきた方。未来視点を提示し続ける雑誌としてのビジョンをうかがい、バックキャスティングの手法によって今なすべきことを学べるのではないかと考えています。
吹田良平さんはご自身の会社で『MEZZANINE』を創刊し、海外を含めた都市の変容を独自のスタンスから注視してこられた方です。世界の都市間競争などの背景から、それぞれの街をどう見ているのかをぜひ聞いてみたいですね。

NTTUD 井上 実は、私たちが日頃から取り組んでいる“場や環境を仕立てる”行為には、多分に編集とも重なる側面があるのではないかと感じてきました。編集という方法論自体にも、今後の街づくりにつながるヒントが隠されているように思います。

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対話取材を行う3誌の表紙。
(左)『商店建築』2021年4月号(発行:商店建築社)
(中)『WIRED』Vol.40(発行:コンデナスト・ジャパン)
(右)『MEZZANINE』Vol.4(発行:トゥーヴァージンズ)


異なる3誌との対話から、都市と生活者の未来を探る


ーー3誌との対話取材に向けて、具体的にどんな質問を投げかけてみたいと考えていますか。

NTTUD 堀口 3誌それぞれに、都市に対する視点のスケール感が異なるように思います。例えば『商店建築』は商業的な街の界隈というスケール、『MEZZANINE』は世界の都市、それに対して『WIRED』はネットワーク化されたスケールレスな視点になるのかもしれない。それぞれが考える都市の定義が今後どういう方向へ向かうのかを、掘り下げてみるのはどうでしょう。

YOMIKO 小林 『WIRED』の場合、多分にデジタル空間上の話も含まれてくるでしょうから、物理的な都市の場に限らず、より広い意味で都市と生活者の関係について聞いてみると面白いかもしれません。現実か仮想空間であるかを問わず、都市の役割がいかに人の暮らしや消費に影響を及ぼしていて、インパクトファクターになりうるのか、ぜひ聞いてみたいですね。

NTTUD 井上 都市と生活者の関係といえば、目的や機能だけにとらわれない視点も重要ですね。人と人との付き合い方もそうですが、目的を定めない、より自由で幸福な関係性があるはずです。コロナ禍の先に、密な交流の場としての空間はどんな意味を持ち得るのか。加えて地球環境の観点からは、リアルな場においてサステナビリティと収益性をどう両立できるのかも気になります。

YOMIKO 水本 広告会社の視点としては、まず先に生活者の意識や行動の変化を捉えた上で、そのために都市はどうあるべきか、という流れを前提としてきた経緯があります。ただ、両者のインタラクションという意味では都市の変化をまず捉えて、そこから生活者の変化を探るという入り方のほうがいいかもしれません。

NTTUD 吉川 生活者の意識変化が街にどう作用するのか、逆に街の変化が生活者にどう作用するのか……立場や見る角度によって流れや順序が変わってくるのが、とても面白いと思いました。その双方向の関係性をひも解くことで、広告会社としてもデベロッパーとしても、次に打つべき一手が見えてきたらいいですね。

YOMIKO 水本 人にせよ都市にせよ、捉え方のフレームワークが昔と今とでは変わってきているように思います。昔は大枠として社会的な価値があって、それを満たすライフスタイルのあり方を考え、そこから製品や素材を考えるという入れ子構造の捉え方が基本でした。でも今は都市と生活者の関係性を、より相似的に捉え直そうという流れになってきています。この両軸から考えていけば、ここから掘り下げるべき新しい問いも見つけられるはず。きっと面白い課題が浮かび上がってくるのではないでしょうか。

YOMIKO 城 このプロジェクトですが、将来的には多くの企業にも参画してもらい、蓄積した知見や研究成果を実際の都市空間に還元していけたらとも考えています。まずは、ここに集まったメンバーそれぞれの視点から3誌の編集長に質問を投げかけ、議論を深めていくことで、どんな気付きや展望が開けるのか。これまでにない試みだけに、今からとても楽しみです。


3誌の編集長への質問
(問1)生活者の意識変化と都市(場や空間)は、どのような関係にあるとお考えですか。
(問2)その関係は今後、どのように変化していくと思いますか。
(問3)そのなかで今後求められる場の役割や、街づくりの方向性について教えてください。


▶ 次回「都市と生活者のデザイン会議」
②『商店建築』編集長と考える
エモーショナルな街の姿とは?(前編)



実施日/実施方法
2021年2月2日 「Microsoft Teams」にて実施

「都市と生活者のデザイン会議」メンバー:
NTT都市開発株式会社 デザイン戦略室
井上学、權田国大、吉川圭司、堀口裕
株式会社読売広告社 都市生活研究所
水本宏毅、城雄大、小林亜也子、森本英嗣

編集&執筆
深沢慶太(フリー編集者)
イラスト
Otama(イラストレーター)


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